ロバの旅

緑帽 タケ

ロバの旅

「実は僕人間じゃないんだ」


 砂漠を歩いて四日、やっとのことでたどりついた人間の村にあった店を出て、ロバは首に下げたかごの中にいるお友達のカエルに言いました。ロバは旅をしていました。ロバのお父さんは列車の運転手さんで、ロバ生まれてからずっとその列車にのっていたのです。ロバはずっとほかのロバたちに囲まれながらのきゅうくつな毎日にがまんが出来なくなり、とうとうロバはこの生活がいやになりお父さんには何も言わず列車を降りてしまったのです。列車の外の世界は今までの生活とは違いました、まずご飯は勝手に出てきてくれません、お母さんお父さんが作ってくれたり、買ってきてはしてくれません。ここはロバひとりの世界です、ロバは自分でご飯を見つけなくてはなりませんでした。だけどこの砂漠の中で食べれるものは見つかりません。どうしたらいいかなーと困ったロバが大きな砂漠の上をあっちへ行ったり、こっちへ行ったりしていると、岩のうえで日向ぼっこをしていたカエルに人間の村にたくさんのご飯があると聞いて、彼の言う通り人間の村にいったのでした。


「だって僕は一度も僕の姿を見たことがないし、こんなに彼らと同じく話せるんだから、もしかしたら僕は彼らと同じ人間なんじゃないかと思ったんだ」

「何を言っているんだ、君はどこからどう見たってロバじゃないか」

「自分は特別な存在だと思っていたのにバカみたい」

「人間は同じ人間にしかご飯は売れないって言うんだ、なんてひどい奴なんだ、あぁもう歩けない歩きたくない……、歩けなければこの四本足も役に立たないよ、あぁ、どうして衝動にまかせてこんなことをやってしまったんだろう、僕はばかだ、今になって後悔して、きっとこれから先はもっとひどくつらい目にあうんだ、そんなのいやだ、もう死んでしまいたい」

「そんなこと言わないで、生きていれば何かいいことあるよ」

「あきらめないで、いろんな人に聞いてみようよ、中には人間以外の動物にも優しい人間もいるかも」

 カエルがそういうとロバの足にみるみる元気がやってきました。まだ希望が残っていたのです。

「ありがとう、キミ、本当に頭がいいね、よしやってみよう」


 ロバたちは村の広場にいる男に話しかけました。男はお昼からお酒の瓶をもってふらふらとよっぱらっていました。

「おねがいです、どうか僕たちに食べ物を譲ってはくれませんか?」

「食べ物?おれは食いモンなんかもっていないぞ」

「だが、食いモンをもらう方法ならしっているぞ」

「本当ですか?」

「だがタダでとはいわない」

「お金はらうのか……」

 ロバは男にお金を渡しました。男はそのお金をみてからにんまりと笑いました。

「一軒一軒ドアをたたいて回ればいいんだ、『どうか私たちにほどこしを……』てな、そうすりゃ迷惑に感じた奴が早くこの場から出ていくように飯やら金やらだしてくれるさ」

「でも、誰かの迷惑になるような事ってやっちゃっいけないんじゃ」

「あ?なんだお前、偉そうに俺に説教か?」

「だいたい教えてやっているのにその態度はなんだ、わざわざ俺が教えてやっているんだろ、俺がお教えさせていただいているのか?」

「何を偉そうにしている、金をもらっているのはあんたじゃないか」


 ロバが言うと、男は顔を真っ赤にしてどこかに行ってしまいました。ですがロバたちが男から聞いたことをやらないと、今日もご飯が食べられなくなってしまいます。ロバたちはしょうがなく、男が言ったようにするしかありませんでした。

 

 ロバたちは人に聞いて回りましたが、ご飯をもらえずに夜になってしまいました。


 次が最後だとロバは人間の住む家のドアをノックしました。

 出てきたのは人間の女性でした。

「なんだい、あんたらは」

「僕はロバです、たびをしています、もう何日もご飯を食べていません、どうか僕たちに食べ物を恵んではくれませんか」

「ロバのくせに図々しい奴だね、だいたいわたしはロバが嫌いなんだよ、お前らはいつも私が丹精込めて一生懸命に育てた畑を食い荒らすんだ、逆にあんたからその分の食い物を返してほしいくらいだね」

「そのことはあやまります、お願いですから何か食べ物を分けてください、もう何日もご飯を食べていないんです、もう死にそうなんです」

「……分かったよ、少し待ってな」


 そういうと人間の女性はご飯をもってきくれました

 

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「やっとご飯にありつけるぞ」

 カエルも嬉しそうでした。人間の女性にもらったご飯を食べようとしたとき、どこからか野良犬がやって来ました。

「おいおまえ、その飯を俺にくれ」

「どうして?」

「俺はお腹がすいていまにもたおれそうなんだ、わかったらいますぐその飯を俺によこせ」

「いやだね、僕たちもお腹がすいて今にも死にそうなんだ、それにそんなにご飯が欲しいなら自分で頼んでもらえばいいじゃないか、どうしてがんばった僕たちが損をしてただやってきた君が得をしなくちゃいけないんだ」

「いいからよこさないと痛い目にあうぞ」

「力があれば何をしてもいいとおもうなよ」


 ロバがそういうと犬はロバからごはんを無理やりうばってしまいました。ロバは犬の背中をくやしそうに見ることしかできませんでした。

 

「なんて恥ずかしい奴なんだ」

「僕もうお腹がすいてどうにかなりそうだよ」

 

 ロバたちは仕方がなく犬の後を追いかけました。犬はそこからはなれたひとめにつかない所でたおれていました。近くには食べかけのご飯があり、犬は泡をはいてしんでしまっていたのです。どうやらご飯には毒がまぜられていたようでした。

 

「どうしてこんなことをするんだ!」


 あいつにといつめようとしたが、あきらめた。どうせたいしたいみはない、たいしたりゆうなんてないんだ。

 

 ロバは怒りであたまが真っ白になりました。


 ただじゃまと感じたからやったんだ!自分の領分にやってきたら邪魔者扱い、あいつらが後からやってきたくせに!同じ動物だというのになんて傲慢な生き物なんだ!

 

 砂漠の夜の冷たい風をあびながら、結局ロバたちは村でご飯をもらえることはできずこの村をはなれてしまいました

 

「僕、列車に戻ることにするよ、もうこんな毎日はこりごり」

「でももうどこに列車がいるのかわからないよ」

「とりあえず列車のレールをさがそうよ、レールをたどれば列車が見つかるかもしれない」

「いいね、そうしよう」

 

 ロバたちはまた砂漠の中をさまようこととなりました。途中で落ちていた動物の骨を見つけとうとうロバの気がおかしくなりましたが、カエルがいっしょうけんめいロバに話しかけてくれていたためになんとか大丈夫でした。ですが前にすすんだら、すすんだほどロバにかけているその声がだんだんと小さく弱弱しくなるので、ロバは悲しくなりまた気がおかしくなりそうになりました。

 

 ロバはついに列車のレールを見つけることができました。

「やった!やったぞ!これで戻れる、あの苦しい時間から脱出できるんだ!」

「でも、どっちに歩けば列車に会うことができるかな……?」


 ロバの言葉にはだれも答えませんでした、カエルも答えてくれませんでした。ロバは少し前からカエルが何も話さなくなっていたのに気が付きました。

 

「カエル?」

 見るとカエルはかごの中で干からびてしんでしまっていました。

「なんてことだ!」

「あぁ!なんてことを!僕が何をしたっていうんだ!彼がなにをやったって言うんだ!こんなに優しい彼が死んで、どうしてあんなにも冷たい村の奴らがのうのうといきているんだ!」

「時間よ!時間よ止まれ!止まってくれ!お願いだ!!私の幸せをかえしてくれ!彼の時間をかえしてやってくれ!どうしてお前はあいつのもとに死神を連れてきたんだ!どうしていつもお前は私の幸せばかり奪っていくんだ!」

 

「生きていても何も良いことなんて無かった!!」


 ついにロバははっきようしてしまいました。ロバは狂ったように走りだしました。

 

「僕ももうすぐ死ぬんだ!死んでしまうんだ!怖い!さびしい!さびしい!僕はこのまま何もなせず、冷たい砂漠の風に吹かれながら、哀れにもだれにも知られず死んでいくんだ!!そんなのやだ!そんなのいやだ!」

 

 一晩中走り続けたロバはとうとう夜明けとともに力尽きてしまいました。

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ロバの旅 緑帽 タケ @midoribousi

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