勇者パーティーのタンク役兼雑用係の俺は『とりあえず』で追放された
温故知新
勇者パーティーのタンク役兼雑用係の俺は『とりあえず』で追放されました
「とりあえず君、今日限りで勇者パーティーを辞めてもらうから」
高難易度クエストを終え、報告がてら冒険者ギルドに帰ってきた直後、勇者パーティーの勇者兼パーティーリーダーのハルトから突然のパーティーからの追放宣言。
どうして、どうしてパーティーのために尽くした俺が追放されないといけないんだ?
急転直下の出来事にギルドにいた奴らが騒然とする中、俺は拳を握るとハルトを睨みつける。
「追放する理由を聞いても良いか?」
ソロの冒険者として活動していた俺は、『君は腕の立つ冒険者と聞いている。だから、とりあえず入ってくれ』と国王から勅命を受け、勇者パーティーの一員になった。
このパーティーは俺以外全員が異世界から召喚された奴らで、元の世界から仲良しだった彼らは全員が何かに突出していた。
パーティーリーダーである勇者ハルトは剣技と魔法なねどちらにも優れ、魔術師エマは膨大な魔力で全ての攻撃魔法を操り、聖女ツムギは回復魔法だけでなく補助魔法を扱うことが出来る。
そんな彼らを魔物から守るタンク役である俺は、彼らが『異世界から召喚された人間でこちちには不慣れなので』という理由で、索敵から道中の宿の手配に食料確保など、現地人としてあらゆる雑用を押し付けられた。
『とりあえず、俺たちの稼ぎになりそうなクエストを受けてきてくれ』
『野宿は嫌だから、とりあえず良い感じの宿を取ってね』
『とりあえず、美味しい物が食べられる店を探してきて』
『ダンジョンボスが出るまで、とりあえず雑魚の露払いを頼む』
『資金が底をつきそうだから、とりあえずあんただけでクエスト引き受けて』
『とりあえず、あなたはタンク役として私たちの邪魔にならないところで、私たちを守ってください』
最初は謙虚に俺のことを頼っていた彼らも、この世界に慣れるにつれて、次第に横柄な態度で俺に雑用を押し付けるようになっていった。
もちろん、慣れたタイミングで何度か彼らに進言した。
『この世界に慣れたのだから、いい加減クエスト受注や索敵などの雑用をしてくれ』と。
だが、彼らは『いやいや君、この世界の現地人なんだから、勇者パーティーのためにやることは当たり前だよね?』とさも当然と言ったように拒否する。
『俺、何のためにこのパーティーにいるのだろう』と何度思ったか。
それでも、強力な魔物を俺が引きつけている間、連携プレーであっさり倒してしまう彼らを見る度に『タンク役として彼らを守らないと』と思ってしまうのだ。
だが、そう思っていたのは俺だけだったらしく、クエストから帰ってきた直後、見知った人物がいたのだろう、ギルドの受付にいた男に駆け寄った3人の異世界人は、人目も憚らず一頻り騒ぐと俺の方を向いた。
そして、冒頭のセリフが出たのだ。
「『どうして』って、俺たちと同じ異世界から来たミナトがタンク役としてパーティーに合流したから不要になったんだよ」
「不要になった?」
意味が分からない。
そもそも、こいつら以外に異世界召喚者がいたなんて聞いていない。
「そうそう。ミナトは元々、私達と一緒に来たんだけど、色々あって合流するのが遅れたんだよね〜」
「つまり、俺はその『ミナト』という男が合流するまでの繋ぎ役ということか?」
「そういうことです」
「……ざけんな」
「えっ?」
「ふざけるな!!」
ギルド内が水を打ったような静けさに包まれる。
そんな中、俺は今までの不満を彼らにぶちまけた。
「俺は国王から勅命でこのパーティーに入ったんだ! それに、お前達が異世界から来た人間だからだと、俺はお前達の世話をしてやったんだ! それなのに『仲間が来たから追放するだ』と? バカも休み休み言え!」
お前らの独断で俺を追放出来ると思っているのか!?
俺は、国王の勅命でパーティーに入っているんだぞ!
たかが、異世界から来た奴らが王命を覆せるわけが無い!
それにお前ら、宿の取り方も買い物の仕方もクエストの受け方も索敵のやり方も知らないだろうが!
そんな世間知らずの奴らが、これから先どうやって旅を続けると言うんだ!
「お前達、現地人の俺がいなくなったら絶対に苦労するぞ!!」
断言してやる、俺がいなくなったらお前らは間違いなく野垂れ死ぬ!
俺の言葉を聞いて、ゆっくりと顔を見合わせたハルト達は突然腹を抱えて笑い始めた。
「「「「ギャアハハハハハハハハハハッ!!!!」」」」
ギルド中に響き渡る勇者パーティーの下品な笑い声。
その声に、ギルドにいる奴らがドン引きする中、険しい顔をした俺は静かに口を開く。
「何が可笑しい?」
俺は変なことは何を言ってないはずだ。
地を這うような低い声で問い質すと、一頻り笑ったハルト達は互いに涙を拭くと俺の方を見た。
「だって、お前何も気づいていないんだもん!」
「はっ?」
何も気づいていないとは一体どういうことだ?
眉を顰める俺に、得意げな笑みを浮かべたハルトが口を開く。
「そもそも俺たち、君と会う時には既にこの世界のことを知っていたんだ!」
「はあっ!?」
俺が国王に勅命を受ける前からこの世界のことを知っていただと!?
突然の告白に呆然とする俺。
そんな俺を見て楽しそうな笑みを浮かべたエマがハルトに目を向ける。
「ここにいる皆、実は難関校でトップの成績を修める程頭が良いんだよね! だから、召喚されたこの世界のことも1ヶ月で理解出来たの!」
「1ヶ月で、理解出来ただと?」
そんなことがありえ……いや、女神に選ばれたこいつらならありえるかもしれない。
けれど、たった1ヶ月でこの世界のことを理解していて、どうして今まで知らないフリをしていたんだ!?
「そうです。けど、ハルトが『ミナトが合流する間のタンク役には、俺たちがこの世界のことを何も知らないことにしよう。その方が魔力や体力の温存が出来る』って提案したから今まで知らないをしていたんです」
「そんな……」
それじゃあ俺は、今までこいつらの体力や魔力を温存させるために雑用をしていたというのか?
今までの苦労が走馬灯のように蘇り、その場に膝をついた俺の肩をハルトが優しく叩いた。
「そういうことだから、君の役目は終わり。一応、国王からも君を追放していいと許可も貰ってるみたいだから。そうだよね? ミナト」
「あぁ、ここに来る前、国王から許諾書みたいなものを貰ったから、そこにいる奴を追放しても問題無いぞ」
「だってさ、お疲れ様」
そう言って、俺のもとを離れたハルトはエマやツムギ、そして新しく入ったミナトと合流すると楽しそうに笑いながらギルドを去った。
そして1週間後、破竹の勢いで次々と魔王幹部を倒した彼らは、その勢いのまま魔王を倒してしまった。
だが、魔王を倒した直後の彼らは夢にも思わなかっただろう。
魔王が倒したから褒美を貰おうと国に戻ったら、国王に『とりあえず、君たち用済みだから』と言われ、元の世界に帰されしまうことになるとは。
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