第11話 貞子→ AI→小鳥
「おそらく冒険者ね」
優雅に口元をナプキンで拭う小鳥さんはそんなことをいった。どうやら餌に満足してくれたようだ。様子を見てとった給仕さんが何も言わずに食器を下げていく、ありがとうございます。
王様との密談の場はいつの間にか夕食会場となっていた。焔も給仕さんにお礼を言って、言葉を続ける。
「物語系ではごく稀にあるらしいわ」
食後のコーヒーまで出てきた。至れり尽せりである。
「でも、同じダンジョンというわけじゃないでしょうね」
「というと?」
「危険度の違いよ。未知の白の試練に乗り込む冒険者がいたら、それだけで騒ぎになる。そこらの冒険者なら準備は必須。そして私の耳にはそんな情報は入っていない」
なるほど。白の試練とやらよくわからんが、ともかく相手は『怒りの日』ではないダンジョンに潜ってるってことか。しかし★1ダンジョンなら、協力して山頂のお花を摘みに行こうぐらいで良い気がするけどね。まったくダンジョンは物騒すぎる。
「冒険者が相手というのは予想外ね」
焔ですらそうだ。ビギナーの俺ごときに想像出来るはずがない。
「そうじゃなくて……。いいわ、そのうちわかるでしょう」
何やら不穏な言葉とともに食後のコーヒーを嗜む焔。それにしても所作がいちいち様になっている。この娘もしかして良いとこのお嬢さんだったりするのか?だとすると初対面の姿はいったい……?
「冒険者については当たりがついてる。おそらく『橘』よ」
「まじか」
『橘』とは日本の旧華族の1つだ。ダンジョン出現以後、日本のダンジョン技術の普及を一手に引き受け、他の名家を出し抜いた日本の親玉だ。日本においてダンジョン技術の代物で橘が関わっていないモノはほとんど存在しない。独占禁止法を力をもってねじ伏せた悪例は海外では周知の事実だ。冒険者としての橘家はギルドとしては認定されていないものの、血の繋がりを尊ぶエリート集団である。もう一度いおう、まじか?
「間違いないでしょうね。連中派手にやってるみたいだし。聞いただけだけど、序列の上の方とスキルの特徴は一致する。橘はスキルを隠せないしね」
力の誇示により地位を確固たるものにした橘は、その力を見せ続けなければいけない。なぜなら足元には金も地位もある他家がひしめいているから、ただ一歩遅れをとり日本の頂点を逃した名家が。そんなことを俺みたいな一般人が知ってるほどに橘は有名だ。
「次に連中が戦場に出てきたら私たちも行くわよ。そんなに時間をかけていられないの」
それは借金的な意味で?という言葉が口から出かかったが呑み下す。腹を満たした肉食獣にわざわざちょっかいをかけてはいけない。冷静な俺はスマートにコーヒーを飲むのであった。
「ゲス男、天下布武に入らない?」
「──ぶはっ!ぶへっ!え……なんて?」
「あははっ、ゲス男なによその顔」
鼻からコーヒーを噴き出した俺を天真爛漫に笑う焔。この小鳥ちゃんはすこしわからせないといけませんねぇ……。
「だから、勧誘よ。天下布武は力を求める」
んなことは俺だって知ってる。冒険者をやってて日本最強のギルド天下布武を知らないやつはいない。給料次第では俺だって入りたいもん。ただ一番の問題は俺が勧誘された本人じゃないこと。
「考えておいて。私はdoorsでメンバーに現状を伝えてくる」
席を立つ焔。どうやら俺もそろそろ今後の身の振り方を考えなければならないようだ。これ俺が悪いか?悪くなくない?
「はぁ……」
憧れの冒険者との旅はもうすぐ終わりを迎えそうだ。まぁ強制連行だったけど。
焔と過ごした時間は短いが、初対面の印象とはずいぶん変わった。最初は拒否したらいつまでも焼かれそうな恐ろしさがあったけど、今ではぽんこつの小鳥さんだ。さすがに問答無用で消し炭にするやつじゃないことはわかった。たぶん。え、しないよね?俺のあとの希望は橘がめちゃくちゃ弱かったらいいなってことぐらい。まじで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます