第4話 2000
「とったどおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
“おめ”
“おめ”
“うるさっ”
俺は『黄金の雛鳥』を天高くかかげた。
「うぐっ……うっ……」
喉から嗚咽がこぼれる。見なくたって目から滝のような涙が溢れているのがわかる。
ここまでにたくさんの困難があった。
──ミサイルみたいに股間に突っ込んでくるイノシシ
「ぶへっ!?」
──逃げるふりして股間を蹴り上げてくるリス
「がっ、はっ……!!」
──空気砲のようなものを股間に打ち込んでくる巨大な向日葵
「どへぇっ!?」
──頭にハチマキを巻いて両手のナタで股間を狙う兎。
「ガタガタガタガタ」
──こいつらは俺の股間に何の恨みが……!?
しかし、俺と俺の息子は挫けなかった……!!猪を落とし穴にはめ、リスを火で炙り、巨大な向日葵は火をつけたリスを使って燃やし尽くした!でも兎は無理、こわすぎ。
「俺の……完全勝利だ!!」
DNAを途絶えさせんとする森の仲間たちをぶちのめし、鍵である『黄金の雛鳥』を手に入れたのだった!まったく恐ろしいダンジョンだったぜ!第三部完!!
“いやただの踏破な”
“2000円おめ”
冷ややかなコメントが飛んでくるが今の俺には効かない!!
“みんなこうやって大人になっていくのさ。俺たちもそうだった”
そして俺はこのダンジョンの事を知りながら黙っていたトコロテンを許さない。絶対にだ。
「みなさんのおかげです!ありがとうございます!!ただしトロコテン、テメーは別だ」
“おめ”
“おめ”
“子どもはいつだって大人に向かって柔らかい拳を振り上げる”
トコロテンのカスが何か言ってる。これは俺の子孫の怒りだ。
「えー、帰還に合わせて配信は終わりますが、みなさん良かったらクレイジーチャンネルの登録お願いします」
“お疲れ様”
“うい”
“生きるってことはそれだけで誰か憎んだり愛したりするものさ”
「それでは、またどこかでー!」
ミステリアスキャラに舵をとるトコロテンを無視し、長い時間見守っていてくれた視聴者にお礼と共に別れを告げた。
「ふー……」
配信を切るとドッと疲れが押し寄せた。doorsから表示された『帰還しますか?』という問いかけに『YES』と答えると、周囲から青白い光に立ち上り俺の身体を包んでいった。前回も見ていたはずなのに幻想的な光景に不覚にも感動してしまった。
同接は伸びなかったけど、1回目にしては上出来だっただろう。付き合ってくれた人たちも初心者配信に慣れているのか暖かいアドバイスを飛ばしてくれた。感謝……!圧倒的感謝……!ただしトロコテン、テメーは別だ。
青白い光が見つめていられないほどの光量を発した時、気がつけば俺はアクセスしたdoorsの前に立っていた。いくつかのデータを確認してから、俺は行儀良く並んだdoorsの後方にあるATMのような機械に向かった。スマホをポケットから取り出してかざす。
ピッ。
お決まりの音がして、液晶が切り替わった。
“2000円”
──やっすい
ガックリくる金額だった。これが今回の報酬。既知のダンジョンの報酬は公表されているから知ってはいたのだが……実際に見ると肩透かしのような気持ちになった。時給換算はしたら負けだ。
外はすっかり暗くなっていて、西東京支部の中は閑散としていた。
「まぁ、もらえるだけ良い……のか?」
社会は常に新たな発見を求めている。今回のような潜り尽くされたダンジョンの踏破だってこうして最低保証の金銭がもらえる。なぜなら、踏破済みのダンジョンでも新たな発見がされることも少なくないからだ。
危険度★1の『生きもののすべて』は2000円。金持ちになるにはやはりDチューブで一発当てるほかなさそうだ。とりあえず箱のハーゲンダッツを妹に買って帰ることにして、出口に向かう。これが微課金勢の兄の精一杯。天井まで行けばSSR妹を引けるかな。
「っと、そういえば……」
朝の話はどうなったんだろう。SNSで話題になっていたことを思い出し、doorsを操作して検索する。全人類にもたらされたdoorsの機能はこんなふうにデバイス無しのネットワークアクセスを可能とする。凄いねダンジョン。
「……って、なんじゃこりゃ」
出てきた画像にビックリしてしまった。
表示されたネットニュースのトップ、そこには半壊したダンジョン協会練馬支部の画像が映し出されていた。
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