第3話 Dチューバーに俺はなる!
「いやぁ、2回目なんで緊張しますねー」
手で生い茂る草木を掻き分ける。
“★1でも油断するなよー”
「はーい!ありがとうございまーす!」
豚キムチさんのコメントに返事をしつつ順調にジャングルの中を歩く。蒸し暑さが凄い。遠くではギエェーーと鳥が汚い声で鳴いている。ここは危険度★のフィールド型ダンジョン『生きもののすべて』だ。日本ではなかなかお目にかかれない光景に俺の心は弾んでいた。
“ゲスクレの癖にちゃんとしてる”
「あはは、ありがとうございま……うわっと!」
トコロテンさんのコメントに思わず苦笑しているとさっそく木の根っこに躓いてしまった。咄嗟に片方の足を前に出してこらえる。あぶないあぶない、嫌でも目に入ってくる巨大な木々に気をとられすぎた。木だけに。
「セーフ……。いやぁ気をつけないといけませんね。木だけに」
思ったことをそのまま口に出すと、しばらくコメントの流れない時間が続いた。
“ごめん、トイレいってた”
“おれも”
“わたしも”
「いやちょっと勘弁してくださいよ〜!」
配信ならではのノリに心が癒された。ゲスナクレイジーの記念すべき第1回目の配信は非常にほのぼのしたものだった。最初のDチューバーキャラを守れたのもコメントに返事を返しはじめるまでだった。いやぁ、Dチューバーの皆さんって凄いねほんと。
“これでまた視聴者が減ったな”
「トコロテンさん辛辣ー!同接数は変わってないですから!」
視界を流れるコメントの右上には、同接“3”と配信初心者らしい数字が記されている。
「前のチャンネルは乗っ取りみたいのにあって消しちゃったんですけど、そのときはもうちょい視聴者いたんですからねー!」
“見栄張るなよ悲しくなる”
“それは選んだダンジョンの視聴者では?”
“応援してるよ!”
「優しいのはニラ玉さんだけですね。まったく……」
コメントに返事をしながら俺は大きな反省をしていた。俺がまったくDチューブのことをわかっていなかったからだ。心の中で自分を罵る。なにが一攫千金だ……!なにが億万長者だ……!Dチューブはそんなところじゃあない!1番大事なのは……人と人の繋がりなんだ!!──ドン!!
自らの過ちに視界がほんのりと滲んでくる。温かいやりとりに気を抜くと涙が溢れそうだった。
“フィールド型は初めて?”
「っ……、ああはい、そうです!」
泣いてる場合じゃないぞ俺!しっかりしろ!
「ぜ、前回は★1の遺跡型だったんで」
今回俺が選んだのは前の遺跡型とは違ったダンジョンだった。正直ボスとの連戦は前回で懲りた。あんなことを繰り返してたら俺の髪の毛は真っ白になっちまう。
“フィールド型はあんまりコメントに気をとられちゃ駄目だぞ”
アドバイスをくれるトコロテンさんは大学で冒険者サークルに入っていたらしく、色々とダンジョンに詳しい。
「もちろんっす!でも皆さんも何か見つけたら教えてくださいね!」
フィールド型のダンジョンの大きな特徴はボス部屋がないことだ。転送されるダンジョン内には『鍵』と呼ばれるアイテムがあり、それを手に入れることで踏破とみなされる。フィールド型には「完全踏破」という分類があり、それは踏破と関わらない強力なモンスターや隠された財宝を見つけた冒険者のみが達成できる。
“あと……ゲスクレ君のそれは見辛くないの?”
「え?」
それ、とは最初の頃のコメントで散々いじられた物のことだ。
“完全に人格から浮いてて草”
「意外と快適なんですよ。それに丈夫だし」
“キャラの残り香www”
「あははは……」
豚キムチさんの言う通りだった。新しくDチューブを始めるにあたって名前の他に頭を悩ませたことがあった。それはキャラクターだ。色々とDチューブを見てみると人気のDチューバーはそのキャラクター性も魅力的だった。
そこで俺が辿り着いたのはあの女騎士さんへのリクペクトを込めた頭がすっぽりと入る西洋的な兜だ。視界は制限されるが人目に晒される恥ずかしさも軽減されるし、なかなか使い心地が良い。とはいえ、その兜の下が適当なアウトドア用のカジュアルな服装なので正直コスプレの途中みたいな格好になっていた。
え、ミカエルくん?ああ、コメント欄が悲鳴の嵐になったからダンジョンの生物って誤魔化して帰ってもらった。もちろんミカエルくんは大事なトモダチダヨ。
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