第二章 ゲスナクレイジー
第1話 お兄ちゃんは充電してるの!!
「お兄ちゃん、ダンジョン行かないの?」
棒アイスを持ちながら、コテンと首を倒したその姿は我が妹ながらとても可愛らしいものだった。ショートパンツにオレンジのキャミソールを合わせた装いは非常に夏らしい。
「お兄ちゃんはな、今充電してるんだ」
「今週ずっと充電してるじゃん」
こやつめハハハ。無関心と無遠慮の間に生まれた妹はすくすくと成長していた。
「いいか、妹よ。ダンジョンの仕事っていうのは命懸けなんだ。無闇矢鱈と潜ったところでナメクジみたいな触手しか手に入らないこともある」
決してミカエルくんを卑下しているわけではないが、この発展したダンジョン社会といえどもミカエルくんは換金できない。ちなみにミカエルくんとは最近友達になった1メートルぐらいの触手のことだ。
「意味わかんない」
妹は居間のソファーに寝転がる兄を見捨てどこかへ行ってしまった。あ、こら。歩きながら食べるんじゃありません。
「はぁ、Dチューバーねぇ」
寝転がりながら天井を見上げる。ダンジョン配信者として一攫千金を目指したことが随分昔のことのようだ。ミカエルくんはこっそりとお風呂場に呼んで遊んであげたりしている。基本的に粘ついてるからねかれ。
「一応、Dチューバー名は決めたんだよな」
えーと、なんだっけ。あの最近Dチューブを騒がせてるっていう配信者。ここ最近は名作ライトノベルを読み返すのに忙しくてネットニュースでしか知らないけど、なんでも世界初の偉業を成し遂げたとか。お気に入りのDチューバーが「⚪︎⚪︎クッキング!」とかやりはじめてたな。どうやら魔物を食うゲテモノDチューバーのようだ。ニッチすぎる。
「さてと。ピピピ……付近に敵影なし」
ニートセンサーで辺りの様子を探ってみた。安全を確認した後、頭の中でスキルを探す。
・ワンモアチャンス
・こどもお料理教室
・外宇宙の神の真なる触手 ←
お、あったあった。数少ないスキルの中で一番最新のものを選択すると、
──ぐちゃり
生肉のような音を立てて触手のミカエルくんが登場した。やぁ元気?
「kjfdskfaldjflasdjfleo]
頭の良いミカエルくんは可愛らしい鳴き声で返事をする。左右に揺れる頭がなんとも可愛い。
「ミカエルくん、俺働いた方がいいかなぁ?」
ミカエルくんはいつの間にか身体から2本の短い触手を出して腕組むようにして考えてくれた。初めてあったときよりも随分成長している。
「ifosdiufosudfje]
「なるほど」
言ってることは全然わからないが、頭の先端がカーブを描き⚪︎になっている。ミカエルくんもそう思うかぁ。
「ありがとうミカエルくん」
お礼を言って戸棚からドックフードをミカエルくんに渡す。気にするなという風に俺の肩を触手の先でペチンと叩いてミカエルくんは消えた。伸びを一つ。
「んー…・・・じゃあ、億万長者になるとするかぁ」
重力は必死に俺をソファーに押さえつけようとするが、なんとかそれを振り払い立ち上がる。立てたよ俺、褒めて!
「まずは、えーと……」
室内を見渡す。
──クイックルワイパーあったけなぁ?
俺はミカエルくんでべちょべちょになったフローリングを拭くことからはじめたのだった。
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