第13話 新人Dチューバー、その名も……
「あー疲れた。ニートは自分の部屋に入らないとHPが回復しないってのに……」
あの後、意識を取り戻しすたこらさっさと帰ってきた俺は自室のベッドに寝転がっていた。ミカエルくんはダンジョンを出るときに帰してあげた。本当いうと連れて歩きたかったが人類にはまだミカエルくんの愛くるしさは早すぎる。
「あああぁぁぁぁぁ」
うつ伏せになって愛すべき枕に顔を押し付ける。身体中が痛い。特に女騎士との連続戦闘は辛すぎた。あいつのせいでもうくっ殺モノは見れない。手に握力がいまだに戻らない俺は妹への詫びのハーゲンダッツを買うことすら困難だった。プルプル震えながら財布を漁る俺はあのコンビニ店員からどういう風に見えたのだろうか。
「あ」
そういえば配信チェックしてねぇ。完全に忘れてた。あんだけ苦労した意味が。doorsを経由して、自分のチャンネルを開く。
「なんじゃこりゃ」
再生回数“13454565”
「これ……完全にあれだな」
──[悲報]配信デビューしたその日にチャンネルを乗っ取られる。
スレ立てでもしようかと思ったけどもうそんな元気はない。そういうのは有名配信者に任せておこう。
「ん、なんかDMもめっちゃきてる」
なんだこれ、どういうことだ。ちゃちゃっと2、3通開いてみると「会いたい」だの「話を聞かせてくれ」みたいな内容だった。
「え、お、俺のチャンネル犯罪とかに使われてないよね?ね?」
出会い系?集金詐欺?ニートから一念発起して冒険者になった結果がこれならあまりにも酷すぎる。しかし、考えれば考えるほど不正利用しか思い浮かばなかった。
──だって俺、名前もチャンネル名も決めてない……!!
帰り道で気がついた事実はあまりにも重く俺の肩にのしかかった。なーんにも設定してない動画がこんなに伸びるわけがない。
「え?大丈夫?俺逮捕されたりしないよね?あわあわわわわわわわわ」
恐る恐るdoorsから検索エンジンに飛んで、「Dチューブ 犯罪」と調べてみる。すると、出るわ出るわ乗っ取って悪用した事件の数々が。中には勝手に配信して冒険者相手にスナッフビデオ紛いのことを実演したやつもいるらしい。こんな世の中絶対間違ってるよ!だが安心してくれ、リスク管理の塊とは俺のことだ……!!よし、幸いパスワードは変わっていない。取り返しはまだつく……はず!
──チャンネルを削除しますか?
YES!YES!YES!YES! YES! YES!
──今後の発展のため、登録を削除する理由をお聞かせください。(なおこの情報は外部に漏れるものではありません)
NO!NO!NO!NO!NO!NO!NO!
──なお登録してから2週間以内の場合は発生した広告料をお支払い出来ないこともございます。同意の場合は『YES』をタップしてください。
「い、いえ……す」
ピッ。
こうして、俺のチャンネルは幕を閉じた。あまりにも短い配信者生活だった。
だが俺にはわかる。マザーや父さんも息子が億万長者になる喜びよりも犯罪者なったときの悲しみのほうが強いだろう。ごめんよ、次からはちゃんと独自パスワードにするよ。
配信自体一度しかしていないけど、初チャンネルを自分の手で削除した事実は心にくる。あーくそ乗っ取り業者め。いや業者か知らんけど。またチャンネル開設しなきゃなー。しかし、Dチューバー名どうしよう。挨拶の文言しか気にしてなかった。結局ずっと「ゲスト20432」になってたし。
「うーん……」
また検索エンジンにキーワードを打ち込む。新しく名前をつけるまえにちょっくら話題の配信者を調べてみよう。こういうのはパクってるぐらいが丁度良いらしいからな。視聴者が間違って見てくれたりするから。あとキャラも考えよう。あのテンプレDチューバーキャラはコスパが悪い気がする。お、なるほど。ふむふむ……
「ハローDチューブ!! ブンブン♪ ドスコイドスコイ! ダンジョン配信はじめちゃうよ〜!俺の名は……」
──ゲスナクレイジー!!よろしくドスコイ!!
あ、それとこちら相棒のミカエルくんね。
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