第12話 くっ殺とかもういいっす……

「はろーはろーDチューブ、女騎士クッキングはじめるよー……。え、テンション低いって?」


そりゃそうだよ。だってもう何回目かわかんないし。


「えータイトル通り今回の食材は元銅像の女騎士さんです。優しく介錯してあげましょー」


喋りながら、女騎士の剣戟を躱す。今回は「元銅像の」の「の」のタイミングで首を捻るのがポイントだ。


「えー女騎士さんはこのように大変生きが良く、タコ野郎よりもさらに速いのが特徴です」


話ながらジャンプをする。その下を銀色の軌跡が通り過ぎる。今回のポイントは「く」。


「女騎士さんが人間っぽい動きがベースのせいか、こういうふうにこちらの足も狙ってきます。汚い、さすが女騎士汚い。あ、ミカエルくんちょっとこっち……」


ガキィン!!!


胸の前で持ち上げたミカエルくんの頭が心臓を狙う女騎士の剣をはじく。


「何度か攻撃をよけるとこのように一撃を狙ってきます。ミカエルくんを持ってる人はそれで受け止めましょう。ちなみにミカエルくんのお腹は柔らかいので、お腹でうけると余裕で貫通します」


いやぁ、ミカエルくんの生態も不思議がいっぱいだよね。これが判ったのは1万回を越えてからだったなぁ。


「いくつかパターンはありますが、この女騎士さん対人想定なのでアドリブも多いです。初見だとミカエルくんの頭で防ぐのはかなり怪しいので、転がり避けが無難です。10回に1回は致命傷を避けられます。ダンジョンの神に祈ってください」




ガキィン!!!ガキィン!!!ガキィィィン!!!





べらべらと喋りながらもさっきからミカエルくんの頭の先は女騎士の剣を弾いてくれている。位置を動かしてるのは俺だったが。


「そしてこの女騎士。鎧も非常に丈夫です。素手で殴ったらこっちがイカれます。頭も同様です」


すぐ横を風切り音が通り過ぎた。玉がヒュンとする。その後も剣戟を女騎士の体勢からパターンを当てはめて目を瞑ってさける。これはタコ野郎のときも言えたことだがこういうのは見たら負けだ。身体が余計な反射を起こすともう間に合わなくなる。タイミング避け大事。目押しなんていらんかったんや。


「しばらく避け続けていると、女騎士は距離をとって「なんだこいつ」みたいな感じでこっちを見てきます。ここではじめて攻めに転じましょう、女騎士の第二形態への変身を促すことができます」


足元のミカエルくんを手に持つ。残念ながらステータスの足りてないミカエルくんの魔法は女騎士の鎧には通じない。何度も実証済みだ。なので、


「手持ちのミカエルくんで殴りましょう。これだけが唯一女騎士にダメージを与える方法です。ちなみに警戒しているのかこの時女騎士はアドリブでも反撃してきませんので大振りして大丈夫です」


グァキンッ!ガッキン!


ミカエルくん思いっきり振りかぶって女騎士に叩きつける。おらぁ!みんな大好きな触手と女騎士だぜ!!笑えよベジータああああああ!!!!


「ここで何度か女騎士を後退させると、ついに第二形態へと変化します。ここからが本番といっても良いでしょう」


大きく後ろの飛び退き距離をとった女騎士が剣を地面に打ち込む。地面に刺さった剣は魔力特有の青い光を放った。そして次の瞬間、剣から血管のようなものが伸びていき女騎士の全身を覆う。赤いサナギみたいだ。


「ちなみにこのときに不用意に近づくと覆ってる血管みたいのに取り込まれます。指を咥えて見てましょう」


やがて卵の殻が割れるように中から女騎士が現れる。全身は黒い鎧に包まれていて持っていた剣も黒い刀身へと変わっている。鎧にも血管のようなものが浮き出ていて脈を打つのがなんともキモい。頭が入る兜もつけて戦意モリモリだ。


「変身後の女騎士はめちゃくちゃ強いです。まじで強いです。赤くないのに3倍って感じです。ここからはわずかな剣先の動きだけでパターン当てはめてとりあえず剣にミカエルくんをたたきつけましょう。この先はもうわかりあ黙ります」


ギィイン!!ギィィィィン!!!


右、左、頭、腰、足、心臓、こめかみ……


一撃必殺の黒い剣戟をミカエルくんで撃ち返すように弾いていく。ここから先余計なことを考えたら即終わる。


1 、2 、3、4、5、6、7、8……………


鉄と鉄を打ちつけ合う音がだけが響く。手の平の感覚もどんどんなくなっている。


………57、58、59……


………71、72、73……


……………………………


数えるのも億劫になるほどの時間を経て(そもそもここまで集中力が続いたのも初めてだった)ついにその時が訪れた。



──ギィィィィン!!!



鈍い音がして女騎士の振るう剣が折れた。


折れた剣の断面は青く光っている。ついに本体攻略パートか……!と身構えていると、剣が崩れると同時に女騎士の身体も崩れていった。


「おわっ……た……?」


手に持ったミカエルくんが滑り落ちる。とっくに両手からは握力が失われていて、今まで持ってられたのは奇跡のように感じられた。


どうやらコアは剣にあったようだ。助かったけど、あの女騎士コア振り回してたのかよ。盲点だったわ。繰り返した時間はタコの倍になってからは記録をつけていない。まじでもう駄目だと思った。第二形態になってからはずっと解説つけてたけど、後半は放っといても口が動くようになっていた。


今はとにかくもう帰りたい。ちょっともう無理。ダンジョンクリアは諦める。すまん妹。赤スパはまた今度だ。地面にそのままぶっ倒れたかったけどそのまえに


「い、いじょう、が、女騎士の、調理法でした……。みなさん、ちゃんねるとうろうとぐっどのほう……」


──あ、限界。


俺は重力に従い前のめりに倒れる。心配そうに身体を引きずってくるミカエルくんが最後の光景だった。




──ミカエルくん、酷使してごめんね……。

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