第7話 このあと……⚪︎⚪︎⚪︎!!??
「ふぅ……ひどいめにあった」
謎の粘液まみれになった俺はボス部屋だったところで大の字になって倒れていた。配信もオフったし、しばらくこうしていたい。冷たい地面がきんもちいい。っていうか、
「冒険者すごすぎだろ……」
13851。この数字がなんなのかもう考えたくない。メモ機能でいちいち更新し続けなければ絶対覚えていられなかった。
「無理かも冒険者……」
毎回これはやってられない。本当にやってられない。適当なバイトしたほうがよっぽど割が良いって絶対。俺の心は初戦闘でちょっぴり折れそうになっている。
「そうだ、同接は……ってなんじゃこりゃ」
むくりと起き上がってdoorsから送られる情報を確かめる。そこには恐ろしい数字があった。
同接“53521“
「意味がわからん。なんでだ……え、コメントとか来てるのか?」
途中から邪魔すぎてオフにしていたコメントをオンにして見る。配信自体は中断してしまったがまだ大量のコメントに溢れていた。
“oh……crazy”
“oh……crazy”
“oh……crazy”
“oh……crazy”
延々と続く「oh……crazy」の文字。うん、意味がわからん。
「ウイルスか?でもdoors経由だぞ?」
大昔のネットならいざ知らず、ダンジョン産のdoorsでそんなことあり得るのか?ウイルスなのか悪質な荒らしなのか判断はつかないが、何にせよこれではまともな視聴者がいるかどうかもわからない。
「しん、どい……」
ふたたびコメント欄をオフにする。地面の冷たさが心地よかった。おまえだけさ、俺に優しくしてくれるのは。ああ……!お金を稼ぐって大変なんだね父さん!マザーに土下座してゴルフクラブをねだっていた父の姿が頭に浮かぶ。
「守護らねば……!」
身体に活を入れて、立ち上がる。父にゴルフクラブぐらい買ってやらねばならんのだ。これじゃ何のためにニートを捨てて冒険者になったかわからない。
「大事なこと忘れてた」
遺跡系ダンジョンの特徴の一つはボスドロップだ。ボス部屋が連なるように続くこのダンジョンでは探索よりもこのドロップ品が収入源となる。軟体生物の死体と成り果てたタコ野郎に近づくと、すぐにそれは発見できた。おおっ!よしよし、それじゃ、配信機能をオンにして、と。
「ハローDチューブ!! ブンブン♪ ドスコイドスコイ! ダンジョン配信はじめちゃうよ〜!」
ちょっとテンションの差で頭の血管がキレそうになったけど……ドスコイドスコイ気にしない。
「なんと今回のドロップ品は……宝箱でーーーすっ!!」
モンスターの落とすドロップ品にはいくつかの種類があるが、その中でも宝箱は高価なものが出やすい。宝箱を配信で開けるのはDチューバーの様式美といえる。これで俺も「中身は……⚪︎⚪︎⚪︎!!??」って感じのサムネが作れるってもんだ。
「いやぁーー良い仕事してますねぇ〜。この艶、この質感、ううーんマーベラス!!」
涎を垂らしながら頬擦りすると宝箱から木の匂いがした。良かった!生臭くなくて本当に良かった!!
「へっへっへ、エロい体しやがって……。それじゃ開けていきますよ〜……いざオープン……おおっ!これは……これは……なんだぁ?」
テンション高く宝箱を開けたは良いものの、中には宝箱のサイズに見合わない青いビー玉のようなもの1つ。透き通るような青色でダンジョン産であることはわかったが……
「魔力が籠ってるんですかねぇ。えーと、触ったら用途が分かるかな」
指先で触れると頭の中にビー玉の情報が流れ込んでくる。このへんも神のみわざって感じだ。
「うーん……なになに。スキル結晶……スキル結晶!?」
まじか!こいつは大当たりだ!スキル結晶とはその名の通り、モンスターのスキルを得られるアイテムだ。どんなものでも凄まじい値段がつく。
「さっそくすごいの引いちゃいましたねー!!ドスコイドスコイ!!はい、みなさん今僕が売り払うと思いましたか?ノンノンノン」
立てた人差し指を左右に振る。煽り芸はDチューバーの必須科目だ。
「ボクハイシンシャーーーーー!!というわけで今すぐ使ってみたいと思いまーす!!!」
スキル結晶の使い方は簡単。胸の前にあてて使うと念じるだけ。
「実はですねー、中のスキルはまだ見てないんですよー。だからどんなスキルが生えてくるのかわかりません!」
胸に当てたスキル結晶が青白く光ったと思うとほどけるように俺の胸の中に吸い込まれていく。
「あぁあああああ、気持ち良いっすねえええええ。魔力の中毒になる人もいるって聞いたことあったけど、これは確かに癖になりますねええええええええ」
脳味噌が多幸感でいっぱいになる。身体が火照りなんだか熱い。
「じゃあ見てみますよ?いいですか?見ますよ?見ますよ?」
ゴクリと喉がなる。どんなスキルでも二桁万円はくだらないスキル結晶を使ったのだ。頼むから今後役立つものが来てほしぃ……!!俺はダンジョンの神に祈りながらdoorsからステータスを開いた。
「待望のスキルはー……なんだこれ」
あ、素に戻っちゃった。
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