第4話 ダンジョンリスク
「また自殺志願者か」
ダンジョン協会で働く前田はdoorsから転送される映像を見てため息を吐いた。
「それも最難関、か。馬鹿野郎」
ダンジョンではdoorsで選択するときに挑むダンジョンの名称と共に危険度が並列で表記される。それが神の祝福かどうかは誰にもわからない。現在発見されている高難易度ダンジョンで有名なものは
『雷と雨の枯れ果てた地』危険度★★★★★★★★
『地の果てに立つ勇者』危険度★★★★★★★★★
の2つだろうか。多数の未帰還者を生み出した悪夢のようなダンジョンは今だにベテランの冒険者を喰らい続けている。あとは、
『神々の祝福』危険度☆
こちらも流れた血の量は計り知れない。遺跡型と呼ばれるこのダンジョンはいまだに一つのボス部屋の踏破も許していない。神の恩寵であるダンジョンの構造はいまだにわからないことの方が多いが、★の数は10を超えると☆になるというのがダンジョン学者たちの共通の見解だ。
前田の目に映る冒険者はよりにもよって歴史上最も探索の進んでいない『白の試練』と恐れられる危険度の最も高いダンジョンへと飛び込んだのだ。
「こっちの身にもなれっていうんだ」
前田は映像に映る見慣れた景色に唾でも吐きかけたい気持ちになった。
ダンジョンという存在を勘違いしている者は多い。あまりにも日常的になりすぎた故の弊害だった。命を価値をわかっていない輩や、異常な宗教家、ダンジョンを自殺の道具に持ちいる馬鹿。
前田は頭の中でドアーズのチャンネルを切り替える。すると今度は『雷と雨の枯れ果てた地』に挑んだ冒険者が映し出される。降りしきる大雨の中、冒険者は地面に倒れ伏し動かない。おそらくもう事切れているのだろう。
ダンジョン協会の職務として、初ダンジョンへ挑む冒険者への観察義務があった。その内訳には配信を行っていない冒険者も当然含まれる。全ての冒険者はdoorsによって管理されていた。
前田が疎む職務は30年前にダンジョンで命を落とす若者への対策として高齢者層へおもねって政府が作ったものだった。冒険者が初めてのダンジョンで命を落とす割合は7割を超える。その原因と結果をもとに冒険者への研修を充実するといった建て付けで義務化された。それらの慣習の結果、前田はこうして日夜年齢問わずビギナーの死に様を見続ける羽目になった。
「ダンジョン職員の離職率を考慮してくれよ」
現実の目視に耐えられず職を離れる者も多い。いつだってダンジョン協会は人手不足なのだ。死体を見ても意味はない。前田はチャンネルを再び『神々の祝福』へと戻す。
「せいぜい、新しい情報を持ち帰ってくれ」
それか派手に死んで抑止力になってくれ。
協会で受けられる講習の中で命を落とした冒険者の映像を使うことがある。もちろん協会に足を運んで、冒険者としての事前準備をするまともな人間に限られるが。
前田はこちらを向いてDチューブ向けの陽気な声を出す冒険者が少しばかりの貢献をしてくれることを願った。
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