第3話 最難関は危険がすごい危険


「さてさて、どこへ向かうかな」


doorsで表示されるものの中から、今回挑むダンジョンを決めなければならない。


表示されるダンジョンは完全なランダムでダンジョン産の技術におんぶでだっこな俺たちには表示される法則性すらわからない。


さてさて、


『暗黒と闇の世界』危険度★★★★


うーん、確かここは真っ暗なダンジョンなんだよな。ちょっとスキル的に無理そう。次、次。


『怒りと大地の咆哮』危険度★★★★★


なんじゃこりゃ。さすがに初心者の俺でも即死コースは嫌だなぁ。パス


『神々の祝福』危険度☆


おっ、こりゃいいな。初心者にはもってこいだ。最初の配信はこういうのでいいんだよ。


ポチッとそのままdoorsをタップする。しばらくすると周囲に青白い光が立ち上がり、完全に俺を覆い隠してしまった。青白い光はダンジョン産の証だ。


「かっこいいなこれ」


徐々に光が収まっていき、俺はいつの間にかダンジョンのスタート地点に立っていた。目の前にあったdoorsもどこにも見当たらない。


「よっしゃー、やるか!」


しかし、俺はこのとき知らなかったのだ。『★』と『☆』の違いを。自分が世界で誰も踏破したことのない最難関ダンジョンに踏み入れたことを。







「さて、早速配信するかっ!」


スマホをポチポチすると、視界の右端に赤い小さな丸が浮かんだ。doorsがDチューブと繋がってるおかげでこんなことまでできる。いい時代になったもんだ。


当然、同接者はまだ“1”。とはいえ、初心者配信はある程度は伸びやすい傾向がある。俺自身もそうだったけど、冒険者になりたい人が事前の情報収集も兼ねて見ることがある。軽く咳払いをして、昨日の夜遅くまで考えていた挨拶をする。今見ている人が少なくても後から配信で見るかもしれない。


「ハローDチューブ!! ブンブン♪ ドスコイドスコイ! ダンジョン配信はじめちゃうよ〜!」


これで掴みはバッチリだ。


「さぁ、これから神の祝福を攻略していきます!」


ピコンと頭の中で音がする。同接者の数が“3”に変わっていた。よしよし、いいぞ。でも通知は切っておく。さすがに増えるたびにこの音が鳴ってたらうるさいからな。


「初めての配信だから手探りになっちゃうけど、許してくれよ〜!ブンブン♪」


自分では若干キモイと思ったが、こういうのはテンションが大事なんだ。配信は勢いだって死んだばあちゃんも言ってた。


「じゃあ、早速進んでいきましょうー!」


テクテクとダンジョンの中を歩いていく。今回のダンジョンはどうやら『遺跡系』のようだ。冷たい石造りの床を歩いていく。


「む……」


長い通路の先に開けた空間が見えた。これは遺跡系ダンジョンの特徴だ。ボス部屋と呼ばれる部屋があり、冒険者がそこに足を踏み入れると中にいるボスを倒すまで先へ進めないようになっている。遺跡系の特徴のいっさい雑魚モンスターが出ないことを嘆くべきか喜ぶべきか。


「どうやら、あそこがボス部屋ですね……。遺跡系ダンジョンのボス部屋は開けた空間と『祭壇』と呼ばれる大きな台座が特徴です」


さあ、記念すべき初戦闘だ。ごくごく普通の大学生だった俺は格闘技や運動をやってたわけではない。だが、たった一つだけ勝算がある。


ダンジョンが出現してしばらくが経ち、人々が『スキル』というものを認知し始めた頃、稀にだがダンジョンを経由せずスキルを授かる人間が現れた。


生まれながらに持つそのスキルは強力なものが多く、そういった子どもは『神に特別に愛された子』として周囲から祝福された。そもそも俺がDチューブで食っていこうと思ったのも特別に愛された経緯があるからだっだ。


「では、初戦闘行ってきたいと思います。ブンブン♪」


──神よ、俺に祝福を


こうして俺は死亡率7割の初戦闘へ挑むのだった。

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