第2話 億万長者になってくる
「ちょっと俺もダンジョン行ってくる」
「あっそ」
ニートの兄の一大決心は妹には手元のスマホよりも興味をひかないものらしい。
「億万長者になってくる」
「へー」
眠たい授業を聞き流すように答える妹。返事をしてくれるだけ可愛いやつだった。クールにスマホを見つめる横顔に金持ちになったらブランド物のバッグを買ってやるからなと決意を深める。なんだったらこっそりやってる配信に赤スパしてやろう。
「じゃあ兄ちゃん行ってくるから」
「
画面の中でスイカを作るのに夢中な妹に別れを告げ玄関に向かうと、パタパタとスリッパから音を立てて心配そうに現れたマイマザー。ちなみに襷ってのは俺の名前だ。
「ちょっとダンジョン行ってくるから」
「夕飯は18時だからね。それまでにかえってくるのよ」
車に気をつけてねみたいな感じだった。ちなみにダンジョンの致死率は7割をこえる。頬に手を当ててマイマザーは続けて言った。
「帰ってこないと先食べちゃうから」
「あ、はい」
母には素直な俺だった。主婦の仕事は多いのだ。洗い物だってタイムスケジュールがある。マザーの態度に若干の腑に落ちなさを感じたが、気にしないことを決めて家を出た。さて、今日は記念すべきダンジョン攻略初日だ。目指せ最強の配信者、そして億万長者!俺の脳内ではすでにビーチサイドでトロピカルジュースを飲んでいる。
向かうはダンジョン。冒険者登録は昨日済ましてるぜ、スマホでな!向かうはダンジョン協会練馬支部。家から徒歩5分の距離だった。
「ここがダンジョンか」
見た目はただの市の公民館といった感じだが、ここはあくまでも中継地点。ここから世界中のダンジョンにアクセスをする。
今さらだが、ダンジョンからもたらされる数々の神秘は俺たちの生活に根付いている。その便利さ故に仕組みがわからずに使い続けているものも多い。昔は「奇跡」とか言ってたらしいけど、今じゃ「魔法」とか「ダンジョン産」だ。世の中は便利になったというのに主婦の仕事は無くならないとマザーはよく嘆いていた。
スマホを入り口の機械にかざすとピッと音がして自動ドアが開いた。
「えーと、どこに行けばいいんだっけ?」
施設内を見回すとチラホラと冒険者らしき人の姿が見える。見た目は普通の人と変わらないがスキルの種類によっては国がスポンサーになったりしているらしい。
「あれ、か?」
案内板らしきものを見つけ、示す矢印に従い歩く。ここら辺は昔と変わらない。キョロキョロ辺りを見ながら歩いていくと、大量の机のようなものが並ぶ場所に着いた。空いている『doors』の前に立つ。入り口と同じようにスマホをかざすと俺の目の前に透明の窓のようなものが現れた。実際には現実ではなく網膜に転写しているらしいが、詳しい原理はわからない。
「ほいほいほい、と」
色々な説明を読み飛ばしながらスクロールしていき、最後に「ようこそ」という文字が浮かび、すべての手続きが完了した。
これから俺の配信者としての冒険が始まるのだ。
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