ちょっと俺もダンジョン行ってくる 【11万pv百花繚乱感謝……!!】
たぬき
第1章 ニートのはじめのダンジョン
第1話 最近流行ってるらしいじゃん
「ハローDチューブ!! ブンブン♪ ドスコイドスコイ! ダンジョン配信はじめちゃうよ〜!」
同接”0
「う〜ん伸びしろしかねぇ!!」
──ダンジョン歴55年。
ソレがはじめて発見されたのはモロッコにあるツブカル山の麓だった。
「海外旅行系」と称する迷惑ユーチューバーが、ツプカル山に住まう少数民族を訪れたときに事件は起きた。
閉鎖的なコミュニティに無遠慮に踏み込んだ白人男性グループは、ひどく当たり前のようにそこで暮らす人々の怒りをかった。もしかしたら、それすら望んでいた反応だったのかもしれない。
仲介役である金を握らせた通訳の再三の注意にも関わらず、彼らはトラブルを引き起こしていった。体格の良い男たちは部族の人間を舐めきっていた。結果、ついに部族の男たちの手に原始的な武器が握られることになる。
はじめはユーチューバーたちはハプニングを歓迎した。刺激的な映像が金を生み出すことを今までの経験上、良くわかっていたからだ。この事態が幸運でないと知ったのは、かつてフェザー級のベルトを巻いた元ボクサーが血祭りにあげられてからだった。このとき、ようやく彼らは自分の命の価値を思い出した。
1人、また1人とクルーが減っていった。
銃弾は不思議な青白い光に拒まれ意味をなさない。狭い街路のそこかしこから伸びてくる浅黒い腕は仲間たちを闇の中へ引き摺り込んだ。残ったのは懸命に走る男と頭についたCCDカメラのみだ。
残された男は、部族の言葉で『地下』を意味する場所へ逃げ込んだ。
男が『地下』に入ると、背後から轟いていた呪文のような怒声がピタリと止んだ。訝しがる気持ちも多少あったが、早鐘を鳴らす心臓が彼の足を勝手に先へ動かした。
男は何度も振り返り、その度に罵倒の言葉を撒き散らしてさらなる深みへ足を進める。ある種自衛のためとはいえ、その瞬間も配信を行なっていた彼の図太さは職業病ともいえるのかもしれない。
ギリシャの神殿を思わせる石造りの道を何度か折れたとき、彼の名は歴史に刻まれることになる。電波の存在すら怪しいその『地下』には人類が初めて出会うモノに溢れていた。
青い火を灯しながら翔ぶ蝶。
恐ろしい溶解液を吐き出すトカゲ。
発光する鉱石。
伸びていく同接の数に背中を押されるように男はさらに奥へ進んで行った。
欲望の先にあったのは、祭壇のように巨大な台座を祀る開けた空間だった。
男が後ろを見て何やら喚いた。驚くべきことに男の来た道は元々そうだったかのように岩壁に変わっていた。
祭壇に火が灯る。
ぽぽぽと松明が酸素を燃やす音を出したときには、視聴者数の興奮もどこかへ消えてしまい男はただの怯える生贄へと変わった。
──身につけたカメラがソレを捉えた瞬間、ノイズが走り配信が終わった。
最後に映った映像は大きな生き物の口の中だった。
映像は瞬く間に世界中へと拡散された。SNSは切り抜き動画で溢れ、様々なインフルエンサーが取り上げ、友人と名乗る人物たちが動画の解説をあげた。世界中がおもちゃ箱をひっくり返したようになった。
何人もの専門家が映像を解析し、大手メディアもこぞって映像を垂れ流した。やがて社会現象にもなったソレは、軍が派遣され探索が決定するのも自然の成り行きといえた。
世界中が注目していた。村はすでに報道陣に囲まれ、元いた住人は圧倒的な物量の銃弾で強制的に排除された。住民の思いがけぬ抵抗は軍にも多数の死傷者をだした。それでも神の遺物を求める愚者たちの歩みは止まらない。
『地下』へ潜った突入部隊の多くは消息を絶った。最初の部隊が『地下』に足を踏み入れてからすでに3日が経過していた。
「失敗」という二文字が指揮官の頭をよぎったとき、無線機が鳴った。その内容は危険を潜り抜け、いくつもの祭壇を突破したというものだった。そして、異変は起きた。
居合わせた人間が瞬きをした間に、モロッコの大地は神の奇跡を授かった。
──不毛の地であるその土地は、青臭い緑であふれかえっていた。
報道陣はいつの間にか車やマイクに絡みついた蔦を祓いながら「奇跡だ!」と口々に叫んだ。宗教家が聖書の項目に『ダンジョン』が追加を決めた瞬間だった。
今日、世界に広く根付く『D教』の聖書にはこう記されている。
──私たちが固唾を呑んで見守っていたとき、地表は神の奇跡によって溢れた。
ダンジョンは奇跡を授ける。ダンジョンの発見は科学と歩み続けた人類の進路を大きく変えた。
神秘体験の連続性ともいえるのか、その後、国が探索するまでもなく世界中で幾つものダンジョンが発見されることとなった。
ダンジョンが認知され150年。神秘に侵された人類は社会そのものをダンジョンを組み入れ、今ではダンジョンは日常の1部となった。
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