とりあえず生でしょ?

西園寺 亜裕太

第1話

「じゃあ、まずはみんなで好きなもの頼もっか」

わたしは大学の同期の二宮さんと、1年後輩の三宅さんに声をかけた。今日はサークルの終わりに時間があったから、3人で大学の近くの全国展開をしている居酒屋チェーン店で飲むことにしていたのだった。


「じゃあ、わたしはハイボールにしよっかな……」と二宮さんが注文用のタブレットを触って、ドリンクを選んでいると、横から三宅さんが「ちょっと待ってくださーい!」と声をかけてくる。


「どうしたの?」

「居酒屋に行ったら、普通はとりあえず生ですよ! 生3つです!」

「いや、せっかくの女子会なんだし今日は気楽に好きなもので良いんじゃない? しかもタブレットで注文するから店員さんに注文のメモ取ってもらう手間もないんだし、みんなで好きなもの頼もうよ……」

「……わかりましたよ」

落ち込んだ三宅さんを見て、二宮さんが「まあまあ」と声をかける。


「良いじゃん、三宅さんがそんだけ言ってるんだし、わたしはビール好きだし、一色さんもビール飲めるんだったら、ビールでいいんじゃない?」

わたしはビールは問題なく飲めるし、二宮さんがそう言うのなら、別に生ビールでも良い。変な空気にならないように気を使ってくれる二宮さんの優しさに感謝する。


「じゃあ、生3つ入れようか」とせっかく三宅さんに提案したのに、三宅さんが首を横に振った。

「別に良いですよ。みんな好きなもの頼みましょうよ」

ムッとした調子で言っているから、どうやら拗ねているみたいだ。めんどくさいな、と思いつつ、みんな好きなものを頼むのならそれに越したこともないと思い、タブレットを触る。


「みんな好きなものにするね。わたしはカシスオレンジにするから。二宮さんと三宅さん、頼むもの言って」

「わたしはレモンハイボールにしよっと」と二宮さんが言ってから、三宅さんが続ける。


「食べ物頼んでも良いんですか?」

「いいけど……」

「じゃあ、とりあえず焼き鳥のモモ串50本で……、それか生ビールみんなで頼むか、どっちかで」


みんなで好きなものを頼むという案に全然納得してないじゃん! と内心呆れつつも、優しい二宮さんが三宅さんに言う。

「わたしも生ビール頼みたいから、みんなで生にしよっか。一色さんも良いよね?」

二宮さんがわたしのほうに、申し訳なさそうに目配せをしてきた。


「まあ、いいよ。わたしも生ビールにする」

そう言わないとこの場が収まりそうにないし。それに、優しい二宮さんにこれ以上負担をかけるわけにもいかないし。わたしたちが生ビールを選択すると、三宅さんが嬉しそうに頷いた。


「皆さんがそこまで言うなら仕方ないですね。みんなで生ビールにしましょう。せーの、とりあえず生で!」

せーの、と言われたけれど、わたしたちは特に続くことはなかった。二宮さんが苦笑い気味に微笑んでいるだけだった。それでも満足げに三宅さんがタブレットを押していく。


「じゃあ、とりあえずの生が3つですね。あとは、わたしがモモ串50本頼みますから、皆さんも食べたいものがあったら頼みますから言ってくださいね!」

三宅さんが楽しそうにわたしたちに伝えてくる。モモ串50本はビール関係なく食べたかったらしい……。

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とりあえず生でしょ? 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji

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