第10話 ナヴィッツ
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早朝のデモン城はてんやわんやだった。
「ハレ様!」とシホがハレの自室を無断で開けた。これで今日3度目の在室確認である。もしハレがいて「ノックをしろ」と怒られるなら、それでも良かった。その方が良い。ハレが居てくれるのだから。
ハレの部屋が無人なのを確認して、シホは扉を閉めてまた駆け出した。
堕天使ラフィーナが廊下の先から途轍もない速度で飛んでくるのが見えた。
ラフィーナはシホの前で止まると「自室は?!」と訊ねる。
シホはかぶりを振って答える。
「応接間も謁見の間もいないわ」とラフィーナがこの世の終わりのような顔を見せる。
いつの間にか隣に来ていた雷神のデインがラフィーナの絶望ぶりを指差して笑う。「はは、キミ達ちょっと過保護が過ぎやしないかい?」
デインの遠慮のない物言いに、女子2人の殺気すらこもった視線が向けられるが、デインは全く気にも留めない。
「だってハレハレ、キミ達の数倍強いじゃん」
「だとしても、です! この世界はまだ分かっていないことが多いんです! ジャンドゥ村の事もありますし」とシホが言うとラフィーナも「そうよ」と加勢する。
「そうよ。それにハレ様のことだから、もし外で愛人でもたらふくこさえてきたら——」
再びラフィーナの顔が恐怖に染まった。それから「まだ私も抱いてもらったことないのに……」と落ち込む。
「なんだ、
「そういや、モモも朝から姿を見せてないけど」とラフィーナに蹴られながら、デインが指を立てた。
「ハッ」「まさか……」とシホとラフィーナが同時に固まる。
「あ、もしかして男女2人で、愛の逃避行——」
「——アンドロイドですしィ!」「——ロボとのセッ◯スはノーカンよ! 単なる自慰行為よ!」
シホとラフィーナの切羽詰まった顔が迫って、デインが耳を塞いでのけぞる。キミ達そんなに仲良かったっけ?とデインが首を傾げた。
「とにかく! 多分ハレ様は外よ! 探しに行かないと」とラフィーナが歩き出す。ハレを単独で探しに行く気なのだと察したシホが「待ってください」と制止した。
「何よ! 一刻を争うのよ?!」
「ラフィーナはハレ様からジャンドゥ村の調査を命じられていたはずです」
「そんなこと言ってる場合?!」
「ハレ様の命令は絶対です。背くことは許されません」
シホが冷たい視線をラフィーナに向けると、ラフィーナは、ぐ、と返答に詰まる。
「じゃ、ボクも行かないで良いわけだねー。村の調査で忙しいからさー」とデインが鼻くそをほじりながら寝そべって言う。全然忙しい人の態度ではない。
「ハレ様の捜索は私が行きます」とシホが自分の胸に手を当ててラフィーナにその鋭い眼差しを向ける。デインはいないものとして無視される。
「ずるいじゃない!」ラフィーナは案の定、反対の意を示した。
「私は
「あの辛気臭い人間を使うの?」とラフィーナが嫌そうな顔をした丁度その後ろにナヴィッツが転移してきた。配下は城内のログポイント間のテレポーテーションは自由に行えるのだ。だからナヴィッツが突然現れたのも不思議ではない。不思議ではないが、不思議なことにナヴィッツという男はいつも間が悪かった。
無言で少し悲しそうな顔をしてから、「何かようか?」とナヴィッツを呼び出したシホに問い掛けた。
シホは励ますべきか一瞬悩んで、そんなことをしている場合ではないと判断し、仲間の心のケアを諦めた。
「あ、え、えっと、ハレ様が脱走したので、追いかけます。あなたも一緒に来てください」
ナヴィッツは陰口を叩かれていたことには一切触れず、無言で一つ頷いた。
ラフィーナが「あ、その、ごめんね?」と言うと、ナヴィッツは「…………何がだ?」と悲しそうな顔で知らぬ振りをした。
シホは、今の間は絶対全てを理解している間ですね、と思ったが、そっとしておくのも優しさだと、触れないでおいた。
ナヴィッツの種族は
その銀髪と端正な顔つきもさることながら、彼の異常性はその強さだった。
およそ人間とは思えないステータスを秘め、かつ、まだ成長している。レベルは113。デフォルトでレベル100の限界突破をしていたのは、配下の中でもナヴィッツだけだった。成長速度は遅いが、上限が青天井なのはでかい。
「ナヴィッツは人間だから都市や村に溶け込みやすいし、
流石に明からさま過ぎでは、とラフィーナとデインがおそるおそるナヴィッツの様子を窺うと、ナヴィッツは相変わらずの無口ではあったが、その口角がほんのり上向きに上がっていた。あ、喜んでるわ、と誰もが理解した。
「ハレ様を連れ戻すのは、私とナヴィッツに任せてください。ラフィーナとデインで村の調査を、イヴとゴーゾで城の警護をお願いします」
「はぁ、もう、仕方ないわね。いい? 必ずハレ様を連れ戻して来なさい?」と堕天使ラフィーナがシホに釘を刺す。もうジャンドゥ村の時のような失態は許さない、と。
「分かっています」とシホが答えてからシホとナヴィッツは城門に転移した。
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