第7話 いざ、王都アドハイトスへ!


 ゴツゴツとした岩と褐色の針のような尖った植物が月明かりに照らされて、渇いた砂に影を落とす。

 その場所には何もない。遥か遠くの地平線と山嶺の陰が見えるのみで、そこに何か——例えば城のような建造物があるだなんて、誰も想像もしないだろう。

 そのから2人の人影が、唐突に現れた。


「あっぶねー! モモ、お前アンドロイドのくせに、くしゃみしてんじゃねーよ! バレるところだったろ」

「すみません、ハレ様ぁ。今朝からちょっと風邪気味で」

「アンドロイドなのに?!」


 ハレの隣にいる少女、7魔将の1人、メイド長にしてアンドロイドのモモが「くちゅんっ」とくしゃみをすると、ウェーブした桃色の髪がふわりと揺れる。


「てか、お前、動きやすい服装って言ったろ! なんでメイド服なんだよ!」

「モモの勝負服はコレですから。ハレ様の身の回りのお世話はお任せください!」


 ハレとモモはデモン城を2人でこっそり抜け出して来たところだった。

 シホや堕天使ラフィーナに見つかれば、城に連れ戻され、今度は監視を付けられるかもしれない。自宅で隠密行動をとるという訳の分からない現状も、ハレにとってはしくじることの許されない大勝負だった。幸い幻魔術に長けるハレは、隠密は大得意だ。モモのドジをカバーしながら、なんとかバレずに城の脱出に成功した。


「ハレ様と2人で愛の逃避行なんて……にゅふふー、皆さんに悪いですぅ❤︎」モモがもじもじと太腿ふとももを擦り合わせて艶かしい動きをする。アンドロイドのくせに。

「お前、 魔波鑑定(全)パーフェクト アプレイズ使えるからな。未知の旅には必須だ」

「そんな……『お前がいないと生きていけない』だなんて❤︎ ハレ様、モモもハレ様を愛してます」

「とんでもない曲解だな」


 ハレが浮遊フライを唱えて宙に浮かぶと、モモもそれに付いて浮遊する。


「どちらに向かうのですかぁ?」

「北」とだけハレが言うと、浮いたまま北の方角へ進んだ。モモがすぐ斜め後ろを付いて飛ぶ。

「王都アドハイトスってところを探すんだよ」

「探す?」とモモが首を傾げる。

「北にあるってのは分かってるんだけど、正確な位置は不明。だからお前の無駄に良い目でよく辺りを見ておけ」

「モモの目が好きだなんて……もうハレ様ったら❤︎」頬を手で押さえてもじもじするモモを、ハレはもう無視することにした。


 しばらく飛行していると、高い岩山から鳥人型のクリーチャーが飛んで来るのが見えた。両手の代わりに黒く大きな羽を生やし、顔面には皆一様に無表情の女の顔が張り付けられ、上半身は裸で乳房が丸出しだが、生気がなくて不気味である。一方で腹にも顔があり、そちらの顔はキェーキェーとやかましく騒ぎたてていた。


「ハレ様、なんかキモいの来ました」モモが、うぇ、と汚らしいものを見るように顔を歪める。

「やっぱり見たことないクリーチャーだな。モモ、撃ち落とせ」

「はいな」


 モモは、スキル『武装転換』で自動小銃のようなフォルムの魔銃を2丁出現させ、鳥人を射撃し、次々と撃ち落とす。


「数撃ちゃ当たるぅー!」

「銃撃音のせいで、敵の数もどんどん増えてるんだけど」


 次から次へと岩山から鳥人クリーチャーが湧いて出る。巣に攻撃を受けた蜂のように、わらわらとやって来る。

 キリがないな、とハレが呟くと、モモがまたスキル『武装転換』で銃を替える。


「いきますよー」とモモが合図した。「すーぱーミラクルぴかぴかキャノン!」


 モモは銃を真横に向ける。次の瞬間——


 モモの持つ銃から、目を焼くような眩い光の熱線が放出され、モモはその熱線で鳥人共を薙ぎ払うかのように銃をぶん回した。

 目の前に広がっていた鳥人の群衆は、ある者は上半身を、ある者は片翼を、ある者は胴を、それぞれ体の一部を焼き消され、ボトボトと落下していった。

 銃魔術『赤き熱線インフェルノ レーザー』改め『すーぱーミラクルぴかぴかキャノン』により、ほぼ全ての鳥人が絶命し、ついでに巣があると思われる岩山が熱線で切り崩れた。

 がらがらと終わらない崩壊にハレが「あーあーあー」と呆れた声を出す。


「お掃除完了っ」


 ふぃー、とモモが腕で汗を拭った。アンドロイドなのに汗が出るのだろうか。

 肉の焼ける嫌な臭いに顔を向けると、鳥人クリーチャーのむごい死体が大量に転がっていた。どの辺をお掃除したのか、教えてもらいたいくらいグロテスクで汚らしい。


「もっと静かにできんのか?」

「次はもっと善処しそうです」

「しそうじゃなくて、しろよ善処」


 そうして、死体の山を放置して、ハレとモモは北へ北へと進んだ。

 そしてついに目的の都市を見つける。


「ハレ様ぁ! でっかい城を発見しました!」

「いや僕にも見えてるから」

「あれが王都……ですか」


 ああ、とハレが頷く。

 やりたい事がたくさんある。

 屋台で肉串とか食べたいし、チンピラに絡まれてぶっ飛ばすのもやりたい。冒険者として活躍するのも良いし、いきなり王都を滅ぼして、王様泣かすのもアリよりのアリ。


 ふふふ、と自然と笑みが溢れた。

 この都市には『楽しい』が満ちている。

 せっかく異世界に転生したんだから、楽しまなくちゃ。


「行くぞ、モモ。いざ王都アドハイトスへ!」




————————————————

【あとがき】

これで始まりの第一章は終わりです。

第二章からハレが王都アドハイトスで大暴れします。

良かったら引き続き、読んでいただけると嬉しいです!


レビュー(★)をくださった方々、本当にありがとうございます! 最高の作品になるように精進します。

まだの方は、是非ポチッとよろしくお願いします♪




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る