まず肩ひじ張らずに、気楽にお楽しみ頂く事を推奨させて頂きます。
こういうささやかな時間の物語って、僕は素敵だと思うんです。
僕は市井の人々の、ちょっとした瞬間の物語が好きです。温かかったり、寂しかったり、誤解してたり、怒ってたり、笑ってたり、僕達が感じる一番身近で一番共感出来る物語。そういうのを上手に書けたらなぁ、なんて思っていたりします。
さて、本作はそんな市井の人のほんの些細な一瞬を捉えて書かれた極めて優れた作品です。
タイトルからわかる通り、ちょっとした飲み屋さんでのお話です。
ただですね、そういう風に気楽にお楽しみ頂ける本作ですが、実は「特典」がございます。それは何かと言うと、三人称表現のお手本みたいに、とても丁寧で的確な描写が、全編に華麗とも言える筆力で施されています。
地の文の表現、ここは見事に作家様の地力が出る場所です。やたら滅多ら普段使わない漢字で難しく書けばいいってものじゃないし、ひたすら作文みたいに平易で読みやすければいいってものでもないです。
僕の個人的見解での見事な地の文というのは、さらりと読めるのにふっとその場面の映像が浮かび、適切な言葉が整然と小川の様に美しく流れ、そして読後にはそこはかとない詩心がある余韻をふんわり残す、そんな感じを理想とします。例えるなら、万葉集の和歌みたいな感じです(いや、違うか? 失礼)。
そういう意味でこちらの物語はさりげない束の間の物語なのに、初美陽一様という素晴らしく高度な実力のある筆者様の、誠実で楽しいお人柄が伺える素敵な仕上がりとなっております。その見事な地の文は気がつけば驚きをもって「特典」として感じられ、優れた読み物の特性である、「何度でも拝読に耐え得る」ものだと僕は思います。勉強になりました。
お勧め致します。
素敵な市井の人々の一瞬を捉え、さらに「特典」もあるこちらの短編。ただし、肩ひじ張らず、居酒屋ののれんをくぐるみたいに、気楽お楽しみ頂けると幸いです。
宜しくお願い致します( ;∀;)