もう無理だ。友達をくれ。

大納言の極み

第1話

僕は全てが芸術に見える。

嬉しい悲しい沢山あるさ。ただ、輪郭がない。

あらゆる線引きが一つの道具に過ぎないと思ってしまう。きっと何処かに本当の世界があるんだ。

じゃないと全部ぐちゃぐちゃの黒塗りだろ。


僕は過保護に放任して育てられた。

矛盾してるって?もちろんさ。当然だね。

何にしても好きにしろって言われたと思う。

でも、実際のところ、空気を読む試練だったな。


僕がこれにするって言うとね、

こっちもあるって言うんだ。

これでいいって言うと、これにすればって言う。

同じ事を三度も言って、帰ってくるのは疑いの声。

五度目でようやく納得してくれるんだ。

とても険しい顔でね。


僕は生活の全てがこれだった。

そう思ってた。


2歳から不登校だ。

理由は僕が保育園へ行きたくないと言ったから。

復帰したのは4歳の頃。

母子家庭で家計が苦しかったからだ。

確か年中さんのペンギン組に編入したんだった。


僕は苗字を覚えた。

二つ目の名前があるなんてワクワクしたよ。

日本人って、みんなこの名前なんだと思った。

だって家族の誰に聞いても、僕と同じだったから。


あと、顔の良し悪しも学んだんだ。


漫画ばかり読んでいたからブスが主役と思ってた。

出てくるキャラは個性的だったからね。

みんなと話して初めてブスだと認識したんだよ。

数年ブスだと思えなかったな。みんな好きだった。

みんな素敵だから。

今じゃ、この様だ。


僕は色々なことに真面目だった。

よく覚えてる。


ただ、それを思い出したのは18歳だった。


僕は自分を騙してたんだ。

尋常じゃない自己洗脳だった。

覚えたってことを覚えてなかったんだ。

記憶にはあるのに知らなかった。

僕は限界だと思ったね。

ただ、そこまで衝撃はなかったよ。

薄々は気づいてたんだろうね。

ずっと世界の空気を読んでたんだから。


あの時から僕は余生を過ごしてる。

友達は全員消して、小さな家出をしたんだ。

多分あのとき死んだんじゃないかな。

ほんとに死ねたら良かった。


いやなにも大袈裟な物言いをするつもりはないよ。

ただ思春期が終わっただけさ。

ただ終わり方が酷かっただけ。

普通は大人になるタイミングで迷子になったんだ。


ちっぽけな話なのは分かってるさ。

ちょっと部屋から出ればいいんだろ。

でもね、僕はそう思えないんだ。

僕は普通じゃないからさ。

僕は普通じゃないからね。

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もう無理だ。友達をくれ。 大納言の極み @DAINAGON86

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