お狐様の独り言【新作限定_千字以内_一人一作まで】秋の新作短編まつり 主催者:青切様

 春の訪れを紅梅が咲くことで知る。

 ウグイスが鳴き、メジロが梅の花の蜜をついばみに来る。

 我と相棒の間を通り、拝殿に至る参拝者たちからマフラーや手袋が消えた頃、桜が咲く。我と相棒は散る桜の花びらを体中にくっつけながら、参拝者を待つ。

 たまに、よからぬ者が来る。魔だとか穢とか呼ばれる客人まろうどだ。我と相棒は客人を丁寧にもてなし、主であるこの土地の氏神様に相まみえることなくお帰りいただく。すると客人はこの土地に福を与えるものに変わる。

 桜が散ると一斉に緑が勢いを増し、境内の隅にあるあじさいがつぼみを付けた頃、夏が来る。今は来るか来ないかわからない梅雨の時期を経て、天道様が本領を発揮し始める。

 蝉が騒がしく、時折、雷と激しい雨が降る。稲光は豊作をもたらす天からの使者だ。水田の水面に稲光が映らないほどの豊作を我と相棒と、主である氏神様は願う。

 蝉の声が落ち着き、朝夕に虫の声が聞こえてくると秋だ。人は祭りの準備を始める。選ばれた水田から実りを示す稲穂を一房、氏神様に神主様が捧げる。今年もいい実りが得られたようだ。その場でささやかな獅子舞が奉じられ、我と相棒、そして氏神様がささやかな慰めを得る。

 徐々に木々の葉が赤や黄色に染まり、落葉すると冬がやってくる。

 一日一日と天道様がお姿を見せる時間は短くなり、それが最も短くなる日に、その年は終わりを告げる。一年とは天道様のお力が最も弱くなるときを境に終わり、また始まる。全ての生きとし生けるものに恵みを与えてくれる天道様の生まれ変わる日こそが、年の境目だ。だからこそ冬は我と相棒、そして主の氏神様が最も願い、祈る時なのだ。

 どうか天道様、再びお元気を取り戻してください。あなたがあってこそ、この世界があるのです、と。

 果たして、その日を境に再び天道様が顔を見せる時間が少しずつ長くなっていく。寒さは厳しくなっても、再び実りの季節が訪れることは約束された。

 我らはまた新しい年を迎えることができ、しばらくの間、参拝する人が増える。

 時折、雪が降り、積もる。新雪に狸やカラスが足跡をつけ、その後に参拝に訪れた人が、我と相棒に積もった雪を落としてくれる。

 もうすぐ再び紅梅が咲く季節が来る。

 我ら神使の狐と主である氏神様――豊受大神様はこうして何百年もの時を過ごし、鳥居の外の人の世の安寧を願ってきた。

 それはこれからも決して変わらない。

 どうかこの世に豊かな実りがありますように。

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