夏の神様 テーマは「夏」!短編集でもエッセイでも〇

 神は人によって作られる。その逆ではない。人が地球中に広がり、考え、発明し、様々なことを始めたことで、多くの神々が生まれた。


 気候を司る四季の四柱の神もまた、人によって作られた存在である。


 最初に人が作ったのは『春』の神である。


 春は草が生え始めることを意味する。気候が穏やかになり、緑が芽吹く。


 『春の神』は温かい雨と暖かな日差しを台地に注ぐことで、生きとし生けるものを育む役割を持っている。


 人々は春の訪れを喜び、『春の神』に感謝を捧げる。恵みが約束される季“節”だからだ。


 ただし、世界には『春の神』しかいない民族が存在する。ただ、春の訪れをもって、1年を知るだけ。それだけでことが足りる世界が存在するのである。


 次に人が作ったのは『秋の神』である。


 実りの季節に、火をもちいて農作物を加工し、口にし、蓄えることで、人々が生きることを約束される季節だからである。農業の発達とともに『秋』が季節として定着した。自分たちの労働の成果としての実りがなければ、名付けるまでもない季“節”だったのだ。人々は『秋の神』にも感謝を捧げる。


 節とは区切ることを意味する。実りがなければ、1年を区切る必要がない。人間はそう考える生き物なのである。


 春と秋しか季節がない時代は何百年と続いた。春秋時代の春秋とは1年中人々が争っているから、『春秋』なのであって、1年は『春秋』で表現したのである。


 次に人は『夏の神』を作り出す。


 秋を前に、実りをもたらす大切な季なのだ。夏の基となった象形文字は、稲穂が実ることを示しているという(稲作かどうかは怪しい。粟かヒエではないかと思われる)。秋の実りを約束して貰うために、そのために崇めるために『夏の神』は作られた。要するに農業の発達とともに、1年を区切る『暦』が重要になってきたのである。


 そしてその『暦』が最後に『冬の神』を産む。『冬の神』こそ月ではなく、太陽を観測した人が、太陽の生まれ変わりを区切りとする――“節”とする。


 冬はほかの季“節”と異なり、知識の蓄積と計算によって誕生した神だった。


 これはあくまで東アジアの話である。


 脱線するが、『冬』と『夏』こそが季“節”という太陽中心の農耕を続けていた世界も多くある。有名なストーンヘンジは冬至を祝うシステムである。『冬の神』こそが原初にして最も重要な神である世界は、未だ数多く存在する。


 話を四季の神に戻そう。


 残念なことに、近年、他の3柱を退け、もっとも力をもってしまったのが『夏の神』であった。


 これもまた、人が『夏の神』に強力な力を与えてしまったのだ。


 『夏の神』は困っていた。本来、実りの成果を約束するための暑い季節だったはずなのに、もはや実りを阻害することすら多々あるほどの『熱』を持ってしまったのである。


 これには太陽も月も関係ない。


 人が太古に地球がためこんだ太陽の力を解放しているためである。人はそれを化石燃料と呼んでいる。


 『夏の神』は人々の願いに反し、己の力をふるう時がくると、数多の悪さをする悪神となろうとしていた。


 畑を干上がらせ、植物を枯らし、嵐を巻き起こして、大地を吹き荒し、『冬の神』の領域を侵して、氷床を解かし、海面を上昇させるのだ。


 対し、他の3柱の力は弱まる一方である。


 己が悪神となるのは、人に作られた神ゆえ、仕方がないことだ。しかし悪神は悪神でしかなく、そのうち『夏の神』ではなくなるだろう。


 『夏の神』にはそれが悲しかった。


 その前に他の3柱は消えてしまうに違いない。


 人が作った悪神は、人そのものを滅ぼすだろう。


 しかし人が消えた後も、崇め奉られる神としてではなく、単に地球そのものですらコントロール不可能な現象として残る。


 太陽光のエネルギー収支のバランスを失った地球は、更に暑くなり、海を干上がらせ、更に熱を持ち、将来的に金星のような灼熱の惑星となる。


 皮肉にも金星は“美の女神”だ。


 神々を失った地球もいずれはそう呼ばれるのだろうか。


 けど、誰に?

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