第3話
またいつものように学校に登校した時から、俺の気持ちは昨日の一件から全く落ち着かなかった。
俺はクラスに着いた瞬間にすぐに自分の席へ一直線に向かい席に座り、机に突っ伏した。
そのとき、ふと周りの声が聞こえてきた。
「最近、市山君、霧宮さんに積極的に話しかけてるよねー。」
「そうそう!やっと市山君が本気で狙いだしたって感じだから、結構早く付き合うかもね!」
「そうしたら美男美女カップルの完成かー。あの二人本当にお似合いって感じだよね!」
俺は無意識に拳を握りしめた。
そう、あの二人が付き合う。それが自分でも一番だと思っているのに、市山もいいやつで、真由も幸せになれるのに、
なのに何故、こんなにも虫唾が走る。
その日、市山はサッカー部の大会で学校には来なかった。
俺は心から来なくて良かったと思った。今の不安定な感情のまま、市山と話すと更に自分の心が変になってしまいそうになったから。
そのまま授業を受け、昼休みになったとき、真由が俺の席に来て話しかけてきた。
「ねえ陸!今日も一緒に帰ろ!」
彼女は屈託のない笑顔を俺に向けてきた。
(市山がいないから、仕方なく何だろうか?)
俺は昨日の件もあって、そう後ろ向きに考えてしまう。
もし、今まで真由が俺に向けてきた笑顔が嘘だったら、俺は何のためにいたんだろう。
「ごめん。今日は無理だ。」
「何で?」
「今日は、、、ちょっとな。」
俺は真由から目を背けた。申し訳ない気持ちで溢れるが、俺は今日は一人になりたいんだ。
「…分かったよ。陸が言うなら、今日は一緒に帰らない。」
「ありがとう。」
「明日は一緒に帰ろうね!」
「ああ、、、」
俺は力無く返事した。明日になったらこの気持ちは収まっているのだろうか。
学校が終わり、俺は久々に一人で帰った。
見慣れた通学路はいつもよりも暗く、物音ひとつもしないように感じた。
「真由がいないと、こんなに静かなんだな。」
いつも隣にいた真由が今日はいない事でこんなにも変わるのかと思って俺はそう呟いた。
「まさか、真由があんな素直に俺の願いを聞いてくれるなんてな。」
真由は俺の願いを素直に聞き入れてくれた。
つまりそれは、
「別にいなくても良かった存在ってことだったのかな、、、」
そう思った時に、ちょうど家に着いた。
すぐにドアを開け、ベッドに横たわった。
(もう何も考えたく無いな。)
そう思って俺はゆっくりと目を閉じた。
何分かたった後、家のインターホンが鳴り響いた。
「何だ?」
俺はその音に飛び起きて、すぐに玄関へ向かった。そして、ドアを開けると、
「陸!遊びに行こー!」
真由が立っていた。
「は?いやだから金が無いって言ってる、、、」
「もう!お金ぐらい私が用意してあげるから!ほら、早く行こ!」
そう言って真由は強引に俺の手を握って俺を外に引っ張りだした。
「ちょっと待て!鍵、鍵が!」
「ああ、ごめん。ほら早く鍵閉めて!」
「よしっと。はい閉め終わった。」
「はい、それじゃあレッツゴー!!!」
「だから、手を引っ張るな!」
真由は笑いながら俺の手を引っ張り、歩き始めた。
俺は、市山が真由と付き合った方が良いなんて思っていたのに、真由がそうしてくれるのが嬉しかった。
笑っている真由はいつもよりも一層輝いて見えた。俺がさっきまで悩んでいたのがバカみたいだ。
真由が嘘をつくなんて器用なことをできるはずもないのに、俺は何を言っていたんだろう。
そう思った俺は真由と一緒に笑い出した。
そう、俺は真由を一番知っている。真由のどんな顔も俺は知っている。それこそ、他の誰よりも。だから分かる、真由が心から楽しそうにしていることに。
他の奴らから見て、俺が真由と合っていなくても、この時間だけは楽しみたいと思った。
あと少しだけで良いから君と居たいと願った。
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