第42話 ストーリーのネタばらしをしていたらいつの間にかに文字数がかさんでいたんですけど!

 中学校から帰る途中に足下に何かが飛び出してきたと思ったら、久しぶりに見る私のマスコットを務めていた謎の生物だった。

 ウサギのようにも見えるそれを胸に抱えて、慌てて路地裏に入って唐突の来訪を戒めさせる。


「ちょっと、前にも言ったけどあなたは他の人には見えないんだから」

「それどころじゃない」


 あわてふためくとはちょっと違うけど、人間でいうなら血相は変わっているんだろう――さすがのお姉ちゃんでもウサギのような生物の顔色までは看破できない。姉にできないのなら私にできるわけがない。


 なんの前触れもなく失踪していた彼女が戻ってきたのだからそれは何かしらの理由があるんだろう。

 非礼を詫びている間も惜しいんだろうな(元より詫びるような精神性はないけど)と大人な私は冷静に判断をして顎で先を促す。


「キミのお姉ちゃんが転落事故に巻き込まれた!」

「……え?」


 その言葉は衝撃どころの騒ぎではなかった。意識がすうっと遠くなる感覚がして、足に力を入れて倒れるのを防ぎ、見たくないものから目を背けるような衝動を目に力を入れて防ぎ、心臓の高鳴り……はどうしようもないので気にしないように一度や二度大きく呼吸をする。


「なんの理由かは分からないが、天野愛という少女がお姉さんを抱えて屋上から飛び降りるのを見ていたんだ」

「めぐちゃんが……」


 その人に対しての印象は病弱だけど、ノリが良くて気のいい人だと。モノマネも得意で無茶振りにもきちんと答えてくれる。


 渾身の一発芸のタラオとイクラの会話はワケが分からなくて我々は大ウケだった――まあ、そのお姉ちゃんの誕生日にそれを披露した理由だけはいまいち謎だけども。

 

 そして何より年下の私がめぐちゃんと気兼ねなく呼んでもヘソを曲げたりしない、至極真面目な……。


 おそらく、無事ではすまない――一般的に屋上から落ちれば、運が良かったところで何かしらの怪我を負う。

 

 大丈夫だとしたらここは創作の世界だ、創作の世界みたいな生き物と会話する元魔法少女が言うこっちゃないかもだけど。


「だけど安心して欲しい。時間はまだ巻き戻せる」


 こちらを見上げるようにしながら、胸元に抱かれたマイが安心させるように……なんか違和感がある。


誘導してくるときには注意しないといけない、この子に魔法少女にさせられたときにも、姉のためを進言されたのだから――や、当時の私は二つ返事だったけど。


 でも、この考え方は……本当に私のもの? お姉ちゃんに何かあったと言われたらもっと慌てて、少なくとも相手を疑うことなんかしない。

 時は巻き戻せる……おかしな話だ、そんなことができるはずがない。


 魔法少女が異世界から来る侵略者を倒して、そのご褒美で色々できるのは自分も知っている。


 多額の報酬という子もいたし、私はなんか思いつかなくて、その時は保留しちゃって後日に「お姉ちゃんをすごくして欲しいな」って言って「じゃあすごくしておくね」ですまされたけど――元からお姉ちゃんはすごい人なので、特にその変貌も感じることもなく今まで来た。


 これならもっと別の、宝くじ一等分の賞金をくれとかでも良かった。


 まあ、お姉ちゃんは死ぬほど鋭いので「このお金の出所はどこですか?」と尋ねられてしどろもどろになるだろうし、よしんばお姉ちゃんがスルーしても初ちゃんは確実に追及してくる。


(なんてたって、将来の義姉候補一番手だもん)


 お姉ちゃんを狙っている人は一見さんを含めれば数多いと思われるし、狙わないとしたら目が腐ってるんじゃないかなって妹は思う。


 悠ちゃんから聞いたけど蓮さんってひとが自分から距離を取らせようと画策したのに数時間でほだされたって、敵意とか嫌気とかしなしなにさせるからね。


「どうした、何を考えている? キミの姉が」

「あいにくですが、柊さんは無事です――」


 路地裏の奥の方に入ったけど、人が通らないわけじゃない……でもその人は、マイのことを目視して、声を聞いて反論をしてきた。

 そして、そして……この人お姉ちゃんと似ている?


 立ち姿はまるで、顔だって長さだって髪質だって、失礼だけど胸の大きさだってまるで違う。

 制服越しにだって「でっか」ってなるグレープフルーツが足りない……足りないんだけども、口を開いてお姉ちゃんって呟きたくなるくらい、そっくりだ。


「お初にお目にかかります。結さん」


 厳密に言えばはじめましてではありませんが、と自嘲するようにいう姿は、ガッカリすることがあったときのお姉ちゃんと瓜二つだ……モノマネじゃない。


「貴様……!」

「異世界からの侵略者は排除せねばなりません」


 マイが敵意を向けつつ、身を隠すようにしながらこちらに身体を押し付けてくる。


「異世界からの侵略者は……私が」

「ええ、存じております――ですが彼奴らは同じ志を持った存在であるのは、あなたはご存じない」

「同じ志……?」


 人間や魔法少女を喰らう存在の大型の肉食獣のような造形の侵略者、一方この子はウサギ……言ってみれば草食動物に近い。

 でもそれだけで「そうですか」と信じられない。


 確かに戦わせられるときは半強制だったし、疑われる要素はいくらでもある――都合の悪い問いかけはごまかしてくるとか。


 それでも与えられた願いは私の役に立っている。多くの人の助けになっている。


「過激派と融和派……まあ、言ってみればそんな区分けができます。行き着く果ては人々の支配ですが」

「でも、襲いかかってくるような存在は」

「疑問に思いませんでした? なぜ彼らは毎時毎分、人々に襲いかかることがないのか」


 そうだ――彼らの活動が定期的なのは、マイから教えてもらっていた。


 無知蒙昧たる恐ろしい存在と言われていたけど、昼間の時間は身を隠し、決して自分たちの不利益になる行動はしない。

 たとえば、多くの人々にその存在を知らしめられて、強制排除に動かされるようなことは。


 もしも魔法少女が大衆に周知され、多くの人がそれになりたいとこいねがえば、少なくとも魔法少女が創作の世界ではなくなるであろうし……マイは数多くの人間を魔法少女と化して戦わせていたはず。


(あえて拮抗させることで戦いの長期化をはかろうとしていた……?)


「惑わされるな! こいつは前の世界でキミの姉を殺したんだぞ!」

「前の世界……? 何を言っているの?」

「何度もキミのために時間を巻き戻してきた。言ったろう? 時間を巻き戻せると」


 魔法少女に莫大な富を与えたり、美少女化させたり、それこそ魔法じみた力を使う生き物だけど。


「そいつの都合良く、です」

「信用するな!」

「あなたたち姉妹は彼奴らにとってイレギュラーも良いところでした――結さんの優れた能力はもとい、なにより柊さんの力も」


 魔法少女は定期的に同性の子とえっちなことをして活力を得るんだけど、私はお姉ちゃん相手が良いとごねた。


 その専門のえっちする一族ってのがいて、悠ちゃんがその一員だったりもするけど……てか、私の相手が悠ちゃんだったんだけども未遂だったので。


 本当にたまたまその一族しか持ち得ない特別な力をお姉ちゃんが備えていて、かつ膨大だった。

 今まで誰もなしえなかった異世界からの侵略者を撃滅する程度には。


「共存関係にあった過激派と融和派はそれはもう困りました。過激派のお目こぼしを頂いている身ですからね。今まで先延ばしにしていた魔法少女への報酬も与えねばならなかった……が、問題はそこではなく、彼らもいずれ過激な行動へと移るのです」

「世迷い言だ! 信用するな結!」


 人を捕食する生き物がそれを獲られなくなれば、過激な行動に移るのは理解できる。飢えた生き物は肉食も草食も関係なく獰猛になる……親鳥が子どもを食べてしまったなんてのは小学校あるあるではないかと、や、私のクラスがアレだったのかな?


「安全な場所から石を投げて他人を笑っていた存在が、いざ自分に危害を向けられれば声高に騒ぎ出す……今のそいつと同じように」

「……」

「あなたは魔法少女としての恩義があるから彼奴らに強く出られないのは同意します。でも、柊さんは違う」


 そうだ――マイは何を見ていた?


 もっと言えば「飛び降りる前に超常的な力を使って時を巻き戻せたのでは?」


「お前……お姉ちゃんが邪魔だったんだな!」


 力強く地面に叩きつけようとしたけど、こいつはそれを実行する前に私の身体をすり抜けた。


「待て、今ボクを殺せば時が巻き戻らなくなるぞ」


 目の前が赤く染まって、力の赴くままに邪悪な存在を叩き潰そうかと思ったけど、そのすんでのところで静止をした。


 でも、私を何とかしたところでお姉ちゃんと似ている女性は止まらなかった。


「残念ながらあなた方の能力はすべてサルベージしてあります」

「そんな馬鹿な……どうやって」

「何度も時を繰り返してきた……そのように言ったのはあなたではありませんか。もっとも、必要だったのはあなたの能力だけ。接触をしてくれるまでに骨を折りましたよ」

「騙したな!」


 何らかの理由があって接触したんだろうけど……それはたぶん、お姉ちゃんの命を奪う云々との関係性が深いことだ。

 でも、もっと許せないのは「そうする」と言って「都合が良い」と接触してきた第三者だ――自分の手を汚さずに、自分の都合の良い利益を得ようとする……悪魔のような存在だ。


「待ってください、私が」


 首を振って今までマスコットとして自分の近くにいた子を魔法で捻り潰した。


 これが私の責任だから――きっと、お姉ちゃんをすごくして欲しいって願いにも「お姉ちゃんが困る」要素があるはずだから。


「……ご承知の通り、柊さんには特別な力があります」


 問いかけてみると、困ったように眉をひそめながら……蓮さんは言った。

 この人が悠ちゃんの言っていたひとなんだ、と思うのと同時にそれしかあり得ないな、とも考えた。


 蓮さんのこと、悠ちゃんは教えてくれたけどお姉ちゃんも初ちゃんもノータッチだったから。


 その、お姉ちゃんが教えてくれなかったのは私が取られちゃうんじゃないかと思ったからじゃ無いかなえヘへ、や、えへへじゃないけど。

 初ちゃんはお姉ちゃんと行動を共にするから、柊が教えないのなら教えないって感じだったんだと思う。


「周りに活力を与える……魔法少女相手と同じように」


 言ってみれば、元気にさせるということだ――ここ最近の記憶だと、お姉ちゃんのコスプレ写真で悶々として寝不足だった初ちゃんの体調を元気にさせてた。


「その代償として柊さんは体力……や、命を削られることとなります。相手次第で大幅にも」

「……」

「近い未来、確実に命を落とします」


 寝不足くらいですごく心配して回復させちゃうんだから、将来初ちゃんや私も、悠ちゃんやめぐちゃんだって活力を与える対象者になると思う。

 そんなホイホイ「お姉ちゃんをすごくした」時に得た力を代償も考えずに発動してたら、それはもう火を見るより明らかだ。


「結さんには選択肢があります――本来一つしか無いのですが、私が言えた義理ではありません」

「それは……その、お姉ちゃんの」

「謝って許される話ではありません。敵の能力を得るためとは言え、倫理に背く活動をしたのですから。今死ねと言われれば死にましょう」


 それはちょっと。


「一つはこの世界のまま未来へ歩むということです」

「……お姉ちゃんが」


 早逝してしまうけども、時間を巻き戻すって言う禁じ手を使うことを姉は潔くするだろうか。 

 や、元々が私の願いであべこべなことになってるんだ、お姉ちゃんが死んじゃうのを私がきちんと受け止めないといけないんだ。


「二つ目は我々が時を巻き戻し、そもそも彼奴らが侵攻してこなかったものとし……より良い未来を目指すことです」

「ってことは、私は魔法少女じゃない?」

「ええ、あらゆる不利益を被ることになるでしょう」


 お勉強とかお勉強とかお勉強とか――事故になりそうなときにお姉ちゃんを助けられないとか。


「でも、あいつら別の世界の存在ならまた出てくるんじゃ」

「その対応は我々の仕事です――私は元より、彼奴らに家畜として扱われようとした未来人類により生成されたロボットです。あ、愛もですが」

「……」


 ブルボンさんのメカネタをやらせたのはなかなかにタイムリー。


「あ、だから屋上から飛び降りても」

「はい。まあその、柊さんは紐無しバンジーなので、恐らくとんでもない顔をしてご帰宅なさるかと思いますが」

「めぐちゃんをすごく心配してそう」

「……容易に想像ができます」


 飛び降りたことについては深く考えないだろうけど、めぐちゃんは心配しているはず。


「……でも、蓮さんの本当の目的は? あの子たちの始末なら、もっと前になかったことにできるよね?」


 時代操作のノウハウが必要だったとしても、それはマイをふん捕まえて利用すれば良いだけの話だ。

 なにより、未来から来たというなら「未来から過去に戻る技術」は元から備わっていたのだ。


 それなら私みたいな超弩級の力を持った魔法少女(と、バッファーのお姉ちゃん)がいるタイミングではなく、もっともっと彼らの影響が出ない時代に転移して、草を引っこ抜くように始末してしまえば良い。


 この時代に来た理由がどうしてもあるはず。


「私を信用する必要はありません。あなたの」

「それは過去のこと、もちろん、時間がたったらもっとムカムカするけど、それはいいの」

「……マザーが」


 母? 私のお母さんって実はすごいひとだったりするのかな? と思ったけど、予想外の人物が蓮さんの口から出てきた。


「初さんが設計したのが……その、私です」

「は?」

「機械工学が得意なのはご承知であるかと存じますが、初さんは私の元となる設計図を残すのです――残念ながらその時代では実現不可能なほど、精密な」

「や、初ちゃんが変態……あ、天才なのは知ってたけど」


 未来のことなので私は分からないけど、初ちゃんはどうやらその手の専門の道に進んだらしい――ただ、人々から称賛される天才科学者の方面ではなく、ロボットものの悪役になりそうなマッドな方面に。


「で、でも、初ちゃんはお、お姉ちゃんに不都合なことはしないよ」


 若干怪しいところはあるけど……でも、お姉ちゃんが嫌だと言えばしないだろうし、初ちゃんのところはそこまでお金にまみれた生活はしてない。

 機械工学に限らず研究者の資金不足はもっぱらの課題ではあるし、誰か高名な……お金を余らせてそうなスポンサーでもいない限りは。


「大神さんという先輩がいるのですが、その方がマザーの……ええと、初さんを支援してくださいまして」

「なんで!?」

「将来的に……これは本当に可能性の一つなのですが、柊さんは彼女のお兄さんを婚姻されるのです」

「お姉ちゃんってノンケだったのぉ!?」


 恋愛方向の矢印が全部初ちゃんに向いているかと思ったら……と、考えたけど蓮さんは首を振る。


「いえ、ご両親に孫の顔を見せたいと……ご存じかとは思いますがあまたの方々も恋愛対象が同性でも異性と婚約されるケースはあります」

「あー、私は孫を見せる可能性ないな……」


「薄い色彩の髪色をして日に焼けてチャラい感じの男性ですよ」

「チャラ男! それチャラ男っていう! てか、チャラいって蓮さんも言ってる!」

「ボンボンですしね、巨乳好きですしね」

「今すぐ殺しに行かなきゃ……」

「ただ、この世界では柊さんは早逝される可能性が高いです」


 現実に引き戻された――そうだ、お姉ちゃんは私の願いの代償で死んでしまう可能性が高い。


「で、でもなんで初ちゃんは蓮さんの設計図を?」

「柊さんを寝取られたと考えた初さんはその原因を排除した柊さんにそっくりな存在を産みだしたかったのです」

「あ」


 蓮さんはその……ささやかだ。


「で、でも、その歴史を変えたいなら。時間を巻き戻す必要はないよね?」


 そう……望まぬ結婚(私と初ちゃん目線)により、初ちゃんが「柊を作る!」とか考えない未来なら、わざわざ二つ目の提案をする必要はない。

 歴史の修正力というものが働いて初ちゃんが作らなくても他の誰かが蓮さんを作り出すならば、現状……


「二つ目の選択肢は……蓮さんやめぐちゃんがいる可能性を根本から消すということ?」

「……」


 初ちゃんがお姉ちゃんにそっくりなロボットを作るとか考えなければ、他の誰かが作ったロボットにより異世界からの侵略者は抹消されるか、何かの原因でそもそも侵略者来訪がなされないとなり、私も魔法少女にはならない――そこまではいい。


 でも、蓮さんの目的の一つに「自分たちの存在を消す」があるとしたら……考えれば初ちゃんに設計図を残させないのは、どうあがいても自分たちを作ってほしくないからだ。


 先ほど時間の修正力と言ったけど、その設計図を残すのが他ならぬ、過去にやって来た蓮さん自身になるのなら? 

 私たちの影となって働いて、誰にも認識をされないまま終わる――ややもすると、お姉ちゃんが幸せになれる未来になるまで、ずっとずっと。


「それが時間に介入をするということです。私は最初、自分たちを残さないよう歴史に介入をしました。それによって生み出されたのが爆発的な力を持つ結さんと、超常的な力を持つ柊さんです」

「どうして?」

「元々の歴史が私たちが彼奴らを滅ぼす……だけど、その存在が失われれば」


 代わりとなるのが私たち姉妹だった……? つまりは理由が分からないけど、私はマイとかをメッタメタにして滅ぼしていたってことになる――おそらく、彼女らに危険視されてお姉ちゃんがどうにかなっちゃうとか、それなら初ちゃんが「柊を作る!」の目的で動いて、蓮さんが復活したのも頷ける。


 どうあれ、蓮さんは未来を変えられず、おまけにマイたちに危険視される私たち姉妹が誕生した。


 恐らくだけど、私が魔法少女にならない状況も過去に経験したんだと思う……だって、私が魔法少女って現状があるなら、それが都合が良いってことだ。マイの技術が欲しいにしても。


「あなたたちの都合が良いように過去を変える……なら、あなたたちもいて欲しいって、お姉ちゃんは言う」

「いえ、それには」

「ダメ」


 マイの技術は彼女の都合の良いように歴史修正するってことらしいから、大部分は侵略者側に都合が良い、だから未来は変わらなかった。


 そうだ、元からマイの側に都合が良いように歴史は徐々に変わって行ったんだ――それが、蓮さんの意に添わないもので、彼女はただ自分の責任であるとばかり考えて、そこまで至ってないだけ。


「まさか……そんな」

「多分だけど、その異世界の侵略者……異世界にいっぱいいる」


 あいつらは自分の都合の悪いことを言わない。でも、蓮さんの存在は都合が悪い……自分が殺されそうになったときも私に「アイツが悪い奴」と言ったのだ。

 なら、蓮さんには未来を含めて存在してくれないと困る。


「それでは未来が……困った状況に」

「蓮さんが、きっと防げる」


 それに


「必要なら……私も長生きするよ、あなたと一緒に」

「そのようなことは」

「魔法少女になったって言うのは、きっとそれが理由なんだよ、人の倫理に反すること、その責任は負わないと」


 騙されたんだろうし、私も何も考えてなかったし、気持ちよさだって覚えていただろう。


 そしてきっと、前の世界で時間を巻き戻したのはきっと……私なのだ。

 甘言を囁かれたのかもしれないし、その状況になって願いを決めたのかもしれない。

 だって蓮さんはさっきから、自分が原因と言うけれど……マイと接触できるのは私だけなのだ、実際さっきだってマイは自らやって来て「時の巻き戻し」を提案してきた、トリガーは私自身の可能性が高いんだ。


 ……それならば、この時代に蓮さんが居続ける理由も納得がいく、初ちゃんにお姉ちゃんの代替を作らせないものそうだけど、私が原因ならば近くにいるのが手っ取り早い。


「私が特異点なんだね?」

「……私が歴史に介入をしたりしなければ、あなたが大きな力を持つことはなかったのです」

「違うよ――」


 お姉ちゃんが結婚するって言うのは分かりやすい。でも、おそらく初ちゃんに金銭面以外で協力したのも私なんじゃないかな。


 魔法少女はあらゆる倫理を跳躍する力を持つ……けども、それはイマの話、ただ、初ちゃんに協力をして彼女の超常的な頭脳と一緒に魔法少女としての何らかの作用が働いた結果、蓮さんの設計図の完成に至ったとすれば。


 いや、どう考えてもその時代にそぐわない設計図なんて書けないでしょ魔法の術式とか召喚するとかの技術を現代で描き起こすのと一緒で、いくら天才とは言え時代を超越するような何かを残せるとは思わない……まあ、たまにはいるけど、初ちゃんがねえ……?


 それより魔法少女としての知識と力のある私が手を貸した、貸す理由も充分にあるとなればそっちの方が。


「お姉ちゃんを元にしているから、私をかばおうとしているんだよね?」

「……」


 現世のAIは人間の真似事レベルだけども、未来ではそっくりそのままレベルまで行くのかも知れない……や、蓮さんは魔法少女プラスだから、同じものさしでは測れないんだけどさ。


「分かりました。共に参りましょう」

「一蓮托生……だね」


 どこまで行けるかは分からない――でも、みんなが幸せになれる未来があるのなら、その時まで。


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