第34話 二回戦敗退が御の字だったバレー部 見事三回戦突破
他校で執り行われるバレー部の練習試合の日――ライトノベル研究部に所属する私とはまるで縁が無さそうですが、普段ならばその通りです。
我が部に所属している初ちゃんが部活の助っ人として活動にお励みになるということで、私はバレー部の皆様を含めた人数分の差し入れを持っていこう……もちろん簡単なモノです。
助っ人の幼なじみというだけの部外者が重箱片手に応援ともなれば、試合に臨む皆様だって気が引けるでしょう。
「……あの、調子こいてんじゃねえよテメエということならば、試合のあとにいくらでも報復は受けますので……」
持ってきた差し入れは保冷剤と一緒にクーラーボックスの中に入っており、それは体育館の片隅に鎮座しております。
他校で練習試合をするだけでも気を使うのに、部外者の女が広々とスペース使ってんじゃねえよということであれば、お叱りを受けるのは至極当然です――まずは矛を収めて頂いて練習をして試合をしてからでお願い申し上げる次第でございます。
「今日は陽向さんが我が部に一時的に所属して、相手をフルボッコできる楽しい日……でも、我々には足りないモノがある」
ジャージの色からして最上級生かと思いますが、練習しているレギュラーの皆様から離れた位置にいるのは、つまりはそういうことなのでしょう。
あと、初ちゃんの能力は過度な戦力差をひっくり返すくらい優れているのは知っています……一応幼なじみをやっているので。
それとやっぱり論になってしまいますが、辛勝よりも完膚なきまでにやっつけるほうがスポーツはやってて楽しいみたいですね?
「なんだか分かる?」
最上級生の方を中心として固まる姿は、オオスズメバチを圧死させるニホンミツバチのようでありますが、ここで「実力?」と言えばその中心に押し込まれるのは私です。
もちろん苦笑しながらしなを作って、相手が正答を出すまで待つ手段も講じようと思えば講じられますが、レギュラーの皆様が練習する中、片や試合を観に来た生徒をガン詰めする方々が今後どうなるかも心配極まりますので。
「私の差し入れが」
「応援よ」
失礼ながら我が校のバレー部は弱小と呼ばれても致し方なく、初ちゃんを立ててようやくどんぐりの背比べから一歩抜け出す選手層。
そもそもスポーツ強豪校ではないので、多くの部活に応援する生徒自体がいません。
観客席の華のチアリーディング部や、攻撃を盛り上げる吹奏楽部も己のコンクールが活躍の機会になっているそうです――そちらはあまり私たちと関わる機会がないのでよく分かりませんが。
「うちの高校にエロコスプレ同好会があるのは知っているわよね」
「なんですかその名前だけで世間様からそっぽ向かれそうな部活の名前は……」
漫画とかアニメは現実世界に存在しないキャラクターが描かれているので、露出度において現実に存在すると取り締まられるレベルのヒロインが多く存在します。
ゴミ捨て場にゴミを捨てに行った時点で警察に通報されそうな過激な格好は、まあ、その世界ならば許されるのでしょう――また、そういう格好をして人目を集めようと考える方も、少なからず。
ただ、高校の部活動でエ……っちな、格好を作りましょうって部活を聞いた覚えはありませんでした。
一度聞いたらまず間違いなく「ああ、あの」って言うと思います。プラスの感情かどうかは判断を任せます。
「その部活にあなたに向けての衣装をもう作ってもらったの」
「バレー部との活動に何の関係が!?」
「エロコスプレ同好会は部活の応援でエロい衣装を作り放題、我々は巨乳の女の子のエッチな姿を見放題、それってWINWINじゃない?」
「私にデメリットしかありませんが!?」
先輩がこちらを勧誘する間、同学年や後輩の女の子たちが固唾を呑んで「衣装」とやらを見ていますが、服とはまるで思えません、これはパーツです。
こんな格好で道を歩いていれば、露出狂のそしりは免れないでしょう……厳重注意ですめば御の字で下手すると両親が呼び出されるレベル、何が楽しくて応援に来ただけの私がこんな格好を……
「お願いしまぁす!」
土下座だった。もうそれは本当にキレイな土下座だった。印籠を出された悪者のように続々と平伏が続いていって、私は水戸のご隠居のみたくなりながら乾いた笑みを浮かべるほかなく。
「いいですか! 怒られても皆様の責任ですからね!」
今後この高校を出禁とか言われても私は一切責任を負うつもりはありませんし、強要されたと断固主張しますからね、数の暴力で圧殺されそうですが。
うう……何がどうしてこんな格好をと心の中で泣きながら、変なところはないかと鏡で確認をしながら身につけ、おずおずと言った感じで更衣室から抜け出す――部外者が何で更衣室使ってるんですかねえ……もしかして相手方もグルだったりしますか?
「がはっ、いい、いいわ! 最高よ! これでアフリカの子どもたちもキレイな水が飲めるようになるわ!」
「いっぺん黒柳さんに怒られてください!」
最上級生なのに唯一レギュラーから(初ちゃんがいないときは彼女がレギュラーなのかもしれない)外れた先輩に後押しされ、チラッと体育館に足を踏み入れると。
音にするならドドド! って感じで周囲の視線が集まり、誰もが手を止め、誰もが目を疑い、初ちゃんもこちらを信じられないものを見る目で見た後
「ああ! 陽向さん!」
鼻血を吹き出して後ろに倒れ、周囲の皆様が駆け寄り……
「ご臨終です」
とはもちろんなりませんでしたが、試合どころではなくなった初ちゃんを欠いたバレー部の皆様は、フルボッコにするどころかフルボッコにされて試合を終えました。
試合に負けたけど良いものが見られたから実質勝利とうそぶいていたせいで、休日返上で長時間の練習を課せられたそうですが、その経験がインターハイに活用されることを私は願っております。
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