第32話 文芸部の皆様「……! ……! ……!」
「申し訳ありません。ひとまず粗茶でございます」
悠ちゃんVS月島柊の対決は決まり手「腰くだけ」で終了しましたが、一日一番の取組と違って、敗北後にもまた私には仕事があります。
部室には皆々様で持ち寄った物品が鎮座しておりますが、村雲さん改めて蓮ちゃんに振る舞われているお紅茶はその一部です。
冷蔵庫があれば口に含むモノも常備できるかと思いますが、それですと部室に居着いてしまいますからね、あくまでこの部活は、部活に入るのが絶対の我が校においての避難所みたいなモノなので……。
「ええ、頂きます」
口に含んでからしばらく、表情が明るく変化したのでおいしいと感じてくださったのでしょう。
少なくともカップを床に叩きつけて、こんなの飲めたモノじゃ無い、私が本当の紅茶を淹れてさし上げます……との反応でなくて良かった、思わず胸をなで下ろしてしまいます。
「提案:蓮もまた悠さんのマッサージを受ければいいかと存じます」
一度挙手をしてから、真剣な提案であると言わんばかりのいつもより硬い口調で、話がややこしくなりそうな方向へ行きそうな言葉を吐きますが。
私への誤解なんて幾多あるうちの一つで、今すぐに是正しなければならないものではありません。
数多ある誤解はすべからく自身の都合の良いように捉えられるべき、と思想の自由に真っ向から反発するほど思い上がってもいませんので、
「いえ……その、変な声を上げてしまう私にも非がありますので」
万一、人の支えがないと立ち上がれないほど、腰をいわした御老体のようになってしまっては、我が部活の活動内容に疑問を呈されてしまいます。
私の現在の足の不安定さは、生まれたばかりのひよこレベルですので、お行儀悪く机に手を付いているくらいですわおほほ。
「ま、柊がいつばん面白いから、わだすはどっちでもいいべ」
なまりと早口で何言っているか分からない感じになっていますから、本心ではきっとやりたくはないのでしょう。
会話の流れ的に全否定をしてしまっては、愛ちゃんの顔に泥を塗ることに繋がりかねないですから、そこにはちゃんと配慮をする……ここで蓮ちゃんがどのように動くかによって、数十分後の空気が決まっていくでしょう。
「少し前に言ったとおり、柊さんに99%似ているのが私です」
何度か聞いていると、ここまで自信満々に仰るのだからそうなのかもな、という気がしてしまいます。
この世の真理を語るような曇り無きまなこと、ハキハキとした口調で断言するのですから、それだけの論理が備わっているのです。
すごく疑わしいと言わんばかりの悠ちゃんも、わざわざ口を開いて「どこら辺が?」と指摘をしたりはしません。
凝視するような行動は「疑念」と思われて差し支えない気もしますが……蓮ちゃんにはまるで通じていないご様子。
「つまりは、性的なマッサージによって淫らに喘がされる可能性が大いにあると言うことです」
「喘いでなんかいません!」
「性的なマッサージでもなかんべ!」
もちろん衆人環視の中で先ほどまでの行為を行えと言われれば、あのー、そのー、と嘘をつくために必死になっている犯人のようにもなります。
悠ちゃんの行っているのは、大変気持ちのいいマッサージです。性的などと語頭につけられてしまっては校内での活動に大きな障害になります。
もっとも隣の文芸部の皆様からは、24時間やって欲しいと言われていますが! 部室等の壁が年齢経過で薄くなってみんなの声が貫通しちゃうのは……まあ、仕方ないですよね!
「嘘つきなさい! 柊さんの腰の具合を見るに後ろから激しく突かれたとしか思えません!」
「何を言っているんですかいきなり!?」
他の皆様ともそういうお話をする機会も……まあ、今後とも無かろうと思うのでアレですが、少なくとも私は清らかな身ですよ、未来永劫そうなのではないかという疑惑があって泣きそうですが!
「蓮、悠さんには生憎と柊さんの中身に適合しうる竿が付いておりませんのでそれは不可能かと」
「名称がさすがに具体的じゃねえべか!?」
「いえ、具体的に言うならばちん」
「愛ちゃん! 真っ昼間ですよ!」
清らかな身ではありますが、発言の内容が不純すぎて困ります――愛ちゃんも「昼間からする話ではありませんね」と納得してくれたことだけが救いです。
「そうです愛、具体的にするにしても最初におを付けなければ下品でしょう」
「蓮ちゃん!!!!!」
この話はこれ以上掘り下げないことをみんなで誓いつつ、新入部員を迎えて良かったねでこの話はしめようかと思います。
……ただ、一年間部活に入らなければならないのを逃げ続けていた件は、豪胆で見習う要素があるのではないかと思いました。
これだけで月島柊とはまるで違う人間だと言える気がするのですが……
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