第22話 (はっ、これデートイベントなのでは……!?)
もしも願いが叶うのならば、自分はどのような願いを叶えてもらうのでしょうか?
物語でも歌でも定番のお題目ではありますが、改めて言われると自分がどうしたいのか、ふと考えてしまう次第であります。
この世界では7つ集めれば願いを叶えるドラゴンなボールがあったり、絶対的な神様のような存在はいないので……や、いるのかもしれませんが会う機会は永遠になさそうなのでとりま置いておきまして。
現実世界では願いを叶えるのも問題を解決するのも自分の力次第ですから、あんまりにも大きな願いを持つことは忌避してしまう傾向にありまして……それでも、願いが叶うのならと考えるのは私のような小市民にも――夢を叶える力を持ってそうな友人たちにも魅力的に映るのだと思います。
本日の最後の授業にて担当の先生が蒔いた雑談の種は、水を与えられたわけでもないのにムクムクと成長をして花開きました。
授業の内容については定着が遅いというのに、どうでもいいと語頭につきそうな案件については、開墾から収穫までのスピードが異常です――ご祈祷から建物の完成まで10秒くらいで終わる感があります……下手すると神主さんが土地に足を踏み入れた瞬間に建物が完成しているスピード感です、三匹の子豚ではあるまいし。
(もしも願いが叶うのならば、私だったら……誰かの願いを叶える力がほしいですね)
願いを叶える回数を増やすには難癖をつけて断ってきそうですが、自分に超常的な力がほしいですはきっとかなえてくれることでしょう――もちろん、おまえにそんな力があっても叶えるのは難しいと言われて涙目になってしまう可能性はなきにしもあらずですが。
(考えれば考えるほどドツボにハマりそうです)
本来ならば気軽な雑談を真に受けて考える必要はまるでないはずなのに、球体になった練乳を喉元にぐりぐりと押しつけられているみたいに、顎は落ちそうになってしまうし粘度の高いモノが喉に絡むみたいに……すごくまあすごい気だるさを覚えるのです――ツッコんでいるのは自分ではないかってオチがつくんですが。
「確認。本日の放課後に柊さんの作戦行動に同行し、私の料理スキルを改善するためのプログラムを実行したく存じます」
どうやら帰りのホームルームのさなか、ずっと考え事をしていた様子でそれを中断させるように眼前に迫った頭にまずは謝罪。
なぜかと言いますと周囲を見渡してみれば教室にいるのは自分自身だけ、はたまた遠くからは部活に励む声が聞こえて参ります。
はたまたあと数十分もすれば夕焼けが太陽をズンドコ追いかけ回し、数時間で夜の帳が下りる……少々ではなく随分と称する時間彼女は待ち続けていたのです、謝らずして人は名乗れません。
(それに、帰りのホームルームが終わったら直帰が基本の私が考え事に励むなんて……これが物語だったらフラグが立っていますね)
ゲームとか物語とかで普段とは違うことをして進展させることはままありますが、人生は続き物ですしノンストップですからフラグの管理ミスをしても巻き戻ったりセーブポイントからのやり直しもできません。
できることがあるとすれば……
「本当に申し訳ありません。一人でぽつねんとしてしまって……」
これがゲームならばセーブポイントからやり直して、ホームルームで先生の話をちゃんと聞くを選んで愛さんを待たせずにいたのに……まあ、選択肢は数ある行動の一個でしかないので「ホームルームに集中する」を選んでも気がついたら違うことを考えていそうですね?
でも愛さんは選択肢を間違えても露骨に態度に示すこともなく、学校で後ろ指指されたら恥ずかしいしと嫌悪することもありません。
「了承、私は必要であれば天地創造から人類滅亡に至るまでの時間でも待ち続けましょう」
それほど長い時間を待ってしまうと、私は妄想の最中で死んでしまいそうですし、愛さんも不幸な目に遭ってしまうことでしょう。
それも世界平和のために人身御供になったとかならばともかく、現国の先生の発言をきっかけとして妄想していたら死んだとか、天国の神様だってノーセンキューして追い返されそう、帰ってきた酔っ払いか何かでしょうか。
「……申し訳ありませんが、お互いに土に還って、もしかすれば生まれ変わりを何度でもしそうな時間を待ち続けるのではなく、止めてくだされば幸いです」
私の屍を超えて目的のために努力をし続けるのならばともかく、元々は妄想に耽っていたのを止める止めないかの話ですからね?
愛さんは私の発言に対して口元を押さえながら軽やかに笑い、たおやかな笑みをこちらに投げかけます。
その顔を見ているとどんな人でも振り上げた拳を下げてしまいそうな和やかさでしたし、元々は私が怒られなければならない立場です。
鞄を手に取って同行を促すと、愛さんは
「提案、指を絡ませ恋人同士に振る舞うことが共同作業の定番であるかと存じます」
「今から買い物に行くだけですからね!?」
いくらからかわれても強く出られないのは、私が妄想にふけっていたからです……まさに身から出たさびと言っていいでしょう。
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