第21話 悠「……なんだあいつは(わだすが読み取れないなんてどういうことだべ?)」

 初ちゃんとはなおも接近禁止のようで、私が近づこうとしたらさみしそうな顔をして廊下へと立ち去りました。

 自分の知らない交遊があるとは思いますけど、何日か前には二人でデート(あ、練習ですね? 練習)をしていたかと考えると心に寒風。

 

 そして覇王様も愛さんの顔をマジマジと眺めた後「余も部室で食事をする」と言い付いて来ずとも構わぬと重ねられたので……ここは後々を今、ということにしておきましょう。


「愛さん。お食事はどこか場所を見繕ってと言うことで良いですか?」

「了承――検索結果、人当たりがなく外の風が気持ちの良い場所が数カ所あります。どうぞこちらへ」


 前々からお食事をするに相応しい場所に見当を付けていたということでしょうか? まるでネットの検索結果をそらんじるようでしたが、よくよく考えれば我が校のお弁当スポットがネットに流布されていたら……なんというか、なんというかですね。


 私も背中から見るとがっちりして見えると言われていますが、愛さんも両手足がしなやかですらりと長く、はたまた筋肉質だけども女性じみた丸みもきちんとあって、歩くたびに左右に揺れる髪もサラサラとしている。


 外での食事を推奨していない学校も小耳に挟むけれど、私の知る限りそのまま学校を抜け出す悪い子さんはいない……や、おサボりする人や、私もお菓子の持ち込みとかしているので「ルール守ってます」とは胸を張れないんですが……。


「システム変更……レジャーシート。さ、こちらへ」

「え、あ……鞄に入れてたんだ。びっくりしました。何もないところから出てきたように見えました」


 こちらを「ん?」といった感じで眺められましたので、せっかくご用意して貰ったのにすみませんと頭を下げました。


「ステータス、許容。そのまま昼食を開始することを進言します」

「は、はい!」


 ともあれ気分を害していないのならば、それに越したことはありません。友情改善プログラムの詳細を尋ねる前にお腹を満たすのも重要ですし。


 お弁当箱を太ももに乗せて手を合わせて頂きます……妹ちゃんのついでではありますが、自分が食べて美味しいのだから結ちゃんもおいしいと感じてくれるでしょう。


 すると、食事をする私の姿を少々訝しげに眺める愛さんの顔が見えました。


「す、すみません……何か失礼を?」

「NowLoading……」


 私を眺めているような感じがしますが、その先を……どこか遠くを仰ぐみたいに目を見開いたまま動きません。

 こうして膝を進めて会話をするのは初めてですが、気分を害すこと喜ばしいこと……互いにこれから知っておけば良いとは楽観的すぎたでしょうか?


「データ確認、更新推奨……失礼、これはどなたかに作っていただいたものでしょうか?」

「あ、私が作ったものになります」


 中学時代から弁当はお手製ですが、それが一般的でないことは存じています。

 お菓子の持ち込みを憚っているのも校則違反を取られてもしょうがないのもありますが、料理スキルは嫌味っぽいらしく、仲の良い皆様への風当たりが強くなっても困りますから。


 ちなみに愛さんの用意したものは、どこかのお店(少なくともコンビニではない)で買ってきたと思しき、何十品目も食べられるが謳い文句にもなっている高級感漂うお弁当です。


「柊さんはこの世で一番料理が出来ない人材なのかと思っていました」

「そう思われるのは私に責任がありますが!? いったいどこでそのようなご判断を!?」


 愛さんは優しいですし、ここには文字通り人一人来ないですし、風通しも良く日射しもぽかぽかと暖かいです。

 つまり様々な知識を適量携えながら、真っ当な判断が出来ると言うことです……何の確証もなく、私を「世界で一番料理できない」とはならない……でも、いったいどこでそう判断されてしまったんでしょう?


「クラスメートの皆様への知識は概ね把握しております、身長体重スリーサイズに至るまで詳らかに出来ます」

「……」


 嘘でこのようなことは言わない人なので、ある程度は本当に頭に入っていると思われます。

 ただ、私の料理スキルについては著しい乖離がありましたので、クラスメートを含め内容の見直しを進言したく……あれ、口調が似通ってきましたね?


「特に月島柊さん……あなたのことは、ほぼすべてのパーソナルデータが私の中に入っています……間違いなどあるはずがない」

「どこで調べました!?」


 ネットで検索したら出てくるようなデータじゃないはずです――仮にすべてがどこかに書かれているとしたら私は今すぐ引きこもってカーテンを閉じてベッドの中で膝抱えてしまいます。


「NowLoading……それは禁則事項です」

「プライバシー保護の観点……あ、もしかしてからかってますね!?」


 嘘やごまかしをしない女の子だって、小粋なジョークを挟むことだってあるでしょう。すごく真に迫っていたから真に受けてしまいました。


「ええ、冗談です」

「ああ……なぜかすごく気が抜けました……」


 背中にびっと汗をかきましたからね、恐怖とか不思議とか悲しみとか全部入りのなんと言って良いのか分からない感情で支配されました……。

 

「データ更新のため、一口おかずを頂くのを推奨されました」

「変わった頂き文句ですね」


 ともかく欲しいと言われればお渡ししましょう。なんか緊張をしているのが目に見えるのですが、私も数口頂いてますからね? 毒とかじゃないですからね?


「これは……大変美味しいです。この料理スキルに比べれば、私のものなどカスと言って良いでしょう」

「そこまで貶めずとも!?」


 派手な自虐だったので思わず肩を揺さぶってしまいました。


「アップデート……いや、パーソナルデータの収集のため、是非ご教授いただきたく」

「え、あ、そうですね……私に出来ることなら」

「ありがとうございます。これで未来のみんなも救われることでしょう」

「夢がちょっと大きすぎやしませんか!?」


 や、もちろん救われる人がいるなら協力しますが……と盛り上がっているうちに友情改善プログラムの話はすっかり頭から抜け落ちてました。

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