第20話 二股で収まらないのでは?(※そうじゃなかった!?)

 教室に初ちゃんが入ってくるのが見えました。多くの人が見上げるようにしながら眺めるのを、彼女は取るに足らぬといわんばかりに悠々と袖に。

 もちろん話しかけられればそれなりの対応はしましょうが、御愛想よく相手が望む通りとなるかどうか。


「……喧嘩でもしておるのか?」

「接近禁止を言付けられまして」


 クラスではたいてい私が初ちゃんの隣にいますから、彼女が何ごともなかったかのように一人で席に着き、自分も挨拶に伺うこともない。

 ひとまずは覇王様が怪訝に思うほど、違和感ある仕草だった。


 悠ちゃんも言葉を選んでくれましたが、私も出来る限り月島柊が何かをやらかしたように返答を模索して応じたつもりです。

 一般的に接近禁止を言いつけられるのは、悪業をなした人間であるから、多くの人は私が悪いことをしたから初ちゃんが一人でいるのだと判断したのでしょう。


 まだ「可哀想なことをされたんだ」と下手に見ながら近づいてくる人はいないでしょうが……。


「ほう……余が、アイツの代わりか?」


 すうっと目を細くしてこちらを眺めてこられる悠ちゃん――言葉では怖い表現をされていて一見すると怒ったようにも見えますが、あっちこっちにあるアトラクションを遊ぶようにとっかえひっかえ仲のいい人と遊ぶほど……私には仲良しの友人はいません。


「そうかもですね?」


 肩をすくめながらいうと、初ちゃんが一瞬悲しそうに表情を変化させたのと、悠ちゃんが呆れたようにため息をつきました。


 月島柊は不器用極まりないので腰を据えて会話をする相手もこの教室では、初ちゃんと悠ちゃんくらいしかいません。

 ただ、もしもお友達が多くて関係を持つ人間が多い方ならば、今日はあの人、次はあの人ととその都度「友達づきあい」をされるのでしょう……羨ましいことです。


 私からすれば羨ましいに他なりませんが、一般的には友人付き合いをすることが多い方が美徳とされましょう……少なくとも学生の間には。


 初ちゃんは友達になるだけでクラスでも格の上がるレベルアップアイテムのようなモノみたいで、いつも近くにいるお邪魔虫がいないのを良いことに初ちゃんと距離を詰めてくる人も……いるかもしれません。


 もっとも部活の助っ人をしている関係上、広く浅くは平時から嗜まれているので、考えなしに話しかければその枠に置かれて以後の関係に変化を及ぼさないんですけどね?


「まあ良い……そういえば次の授業であるがどの程度まで進んだか教えて貰おうか」

「はい教科書のページが……」


 予習復習はある程度しているのでどこまで習業しているのかは簡単にそらんじることができます。

 悠ちゃんは「余の想定と異なる」と苦笑いをしながら言いますが、これは二学期になってからこの回数授業をこなしているからして、ここまで進んでいるのだろうと事前に考えていた。


 ……と分かるのはもちろん関係性の深い私だからこそです。


「構わぬ……楽しみにしているが良い」


 他の方がどのようにお考えなのかは分かりませんが、悠ちゃんは「進み具合が遅いな」と言っているので、よしんば授業で返答を求められても無難に応じるでしょう。


 普段教室で授業を受けないヤツだから、見せしめで当ててよ先生と息巻く時点で……その、気に入らない相手への嫌がらせならば自分でやったらどうですか? と言いたくもなりますが悠ちゃんは「構わぬ」と仰るのです。


 始業の鐘があと数分と言ったところで覇王様はきちんと席に戻りますが、初ちゃんが「あんたが隣の席!?」と言わんばかりに目を見開いたのは笑ってしまいそうになりました。


 いや、普段から初ちゃんの隣は空白になっているじゃないですか……もちろん机を動かして何かをする際にはとことこと私が近づいてちゃっかり直してたりもしてますが、あれ、見えてなかったでしょうか?


 とまあ、気づいて貰いたいと言った記憶も無いので、初ちゃんに認識されてなかったとしても不足だと文句を言う筋合いはありません。


「と、すみませんでした愛さん。悠ちゃんちょっと……スペース取ってましたよね?」

「作戦行動に支障はありません」


 黒縁眼鏡のツルを手のひらで持ち上げながら、規則正しい受け答えをするのは天野愛(あまの めぐみ)さん。


 どことなく創作物に出てくるロボット感漂う仕草で、教室内の一部にてロボ子と呼ばれているのは知っていますが、こんな人間味のある少女がロボットだったら私は驚かずにはいられません。


 ただ、ある一点において「完璧」であることは言うまでもありません……初ちゃんと同じくらいの身長、女性らしさ漂う胸元、成績は学年トップ、発言の特異さは覇王様で慣れているというか、愛さんに慣れていたから悠ちゃんにも動じなかったと言いますか。


「ただ。一般的に友人とは仲良しであるべきかと存じます。関係改善プログラムを提案します」

「あ、ありがとうございます……では、そのことに関しては後々席を外して」

「了解しました」


 ……私にはこの子をロボットみたいだと嘲るようなマネはしたくありません。

 友人と仲違いしたなら協力するよとすぐさま反応してくる人間味溢れる女の子が、発言だけで判断されるのは少々納得のいかないところです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る