第23話 万引きハンターにでもなった心持ちですよ……
互いに指を絡ませてのご同伴――ではなかったので、スイスイとスーパーまでたどり着きます。
私は人様から後ろ指を指されるような行動はした覚えはありませんし、これからもないであろうと願いたいですが、たびたび美少女を連れて来店することを疑問に思われていないでしょうか?
右手でインテリキャラっぽい(偏見)仕草で眼鏡を直す愛さんを眺めながら、隣に常に美少女がいる一般人とか、何股しているのか分からないとか考えられていたら……あ、自意識過剰ですね、私もスーパーに来たら人様のことはかまってられません。
「承知いたしました。作戦コード、遂行の補助……運動シークエンスへと移行します」
そういうと眼鏡をおもむろに外して、こぎれいな眼鏡ケースへと丁寧にしまい……素顔もまた美麗なのだと思いました。
視力の補正器具がデバフ要素なんて逆立ちをしても言えませんが、ツルの部分がやや厚めなので堅い印象を受けるのは間違いありません。
それが無くなることによって幼さが垣間見える……パッチリとした目がギャップをもよおすと言いますか、こんなに印象が変わるのだと。
愛さんは両腕をくの字に曲げて手の甲をくびれのあたりに置き、胸を張るようにしながらやや偉ぶったかのごとき態度を見せます。
その姿はお小遣いを片手にお買い物を済ませた低学年の児童っぽさがにじみ出ており……何をしようか迷いましたがひとまず拍手をしてから。
「視力に問題はありませんか?」
「理解、眼鏡にはレンズが入っていませんから無用な心配です」
先ほど鞄の中にしまったばっかりの眼鏡ケースから中身を取り出し、枠の間に指を差し込んでみせる愛さん。
なるほど確かにレンズが入っているとおぼしき部分には何も入ってはおらず、マジックショーを眺めている心持ちになりました。
「はぇー、おしゃれですねぇ」
眼鏡の役割と言えば視力の矯正が主だと考えていたので、あえて付けるという選択肢を考慮から外しておりました。
どうぞお気軽にお持ちになってくださいと誘われたので、遠慮無くかけるふりをしてみたり、近づけたり遠ざけたりをしながら喃語みたいな声を漏らします。
そんな私に対して愛さんはやや恥ずかしげな表情を浮かべつつ、
「この眼鏡にはスキル:おしゃれは含まれてはおりません。モード:知的が含まれているだけに過ぎず、そのように褒められてしまうのは恥ずかしいです」
夏の日差しを浴びたように目を細めて、熱を感じたように頬を赤らめる姿はこちらからしてもまぶしいモノを眺めたような気分になります。
その原因ともなった眼鏡を素直にお返ししまして、愛さんがそれをしまっている間に幾度かの深呼吸……プレゼントを喜んでもらえるかどうか、と思い悩んでいるような感覚を少しでも改めたく。
追い詰められた悪役が起死回生を求めるように「お店に入りましょうか?」と誘うと、愛さんも咳払いを一つして同意を示してくれました。
昨今、女子高生はスーパーなどに入り浸ったりはしないのか、誘う女の子がみんな同じ行動をしている気がします。
悠ちゃんと同じように店内を物珍しげに眺めながら、キョロキョロと周囲を伺う姿は財宝を探すトレジャーハンターのようです。
もっとも、お惣菜の値段が3桁のごくごく一般的なスーパーですから、お宝探しと言っても半額シールの貼られたお得な品物になりますね、値段が下がったモノがむしろお宝になるというレアケースですね、なぜか私にはなじみ深いですが。
「ふふ、買い物に慣れてくるといかにして手早く済ませるかをタイムアタックしている気分になりますよ」
沼にはまらせるつもりは一切ありませんが、なぜだか愛さんにはシンパシーを覚える箇所があると言いますか、観察をすると自分と同じ癖があると感じると申しますか。
もちろんお相手は誰しもがうらやむであろう美少女、黒縁眼鏡を外して垢抜けた感のある姿は多くの人の耳目を集めること間違いなし、下手すると商品よりも眺められているかもしれません――新手の営業妨害でしょうか。
「疑問。私にそのように見つめられる理由は無きに等しいかと」
「ああ、申し訳ありません」
きれいな横顔とはいえ、そんなにまじまじと穴が開くほどに見つめていては失礼というものですね、アイドルとして活躍する様を眺めるような第三者ならばともかく、今の私は対等に会話ができる立場にいるんですから。
照れたように口をむにむに動かす姿は、美少女が照れる図として額縁にでも飾っておきたい美麗さでしたが、それと同じようにカートに敷き詰められた品々……寸分も狂いも無くパズルでもはめたように取り置かれた品物は少なくとも私が入れたものでは無い。
考え事をしていたから見間違いでもしたかと思い、中空をしばらく見やりつつカートを動かし移動をして、バッと愛さんの手を眺めると――あ、今の動きだるまさんが転んだみたいでしたね?
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