第18話 誰に対しても変わらないかと言えばそうでは無いから面白い

 週明けの月曜日――唐突に我が家にて執り行われた大掃除にて、休日は少々足早に通り過ぎた気が致します。

 騒がしくしてしまった家族に関しては、事情を八割方隠して説明したのですが、夜に初ちゃんのご両親が菓子折持参で経緯を暴露……お父さんに「言うべきことは言いなさい」とたしなめられました。


 たしかに嘘やごまかし、肥大した自尊心や他責思考等々で人生が詰んだ、あるいは方向性が著しく狂った人材は物語でも授業でも聞くことがあります。

 他者に対しての著しい暴虐性を正義感で覆い隠して炎上させた、炎上したとの件はSNSでも散見されます。


「良かれと思ってやったことでも、良くない方向に向いてしまうことはありますよね……」


 初ちゃんは数日間の接近禁止をさやかさんから告げられたとのことで、私は一人での登校を余儀なくされました。 

 ふたりですごく会話するとか、面白い会話であっという間とか……そんな認識をした覚えはないのですが、普段よりも圧倒的に時間の流れを遅く感じます。


「……来たか」

「覇王様?」


 道中にやたら見知った顔があったと思い立ち止まってマジマジと眺めると、目をつぶって腕を組み話しかけるなオーラを発していた悠ちゃんが、私が近づいたことで弛緩し出てきたのが今の発言。


「大方の事情は貴公の妹から聞いておる。だが、彼奴の代わりなどではないぞ? 前々からこの座は狙っておったのだ。空白を理由に歩を進めたのではない」

「ありがとうございます。正直に言うと寂しかったので助かりました」


 私の左側を定位置にしたのか、緊張を醸しつつ普段よりもゆっくりしたスピードで歩く。

 歩く人によって歩幅が違うのだな、と考えてみれば当たり前の結論がボディーブローのように効いてくる。


「貴公は寂しがり屋であるな。余は、一人での登校などたやすいぞ?」


 鼻がすんと鳴りそうになりごまかすように首を軽く振ったら、悠ちゃんがこちらを見上げながら胸を張って仰ぎ見ながら言う。

 

「本があれば一人でも平気なんですけど」

「令和の二宮金次郎でも目指す腹づもりか?」


 両手で本を持ち、当然ながら勉学に必要な道具は背負うわけですからリュックに、二宮金次郎さんのようだとの指摘は言い得て妙のように思えました。

 

「では、100年後には石化した私が各学校に飾られていますね」

「動いて人を化かすとの風評を刻みつけられれば、各時代の偉人も文句の一つも言いたくなるであろうな……」


 夜中に動き出す二宮金次郎の銅像、目が光るベートーベン、音楽室のピアノを弾く偉人、夜中のトイレにいる花子さん。

 髪の毛を追加される織田信長に怪しげな文句(日本語)を語るフランシスコ・ザビエル――まあ、この時代から100年経ったら教科書も電子化が進んでいるかもしれません。


「それはそれで風情がないな」


 電子化されれば教科書に落書きなんてことはできないでしょうから、時代の偉人も安心ですねと言ったら、悠ちゃんは朗らかな笑みを浮かべつつ言った。


 もちろん彼女がサングラスをかけさせられる織田信長や、画鋲を目に仕込まれるベートーベンを肯定しているわけではないんですけど、情緒に欠けると言われるとアナログ派の私は肯定してしまいます。


「……学校に飾られる銅像も3Dプリンターで?」

「土地を有効に使うためにホログラム化しているかもしれん」


 クリスマスの時期になるとサンタの格好をし始める種々の偉人たち……今よりも助走を付けて殴りかかってきそうになっていませんか?


・・・

・・


 クラスメートの悠ちゃんはクラスメートでありながら同じ教室で勉学に励むことは滅多にありません。

 少々誇張した表現だと信じたいですが、初ちゃんは彼女が一年時から同じクラスであったことを知らないフシすらあります。


 たしかに私、月島柊とも会話を交わしたとかも無かったはずで……その実、教室には顔を出さないのにやたらテストで良い点を取り、出席日数確保のためのスポーツでも無難に良い結果を残す彼女に良い印象があったかと言えば。


「……」

「良い、許す」


 授業に出てこないから朝から登校をしてくるなんてことも滅多になく、私と一緒に顔を出しただけで突き刺さるような視線が集まりました。


 もちろん害意ではなく興味本位とも言えるもので、必要以上に咎めることもないのですが、硬くなった私の体に際して覇王様が袖を引く。


 自分が許すのだから貴公も許せ、と言った感じの視線をこちらに向けて、私も当人が許しているのだからと緊張をほぐします。


「そういえば、覇王様はちゃんと授業に全部参加されるんですか?」

「貴公は……」


 自分の椅子に座って、机の上に軽くお尻を乗っけた悠ちゃんに水を向ける。

 彼女は何か驚いたように目を見開き、苦笑と一緒に咳払いしてから、


「思えば……貴公は変わらないな……」

「そんなしみじみと言われてしまうようなことですか!?」

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