第15話 私って胸が大きいくらいしか良いところないんでしょうか……

 手短に準備を整えようとも考えましたが、はたまた先日デートをした相手だと考えると、身だしなみを必要以上に整えなければと気が急くのです。

 まあその、普段からやってないと必要以上を選択しても上手くは出来ないので、あくまで自己満足の話にはなってしまうのですが。


 そのさなかに「昨日はごめんなさい」と弱々しい態度で謝る結ちゃんと相対。


「いいえ、誘いをかけたのはこの不肖の姉なんです。何を気にする必要もありません」


 胸の辺りを頼ってくれよと言わんばかりに叩くと、彼女は少々寂しげな笑みを浮かべながら軽く頷いて、お礼の言葉を述べます。

 夜のテンションに任せて普段とは違う行動をすることはあるでしょう――身の破滅に繋がるほどの大事ではないのだから大きく構えていれば良いのです。


 問題やハードルも思ったより気弱だから、強気に身構えていると寄ってこなかったりもするんですよ?


 「綺麗に見えますか?」「お姉ちゃんの戦闘力はいつだって53万だよ」と見た目に関わる要素ではない部分を褒められた気がしますが、女の子の戦闘力は見た目だと気を取り成し歩いて数分の幼なじみの家に向かいます。


 日が出る時間がドンドンとゆっくりになっていく秋口、まだ夏の暑さを残しているそんな時期、気がソワソワと高ぶっているのは先日のデートが水気の混じった泥の中に手を突っ込むような……微妙な感触で全身を包んでいるからでしょう。


 関係性が大きく変わったわけでもないのに、自分の気持ちにやや変化が生じたと言うだけで、近づくことさえも億劫になるんだから心理面は人に大きな影響与えるのだな、と思います。


 それでも問題から逃げ出してしまえば解決は程遠く、自分の抱えたものを他人にやって貰おうとは鬼畜の所業。

 ある程度の恐怖を担おうとも、踏み出すのに勇気のいるイベントであろうとも……。


(初ちゃんが盗聴器の仕掛けられた人形をお持ちであったという点。いかにして伝えれば良いのか私も戸惑います……)


 幼なじみが抱える恐怖の代替わりをすべて出来るかと言えば、自分には不出来な要素がそれこそ両手で掬いきれないほどありますので不安はあります。

 

 でも、問題から逃げ出して引きこもり、目をつむっていればどこかへ行ってくれるかというと、そんなことはまったくないわけでいつか自分自身が清算しなければいけない。

 ならばと両足を肩幅程度に開いて、踏ん張って気合いを入れて立ち向かうんだ……あ、もちろん大の字になってそのまま仰向けになって倒れる可能性は大いにあるんですけどね?


「あ、のぞみさん! お帰りだったんですね! あれ、大学が始まったのではなかったんですか?」

「あっはっは~。なに、単位を落とさなければ良いんだよ」


 たしかに大学の講義はすべて出席せずとも、できるだけ上手い立ち回りをしながら試験(またはレポート)を乗り切れば良いのだとのぞみさんから聞いていますが……。


 あ、ご紹介が遅れましたね? この方は日向のぞみさん――職業大学生、某有名国立大学に通う二年生。

 大学進学を機に一人暮らしを始めて、滅多に顔を合わせる機会が無くなりましたが、妹の初ちゃんや私の顔を見にたまに帰ってきます……同じ都内であるとは言え時間を作って下さるのはありがたいことです。


「それにだ……大学にはキミや妹のように可愛い子がいないんだよぉ……」

「それは……そのお見舞い申し上げますが、大学は可愛い子を見繕いに行く場所じゃないので……」

「思えば高校時代は良かったよ……妹は全身全霊で美少女だし、キミはおっぱいをすぐに揉ませてくれた……」

「歴史改変されてませんか!?」


 先日は何か抱えるものがあったと思しき妹ちゃんに深夜テンションに任せて胸を差し出しましたが、その実のぞみさんに「はいどうぞ」とした覚えはありません。

 初ちゃんがモデルさんみたいな美少女なのは言うまでもありませんが……。


「そうかい? キミなら強く当たったら一晩くらい体を貸してくれそうな危うさがあるが」

「あの、大学にはちゃんと勉強に行っていらっしゃるんですよね?」

「もちろん、勉強と性欲には誠実であるつもりだよ」

「まあ……それでお困りないのならば、若輩者は何も言いませんが」

「や、ほんと、キミは良い子だよね。大学にはしゅーちゃんみたいに可愛くておっぱい大きい子いないし、だいたいそういうの彼氏持ちだし」

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