第14話 結ちゃんは疲れているんだと思います……

 お? みたいな感じで目を見開く結ちゃんもとってもプリチーなんですが、もしも幼なじみが中に撮影道具を仕込まれたお人形を持っていたら……それが私よりも高精度のもので、あらぬ映像を撮られてしまったら弱みを握られたようなものです。


「きっと犯人さんは無造作に人形にカメラを仕込んで、その一つが初ちゃんの手に渡り、運良く私の部屋という地味な場所へとたどり着きました……こうだと思います」


 無作為ですし機材だってタダではないでしょう――回収するリスクもありますし、何よりバレればお縄にもなりかねません。

 男性は性的コンテンツのためならバカになれるんだと酔った父が言って、母に往復ビンタを食らっていたのを思い出します。


「たしかに言われてみれば……(初ちゃんが犯人なら何食わぬ顔をして人形を回収するチャンスがいくらでもあったから、被害者の可能性も万一あるのか)」


 覇王様をリスペクトしているのか、モニョモニョとした言葉尻で何を言っているのかよく分からない感ある台詞でしたが、ねえねえなんて言ったの? と顔を近づけて問いかけることなどしません。


「では明日、初ちゃんに直接聞いてみたいと思います。こんなにたくさんのお人形さんです。中古ショップで見繕ったものの中で怪しげなものはなかったのかと」

「そ、そうだね」

「結ちゃんも気になっていたからこうして姉にお話に来てくれたんですね、本当にありがとうございます。お礼は……あ、そうだおっぱいを揉んでみますかー? なーんて、あはは」

「いいの!?」


 冗談半分で言ったらすごい食い気味に反応されたので引き下がれなくなったのですが……。

 深夜に許されるちょっとセンシティブなネタを披露したつもりなんですが、結ちゃんも受験勉強さんのハラスメントでメンタルが崩れかけだったのかもしれません。


「あ、ごめん、せっつかれたら引くよね……」

「いいえ! 誘ったのは私ですよ! むしろ痴女だと後ろ指を指される行為です! 結ちゃんは何も悪くありません!」


 私も深夜テンションが混じっていたのでしょう……デートの疲労感は心地の良いものでしたが、やはり時間帯が普段なら絶対に言わないようなことを言わせたし、結ちゃんも平時なら「もう~」と笑いながら言うコトにこちらの胸元をガン見するってリアクションをしたのですよ。


「その、触ることで少しでも癒しになるのなら。姉は喜んで胸を差し出す所存です。第一、女の子同士ならふざけ合いでさわらせっこするそうですよ? 姉妹なら尚更距離が近いですから不自然ではありません」


 もっとも自分にはふざけ合いをする友人に恵まれず、初ちゃんも悠ちゃんもそういうふざけ合いを好まないタイプなので未経験ですが。


「だ、だよね~? あんま中学生だとそういうことしないけど、高校生になると成長をするからあるのかも」


 身長や諸々のサイズは20まで伸びる云々言われていますが、女の子は高校入学くらいで止まることが多いそうです。


 一般的な例ですから誰しもに当てはまるとは限りませんし、姉の目から見て結ちゃんは全世界で一番の美少女に成長を続けるのが目に見えていますから、あくまで平均的な話を出してどうするのですか。


「で、では! 大した物ではありませんが……」

「大間のクロマグロだよ!!!!!」


 妹ちゃんが握りこぶしを作って私の発言を否定……否定したんでしょうか? 毎年せりで高値が付いたのがニュースになる日本有数のマグロの名産地を汲んで……その、どういう意味なんでしょうか?


 ま、まあ、褒め……褒めてくれていたのならば? 姉も恥ずかしさを伴いつつ差し出すことに喜びがある……ような気がします。


「わ、わぁ……や、柔らかい……それにほどよい指の返りがあって、この弾力がとっても癖になっちゃう。ナイトブラ越しだけど名品であることは間違いないと思うし、直接触れる人は宝くじ1等分の資金出すことを検討しないと」

「お金を出されても直接はさすがに断りますが!?」


 どこか恍惚とした表情で遠くを眺めるようにしながら胸を触る妹ちゃんを観て、疲れが溜まっているんだなと思いました……。


 「今日は早く休んだ方が良いですよ」と体を慮って言うと「この手触りは一生忘れない」との返答があり、姉の頭の中で彼女の疲労を何とかするべきかと思いましたが、翌朝になってぶり返すのもなんだと考えてすべて無かったことにします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る