第12話 遊園地デート!(後編)
規格外の美人さんだから……そのように見えるということでしょうか? まあでも、男性に性欲がなかったら自分も見向きもされない可能性があるから、初ちゃんの言っていることは真なのでしょうか?
「……初ちゃん。初ちゃんはやっぱり聞き手側に回るのが正解だと思います」
「あらどうして?」
「一般論ですが、男性にズバズバ言う強い女の子は敬遠されがちです……」
申し訳なさそうに言うと、彼女は痛いところを突かれたと言わんばかりに表情を曇らせる。
たしかに世の中には腕を組んで性的にアピールをする女の子も、可愛さ全開で顔を近づけてくる女の子も、気がありますよとスキンシップで表す子が好きな人もいるでしょう。
「ただ、あれやこれやをすべて態度にして、口にして、大好き欲張りセットみたいなのを出されると、男性というのは逆に引いてしまうのではないでしょうか?」
「それはあなた調べのこと?」
「いいえ、私は体感的に思いました……自分はこうして初ちゃんにくっついて貰えると安心します。ですが」
「そうよね!?」
人目も憚らずにイチャイチャする人たちを「バカ」と表現するのは、きっと理由があって、それは男性の受け身な心が一端であると説明しようとしたら。
全部を言い切る前に初ちゃんは輝かしい表情で同意を示してくれました。
「こほん、そ、そうなのよ……私も最初から全身全霊で愛情を告げてたら、キモいなコイツって思われるんじゃ無いかと考えたら」
「そんな人に告白しなくていいですからね!?」
一方通行の愛情を肯定するつもりはありませんが、少なくとも一度やり過ぎただけで「キモいわー」と考える人は熟慮が足りないかと存じます。
「ダメですよ、初ちゃんは可愛いんです。良い子なんです。器量よしなんですよ。だから、あなたが好きになった人が……あなたに相応しいとても素敵な人だと想定させてください」
「でも、相手のことはこれから知るのよ? あらゆる可能性は想定されて然るべきだわ」
初ちゃんの言葉にも一理あって……それどころか私が素敵な人に恋に落ちてほしいってワガママを言っていて。
「でも、初ちゃんが好きになった人なんです。私の知っている初ちゃんは、変な人を好きになったりはしません」
「あー、好き」
「え?」
無意識のうちにこぼれ出た言葉のようにも感じました――初ちゃん自身も、私のキョトンとした反応で自分の発言に気がついたくらいで。
彼女は全身を真っ赤にするような勢いで腕を振り、
「違うのよ! や、あなたは幼なじみとして大切に思っているわ! 今の言葉はね、一目惚れした先輩に対しての台詞なの!」
「あ、ああ……驚きました。まったくいけませんね、自分に言われたと勘違いしちゃいましたよ」
心臓の鼓動が耳にうるさい……熱が頭に湧き上がるような感じがする。
私は初恋とかもしたことのない恋愛初心者だから、あくまでも想像のお話なんですけど――きっと人を好きになるって、その人に対して「あ、好きだな」って感情を向けるんだと思うんです。
初ちゃんの言葉は私を「好きです」と言っているかのようで……それはライクじゃなくてラブで、唐突に告白されたのかと考えてしまいました。
「あ、アトラクションに乗りましょう!」
「そうね! 絶叫系とか!」
先述の通り閉店間近で人が溢れている場所だったので、人気のアトラクションも何十分待ちでしたが……お互いに何を言って良いのかが分からなくなって、気がついたら順番が来て大声で叫んでいました。
「……私、絶叫系ダメです……初ちゃんは、絶叫系の好きな恋人と良いところに行ってください……」
「ごめんなさい」
私もまったく冷静で無かったから、絶叫系との提案に何ら疑問を持つこともなく向かってしまいましたが。
元々はブランコも押されるのが嫌なレベルでしたし、ジャングルジムなども高いところまで上がれず、ちょっと高めのすべり台でさえ恐怖心を覚えていた幼少期。
それらをミックスした高くて勝手にスピードが上がってグラングラン揺らされる乗り物を年齢が上がっただけで克服できるかって言うと、そんな甘い話はないわけです。
「謝らなくていいんです。きっと男性もアトラクション苦手女子より得意女子の方が都合が良いのです……」
「いいえ! きっと私の好きになった人もジェットコースターに乗ったら悲鳴をあげて、気分が悪くなって、渡された飲み物を申し訳なさそうに飲むはずよ!」
「そんなひとに初ちゃんは任せられませ……あう……」
初ちゃんは自分一人で歩いて行ける強い女の子ですが、そんな子でも守っていける勇者みたいな男性に心を尽かされてほしいのです。
少なくとも絶叫系一本で青くなってメッチャ心配されているやばば系女子よりも強く、左腕に抱きつかれてもさらに抱き寄せるような力がある人が……。
「初ちゃんは優しいです。こうして手も握って歩いてくれます」
「……ま、ね」
暗くなるまでには時間があったんだけども、私の体調的にリタイアせざるを得なくて。
申し訳なさそうにしている私の左手を握って、先導してくれる姿は本当に格好良くて……ドキドキする。
「好きな人への告白……上手く行くと良いですね」
握られた手が強くなった気がしました。私も心のどこかで成功しないでほしい……いや、そうじゃないですね、私を守ってくれる女の子がいなくなってしまうのが嫌なんでしょう。
「また、行くわよ。今回は生憎と相手の嗜好に合わせられなかったわ。失敗は成功のもと……成功するまで試すのよ」
見上げるようにして彼女の表情を伺うと、キリッとして、前を向いていて……俯いている私とは段違いの強い女の子。
きっと、彼女が好きだと思った人は、私の考える男性像よりもずっとずっといい人なんだろうな、と思って不意に胸が痛んだ。
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