第11話 遊園地デート!(前編)
スポーティーな印象を持たせる格好をした、シュッとキリリな幼なじみと一緒に人が行き交うテーマパークを歩く。
と、大げさなことを言ってしまったのですが、幼少期に訪れて以来の「もう閉店が決まっている」場所なのです……設備等々は推して知るべきかな。
とはいえコレはあくまで恋愛の練習……あの頃、あのとき、その心を思い出している暇はありません。
「ええと、ひとまず会話ですね……あ、賢い初ちゃんなら言うまでも無いですが、聞き手を務めるのが良いのが吉だと思います」
「そうなの? 私の知る限り女の子が喋って男性が先導するイメージがあったけど」
「初ちゃんのレパートリーに男性を乗せるトーク術があれば然りだと、私調べのデータにあります」
「(……あのアマ)」
小声で何か呟かれましたが、閉店間近で昔を懐かしんでおられる方々……と来店希望の大盤振る舞いに足を運んだ人たちの声で耳に届きません。
月島柊の中にも初ちゃんが相手を乗せて楽しませるトーク術をするというのはいまいち想像できません。
覇王様には端的に「面倒な相手にはニッコリ愛想振るって聞き手に回れ」と言われましたが、その……懸想をするお相手は面倒な相手ではないので、ちょっぴり改変させていただきました――情報元はバレていないはずです。
「私のデータでは腕を組んでコミュニケーションを取るというのが最善とあるわ」
私の発言に対して少々引きつった笑みを浮かべながら小さく何ごとか呟いた初ちゃん。
彼女もまた勉強熱心な人ですから下調べは万全なのでしょう……自分も繁々とデートをするカップルの動向を眺めた経験は無いので分かりかねる部分も多々ございますが、腕を組みながら歩くのは語頭に「バカ」と付きやしないでしょうか?
「ではそれは恋人さんにして頂きまして」
「リハーサルは大事でしょう!」
ただでさえ初ちゃんが目だって衆目を集めているというのに、恋人のフリをして腕を組んで歩くのはいささか憚られました。
絶対にやるとの鋼の意志を感じますが、彼女ならばぶっつけ本番でも……あ、ダメですか?
「では私の右腕を安全バーにして頂いて」
「そこは左でしょ」
私の利き手は右なのでどうせならば初ちゃんに先行して頂きたかったのですが、自分は恋人の男性側なのだからワガママなどは放り投げなければいけません。
ひとしきりためらいを入れた後に左腕を差し出すと、初ちゃんは待ってましたと言わんばかりに全身を巻き付けるようにします。
左の肩に軽く頬を乗せて、こちらににこりと笑いかける姿は確実に告白を成功させるぞ、の感を漂わせていますがコレはリハーサルなんですから、もう少し遠慮を伴っても良いのではないでしょうか?
いや、コレは私の羞恥心から来るワガママですね。彼女の告白を助けると約束したのですから、何か勘違いしている方々の拝みなどはスルーしましょう。
「こんなこと殿方にしたら絶対に落ちますよ……」
「あなたは?」
「私を落とすのはクエストクリア条件ではありませんからね!?」
「ふふっ、冗談よ? リハーサルから本気でやらなくちゃ本番で成功しないでしょ?」
「その意気は買いますが……本番前に張り切りすぎてしまうと疲れますよ?」
私の空いた右腕で物販のお菓子を買い、食べさせてと言わんばかりに口を開く姿は――と、ここで自分に電流が走りました……コレはどう考えても成功したあとの姿に他なりません。
もちろん告白して成功するしないは別として、暇があればデートを一回や二回するでしょう……受験生に暇があるのかという漠然とした問いかけはありますが、ここまでのスキンシップをすれば自分に気があるんだなとよっぽどの鈍感な人間で無い限り気がつくはず。
そして初ちゃんは絶世の美少女でもありますし、やる気さえあれば愛想もよくできます――MPが消費されるって言って滅多にやってくれませんが、職業は武道家ですか?
「ふっふっふ。私が気がついてしまいましたよ?」
「あら、私の胸のサイズに?」
「本番で殿方が胸の感触に夢中になって初ちゃんを放っていたら怒ります……」
月島柊のように無用の長物と化している品物はともかく、初ちゃんはモデル体型でありながらまた張り出す部分は確保されています。
ただ、こうしてイチャイチャしている最中に「隠れているけど意外と大きいんだな」と考える男性に初ちゃんを任せられるでしょうか……いやでも、男性でも女性のこういう仕草になんとも思わない人もいるかもですし。
初ちゃんと比べればデクも良いところの私でも、存在感だけはある胸ってだけで異性の視線を集めますから――なんかいまいち性的欲求を保持してないって感じの人が想像できないんですが。
「初ちゃんはもっともっと良いところがあるんですから、女性らしさよりも性格面をたくさん知ってもらえるのが吉だと思います」
「私から見ると男性に性欲があるから結婚したんだなって夫婦いっぱい見るし」
「なんてことを言ってるんですか!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます