第10話 さあさあ今回からお外デートの練習です!

 一部の学校には土日休みがないところもあるそうですが、私めが通っている高校は普通なので世間の定理に迎合をしております。


 週に二日ある休みのことはともかく、平日は何ごともなかったかのように通り過ぎました。

 破壊されたタケシ(仮名)については「寿命だったのよ」と意に介さないように言われて「あなたに大切な人ができたら贈り物をそこに入れたら良いのよ」と、含み笑いをしながら言われました。


 あとは外堀を埋めて流れで告白するだけの初ちゃんからすれば、成功も確定演出みたいなとこありますし、その点を飛躍させて「えー? あなたに恋人とか出来るのかしらー?(*^_^*)」と笑みを浮かべられながら言われても、ぐぬぬ……とはなりません。


 それに以前まで関係がギクシャクすることもありましたから「私はいつでも100点満点」と言わんばかりに「フフン」ってなっている初ちゃんには安心感も抱きます。


 恋人のフリとの提案、対する私の態度、周囲の皆様の助力……何ごともなかったかのようには、たくさんの周囲の苦労があってこそ。

 私もいつかその好意に力添えが出来るのならば、本当の意味で独立したと胸を張れるのでしょう。


 そうそう、タケシを惨殺した張本人の覇王様は、出席日数がやばばなことになったらしく、クラスでいつも空いている席に鎮座するケースが増えました。


 集落に突如として現れた冬眠前のクマみたいな扱いは、周囲も本人にも悪影響を与えますので、私は積極的に仲良しの振る舞いをみせました。


 「あなたが苦労をしなくても良いでしょうに……」と初ちゃんからは寂しいと厳しいが入り交じった目を向けられましたが、本心から仲良くなりたいと願って貢ぎ物をすれば、礼節を持って尽くしてくれる子なので。


 勇気あるクラスメートの挑戦に際し「んまんま」と頬を緩ませる姿は、一部の保護欲に飢えている女子のハートを矢で刺して……登場から数時間でクラスでのポジションは確保されたかに思います。


「あなた……見違えたわ。急な誘いで準備が大変だったんじゃないの?」

「練習を伏してデートだ、着る服が無いんですと正直に告白したら、父も母も夜中に車を飛ばしてくれたんです」


 父も母も仕事上がりだというのに「娘のデート(練習)」に全力を尽くしてくださり、事情を知っている私たち姉妹は心臓が口から出そうになりました。

 

 いつも家のことをやってくれているからそのお礼だと胸を張る姿には、認めて頂いたという嬉しさと、でも相手は初ちゃん……の気持ちのせめぎ合いが起こりましたけども。


 ともあれ、目鼻立ちの良い初ちゃんは当然、読モ感あふれるコーディネートで「あの人芸能人かな?」との噂話も耳に入る……まあ、初ちゃんは全部スルーしているみたいだけど。


「そ、そう……おじさまやおばさまに今さら言えないわね……私の恋が成就して、あなたがデートに行かなくなると……困ったことになりそう」

「い、いえ! 最優先は初ちゃんの恋愛成就です。そこを忘れて……あれ!? なんか頭痛を覚えました!?」


 眉間の辺りのしわを伸ばすように人差し指と親指で皮を握る立ち姿は、重大な懸念がその身に差し迫っていると言わんばかりです。


「でも可愛いわ。もちろんいつも通りの1980円ファッションも可愛いけれど」

「80%セールですから! たしかに購入時に1980円(税抜き)なのは間違いないですけど!」


 今回はデートの練習だけども、ちょっと気分転換に行ってきなと初ちゃんとお出かけの時の一張羅は品質的には抜群なんですよ……誰かと出かけるとなればそれを着ているからくたびれた感があるのは確かなんですけど……。


「って、ちょっと待ってください。違います違います」

「え、1980円が?」

「それは合っているんですけど!」


 お互いに待ち合わせ場所にたどり着いてから、緊張感も何もない会話をなして、じゃあいつものノリでレッツゴー……コレでは普段と何も変化がありません!


 それを力説すると初ちゃんは驚いたように口を開いて「まったくもってその通りでしかないわ!」と両手をこめかみの辺りに当てて抱えるようにしながら言いました。


「ええと……では、顔合わせ始めたという体でもう一度リスタートしましょう……あ、初ちゃんが女の子です」

「え、ええ……あなたの彼氏としての演技、期待をするわね」


 ちなみに覇王様のお時間をお借りして「それっぽい」会話のキャッチボールはできるようになっています。

 ……今の流れでデートがスタートしたらすべて無駄になっていたので、本当に思い出せて良かった。


「おはようございます」

「おはよう、良い日和ね」

「ええ、晴れて良かったです……私服姿、綺麗ですね、いつもは制服姿でしか会わないから……」

「そ、そうね……」


 初ちゃんは私の全身の値段まで把握しているレベルなので、制服姿でしか会わないというのには少々の違和感があるのでしょう。


「もしかして、私のために頑張ってくださいまし……」

「ええ! それはもちろんよ!」


 少々食い気味にファッションのどの辺りが重要でこうすれば良くなる、ああすればもっと良くなる……いわゆるダメ出しが始まりました。

 

「ダボッとした感じになってるのも、まあ、あなたは体のラインが出る服を着たくないから仕方ないけど、フリルがついたのを着ることによってカバーできるわ。それとやっぱりトップスのサイズが大きくて萌え袖っぽくなってるのも……可愛いけどやっぱり食べづらいじゃない。それとちょっとお尻が目立ってしまっているから……」

「待って待って、初ちゃんステイステイ!」


 両肩を掴んで距離を取らせると、興奮してたのが一気にしなしなって感じになって、赤面をしたのを冷ますような咳払いを一つ――ここからしばらく吸って吐いてをお互いに繰り返しました。

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