第7話 本や作品というのは人生と同じなんです……価値観や考え方、趣味嗜好、周囲の人間は自分と違うのだと分からせてくれ(ry

 悠ちゃんが我が家の敷居をまたぐのはその実初めてであります……あ、口調が変になっていますね? 彼女の緊張が伝播してしまいましたか。

 結ちゃんが既に帰宅済みだったので、覇王様と当家で一番ラブリーな美少女との対面がなされました。


「月島結です。えと、こう見えましてもお姉ちゃんの妹です」


 世の中には似ている姉妹もいれば、てんで似ていない姉妹もいるかと存じますが「出来」という大きな点に目をつむれば、我が家の姉妹は瓜二つほどではないにせよ面影は似ていると思います。


 初っ端から悠ちゃんが「余は覇王だ」と宣ったのが空気のぎこちなさを生んでいる感ありますが……どちらもとても良い人格を持っているので何とかなるでしょう。


 私はどのみち肩にかけた荷物を冷蔵庫や台所に置くという作業がありますので――お互いに酸素が足りて無さそうな対面をしているから、その場を放って逃げるわけではないんですよ?


 出来うる限りの最高速で片付けを終えてリビングに戻りますと、結ちゃんと悠ちゃんが朗らかな表情を浮かべて談笑しているではありませんか。


 心の底から安堵しつつ、手前勝手な理由で放ってしまったことに謝意を示すと、


「良い。貴公の妹は良き娘だ」

「ふふ~。ありがたき幸せにござります~」


 受験勉強のさなか、ほんの少しの癒やし体験になったのなら姉としても本意。

 元々、両者ともに気に入らないことがあって暴力的になるタイプじゃないから、ボタンの掛け違いで殴り合いになるって可能性は考えてなかったですが……。


 歴史を踏まえてもこんなきっかけで!? みたいな事項は欠きませんし、どの選択をしても結局のところ詰みだったのも枚挙にいとまありません。


「では、部屋へと向かおう……身体を大事にな」

「はい」


 姉妹揃って返事をすると、悠ちゃんの口元が嬉しそうに緩んでいた――私は敬愛しているんだけども、そうじゃない人もいる……知り合い筆頭は初ちゃん。


 思いだして頂きたいんだけども、彼女のところに行くってだけで少々尻すぼみな態度をしていましたよね? なんとなく両者ウマが合わないと申しますか、険悪ではないのにギクシャクすると言いますか。


 階段を上って自室に招き入れますと、悠ちゃんは物珍しいモノを眺める視線を部屋に這わしてから


「本がたくさんあるな……」

「はい。時間潰しは常に読書なインドアさんなので」

「ふふ、良き良き……余もネットの濁流に埋もれていると、結局何も手に付かないということを繰り返してばかりだからな」


 綺麗にしているつもりですが、ほぼほぼ誰かが読まなくなったのを無償で頂いているので、手が汚れるかもと進言しました。


 悠ちゃんはそんなことは意に介さずとするように手に取り、


「字が細かい」

「分かります」


 中身をパラパラとめくりながら出た言葉には同意するしかなかったです。

 教科書の文字やテレビの字幕、インターネットの検索結果等々文字を目にする機会は数多いですが、誰々の何とか全集になるとそれなりのサイズの本に極小サイズの文字がびっしり並んでいます。 


 さらには作者○○作者○○作者○○全集と一人の作家では全集が賄えないともなれば、全集欲張りセットみたいな感じで一冊の本になったりも……。


「面白いのか?」

「みんなから聞かれますね……」


 本棚に本を戻してから問いかけられて、そこが一番気になるのですね、と考えた。

 初ちゃんからも結ちゃんからも、これで悠ちゃんからも尋ねられ、部屋に招いた人間すべてに同様の問いかけをされました――自室に入った人間があまりにも少ないではないかと言われると「はい……」と涙目で俯くほかありません。


 一般的なデータかは材料が少ないのでなんとも言えませんが、このような問いかけをされると必ず私はこう答えます。


「本を読むとたくさんの発見がありまして、自分ではない方の経験を追体験をするのを……好むと言いますか、面白いから読んでいるとは言いがたいです」

「追体験?」

「はい。私は明治や大正……はたまた昭和や江戸の生まれではないので、その時代の事って誰かから教えて貰うしかないんですけど。明治時代の文豪の書いた作品は、当然明治の価値観や文化が中心となって出来ているので……ええと、現代にそぐわないものもあるんですが、違いを知るのが好きなんです」


 月島柊には月島柊の価値観があって、結ちゃんには結ちゃんの、悠ちゃんには悠ちゃんの送ってきた人生から委ねられる価値観があります。

 私とそぐう部分があれば、はたまた反り合わないところもありますし、じゃあ二人で妥協できるところはしましょうって部分も。


 本はその人が送ってきた人生でこう感じた、ああ感じたというのが基本的に描かれています……親しみの深い部分でないので分かりかねぬこともありますが、異世界や宇宙とかも……俗に「私の宇宙ではこうなっている」とか言われたりもしますよね。


「袖振り合うも多生の縁と言いますから、覇王様相手に趣味を語るとなれば……すごく大事にしなければ……あれ!? ぬいぐるみの方が興味ありましたか!?」

「話が長い」

「申し訳ありません!?」


 そうでした――そもそもこれはおうちデートの練習だったのです……自分一人が悦に入って長々と会話しているようではいけません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る