第6話 次回! おうちデート!(と言うわけではないんだべな)

 パートで日々忙しくしている母や、会社勤めの父、そして溺愛している妹ちゃんのために私は下校時にスーパーに寄るのが慣例になっています。


 それは幼なじみである初ちゃんや敬愛する悠ちゃんとは違うタイムスケジュールであります……一緒に行けば二人は店内で手持ち無沙汰になるし、私一人が荷物を持っていれば気を使うことにも繋がります。


 単純に二人が美少女だから見物人で人だかりができるというのもあります――ただ、校内で関係性が深まる可能性がある相手と違ってめっちゃ塩対応なので……やっぱり一緒にお買い物とはならないのです。


「どうした? 貴公にマジマジと見られる謂れは無いのだが」

「はっ、これは失礼しました。覇王様がファンサに親しまれるのが圧倒的に不自然だったので……」

「ククク……ひとまず疲れたので買い物は付き合うだけで良いか?」

「付き合ってくださるだけで僥倖でございます」


 何ごとかの用事があってここで待っていてくれたんでしょうが、アイドルみたいな可愛い女の子が手持ち無沙汰にしていたら、下心がなくても声をかけたくなるというもの。


 しかも今回はナメクジもしおれちゃうレベルの塩対応じゃなくて、喜色満面で愛想良くするんだから列の一つや二つできちゃうよね……でもここはスーパーなのでお買い物をして下さるとありがたいです。


 制服をちょこんと握る姿には庇護欲をそそられますが、多人数をお相手したあとにアレコレ聞いてしまっては面倒ともなりましょう。

 サササと手早く買い物を済ませて両肩にバッグを掲げて、


「何か御用があったんですよね?」

「うむ」


 貢ぎ物として飲み物を差し出し、お財布の中身を出す出さないでちょっと揉めたのが数分前。

 冷たい飲み物は悠ちゃんの体調を少々回復させたのか、ボーッとした感じが少々薄れて、普段通りの尊大な表情に。


「私の言ったとおり彼奴には内密にしている様子。褒めてやるぞ」

「はい。何かしら至らない点があってバレてしまったらと考えると不安ですが」

「なあに、心配はいらぬ。余には絶対的な自信がある(恋愛の練習とか嘘をついている手前、疑わしいポイントがあっても自分の嘘がバレないことを最優先にするはずだべ)」


 フフンと両手を腰の辺りに置き、なんとなく前ならえの先頭感漂うと想起してしまいました。

 偉ぶってしまう姿を子どもっぽいと認識するのは相手へ失礼というもの。

 

 ただ、もにもにとした独り言は雑踏に紛れて私の耳へ届かなく、悠ちゃんも触れて欲しそうになかったのでWIN WINと言ったところでしょう……たぶん。


「今は買い物を優先するべきであるし、これからも平日はそのようにするのを勧める……が、休日はそうもいくまい」

「はて、なにゆえにでしょう?」

「陽向初が練習と称して誘いをかけてくるのが目に見えておる」

「そう言われてみれば!」


 本来は休日限定ではなく平日も練習に当てたいでしょうが、私の事情は先述したとおり、無理をすれば何とかなりますが心優しい初ちゃんは無理を是としません。


 でも協力すると私が言った手前、ちょっと時間を作っては何ら無理なお話ではありません――パートの母も時間がありますし、私も朝から晩まで拘束されるわけではないですから、昼に練習というのを潔しと考えるのは必然……さすがは覇王様です。


「して、余の用事であるが……それは、おうちデートの鍛錬だ!」

「お、おうちデート!」


 仰々しく両手を上げて驚きを示すと、悠ちゃんは満足したように両腕を組んでクククと笑う。

 デートという単語でさえ親近感の無い私には、語頭に「おうち」と付くものもなじみがありません。


 家でもてなすと言っても時間を潰せるようなものは何一つありませんし……。


「心配はいらぬ。ここでのポイントは初がそのような提案をしてくるであろうということだ――彼奴の家に招かれる必然性がある」

「あ、それなら大丈夫ですよ」

「大丈夫?」


 悠ちゃんは「私が初ちゃんの家に招かれる」ことに何らかの違和感を覚えて忠告してくれましたが、ここ数年来自分が彼女の部屋に招かれた経験はありません。


 逆は何度となくあるのですが、先ほども言ったとおりお喋りをしたり互いに自分のしたいことをするばかりでデートと言えるような色気のある行動はしていません。


「小学校高学年くらいからですね、私は一歩たりともお部屋に入ってません。招かれる可能性は0と言って良いでしょう」

「逆はあるのだな?」

「え? あ、はい……なにかご機嫌を損ねるポイントでも?」


 初ちゃんの部屋に入っていない――そしてその逆はあるという情報に難しい顔をして、何か気に障る点があるのを包み隠しません。


 ともすれば不愉快と言わんばかりだったので小心者の私はおろおろとするんですけど。


「よい、許す……おうちデートは続行する向きで良いな?」

「もちろんですよ……ただ、あんまり面白くないかもですが」

「ふふ。貴公の接待次第だな。余を満足させてみせよ」

「が、頑張ります」


 すぐさま機嫌が直ったご様子なので、私は安堵のため息――でも、覇王様の住所は私には分かりかねるので暗くならないうちにご帰宅いただくか、暗くなったら一緒に帰るというのも手ですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る