第1話 幼なじみに好きな人ができました
私にはとても可愛らしい幼なじみがいます。
黒髪ロングで切れ長の目、細く整えられた眉に通った鼻筋、何もしていないのに潤んでいる唇に細面。
モデルさんのように背はすらりと高く、両手足はしなやかでありかつ長い、運動能力も抜群で頭脳明晰、前世でどんな徳を積んだらこんな完璧な人になれるのか……言ってみれば私の自慢の子なんです。
対して私は丸顔で背はこぢんまりとしていて顔つきも幼く、天然パーマ気味で湿気があるともわっとする髪、手足もお世辞にも長いとは言えず、でも、とある事情で肩幅は広め。
幼いころからつかず離れずの適切な距離を保ちつつ、これからもずっと関係が続いたら良いな、なんて。
それからもう一人私には敬愛をする覇王様がいらっしゃいます……あ、もちろん自分が勝手にそのように呼んでいるのではなく、彼女がそう呼べと仰るのでそれに倣っております。
サラサラとしたクリーム色の髪、平均よりもかなり低い身長に、抜群の頭脳、運動能力も高めと非の打ち所がない……かと思えば勉強はサボりがちで、交遊が難しい怪しい口調。
覇王様は私が幼なじみと恋愛の練習をすると言ったときにアドバイザーを買って出てくれたのです。
あるときは恋愛の練習のために幼なじみとデート、そしてまたあるときはアドバイザーの女の子と練習の練習としてデート……私はとんでもなく不誠実なことをしているような気もしますが、これもすべては幼なじみちゃんの恋愛成就のため!
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本日も陽向初(ひなたうい)ちゃんが私こと月島柊(つきしましゅう)のお部屋へとやって来たのですが、なんだか彼女は落ち着かない様子で視線をキョロキョロと動かしたり、クッションの端をつまんだり話したりを繰り返したり……どことなく挙動不審です。
ややもすると至らない私が、その至らなさ故に失礼な挙動をかましてなおかつそれに気づいておらず、心優しい彼女が言い出せずにいるのでは?
私は背筋を少々こわばらせ、唾を飲み込んで、こめかみや扁桃腺の辺りに痛みを覚えました。
緊張をするとすぐにこうなります――肩が固まって緊張をすると巨岩の如くにこわばりを覚えて、本来ならそれを緩和してくれるのが初ちゃんなんですけど……。
いや、いつも私がお世話になっているのなら、これは挽回をするのが人としてなしえることというモノ。
「な、悩みがあるのならば私が聞きますが!」
両手に握りこぶしを作って、50メートル走でスタートするように身体を動かし、視線や眉を見つめるようにして……初ちゃんは私の行動に不意を突かれたみたいにビクついて、そんな態度を恥ずかしさを覚えたのかごまかすように咳払いを一つ。
「ごめんなさい。優しいあなたが私の態度を不審がるのは当然よね。なかなか言い出すことが出来なくて」
「いえいえ、待つことが出来なくてこちらこそ」
お互いに頭を下げて顔を合わせると、いつも通りの空気になるかと思いきや、初ちゃんは一つ二つ口をパクパクと金魚のように動かして……諦めたように何度か首を振ってから。
「好きな人が出来たの」
砂浜に足を付けていたら波が予想外にやって来たが如く、私の心に驚きを伴わせ、はたまた胸に熱いモノを覚えました。
これはまさしく感激、色気づく気配の無い私と違って彼女は人から羨ましがられる美人さん。
初ちゃんをもってしても色恋沙汰は伝達に緊張を醸すのだから、私にもそのような人が出来ればモジモジとしながら伝えるのかもしれません。
「どちら様なのか伺っても?」
告白をなせば図形がピッタリとはまるようにハッピーエンド一直線であるのは間違いないでしょう。
初ちゃんはとても良い子ですし……良い部分が過剰すぎるほどに散見され、お付き合いを躊躇うとすれば幼なじみに自分がいることくらいでしょうか?
もちろん、お付き合いに支障があると言えば私は粛々とこの身を引いて、溺愛している妹ちゃんをお世話するのみです。
あ、でも、妹ちゃんもまた綺麗で賢い子だから、お姉ちゃんよりも彼ピッピとなって、私はお世話をする対象がいなくなるのかもしれません……まあ、その想像は先送りするとしましょう。
「他校の人なんだけど……実は名前も分からないの」
初ちゃんが説明するには部活の助っ人としてその高校に赴いた際に、応援をしていた殿方に一目惚れをしたと。
私にはまるで縁の無さそうな素敵なエピソードに感激の拍手をしてしまいそう。
「お任せを、その高校のことはまるで分かりかねますが、正面から玉砕する覚悟で男性を見つけ出し、シチュエーションを作りましょう」
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