短編 リデル問わず語り

リデル問わず語り①


「ああ、来店どーも。今日はアンタ一人か? すまないね、何度も足を運ばせちゃって。


 例の剣、流石にあのまま渡すのは気が引けてな。融かして型に入れて固めただけのやつだぞ? 本当だったら誰にも見せずに死蔵するつもりだったんだがなぁ。いや、買い手が見つかったのは素直に嬉しいけどよ。


 頼むから、この剣もどきを作ったのがリデルだとは言わないでくれよ。マジで、切に、本気で。壁外の遺跡とかで拾ったことにしてくれよな。

 きちんとした剣の形にできなかったことが本当に悔しいんだ。実質職人としての敗北宣言さ。


 あれからもう一回挑戦したけど、やっぱ加工は無理だった。紋章魔術の付与どころか研磨すら出来ねぇよ。

 柄の部分も剥き出しでよ、手を痛めそうだったから、薄手の革を巻いておいたぞ。注文通り、魔力を通さない素材のものにしたけど、本当に良かったのか? 違う素材だったら、握ってる間ほんのりいい匂いが漂う紋章魔術とかつけられたけど。……いらない? そう……。


 じゃあ後は最終調整だな。ちゃっちゃと済ませるからその辺座っててくれよ。……場所がない? あ〜……今ここの物をどかすから、ここに座ってくれ。


 それじゃ、ちょっとアンタの手を借りるよ。

 ……そういえば、名前を聞かずじまいだったな。アタシはリデル。紋章魔術の彫刻メインに、楽しげなことはなんでもやってる。

 アンタの名前は? ……ヨシュアね。覚えておくよ。今後ともどうぞご贔屓に。




 アンタ、リリエリとパーティを組んでいるんだろ。

 最近のリリエリ、色んなところに行けてるって嬉しそうにしててさ。珍しい素材とかもいっぱい卸してもらってるよ。アンタのおかげだ、アタシからも礼を言わせてくれ。出来るだけ長くリリエリとパーティを組んでくれよな。


 リリエリ、同じパーティに長く入れたことがないんだ。……うん、足が不自由だってのも理由の一つなんだけどさ。

 リリエリについていける奴ってそうそういないんだよ。


 移動の話じゃないぞ。なんていうかな、根性っつか、そういう部分でな。リリエリの良いところをフルで発揮しようとしたら、一人でいるのが一番都合がいい。そういうタイプなんだ。

 それなのに足は悪いし魔力もぼちぼち。難儀な話だよな。一人が向いてるのに一人じゃ冒険できないっつーのはさ。


 ……でも、アンタとは上手くやれてるみたいで、安心したよ。似たもの同士なんだろうな、きっと。アンタもなんか変な奴だし。……良い意味でだぞ。


 ちっとばかし作業に時間がかかりそうだから、アタシのお喋りに付き合ってくれよ。

 リリエリとアタシが出会った時の話をしよう。




 今から数年前の話だ。

 当時もアタシはこの場所に店を出しててさ。今よりずっと未熟者だったけど、色々勉強させて貰ってたんだ。基本的にはオーダーメイドで、客の要望に合わせて武器を打ったり紋章魔術を刻んだり。まぁ今と変わんねえな。


 あれはちょうど職人として芽が出始めていた頃でよ。一風変わった物が欲しいならリデルにって感じで、アタシの作る武器を目当てに来てくれる客もぼちぼち増え始めてて。

 リリエリもその中の一人だった。世界に一つしかない、自分だけの特別な一品ものを求めてアトリエ・リデルにやってきたのさ。


 最初は面食らったよ。ちっちぇえ女の子が杖をつきながら入ってきたのもそうだが、何より身体中が傷だらけだったんだ。思わずウチは病院じゃねえぞって言っちまった。いや、どうだったかな。ちょっと記憶が定かじゃないな。リリエリの言葉の印象が強すぎてよ。


 リリエリは店に入るなりこう言った。


「壊れない杖を作ってください」


 ……うん、思い返せばアンタとおんなじこと言ってんな。やっぱり似たもの同士だなぁ、アンタら。流石にリリエリは星鋼をぶっ壊すことはなかったけど。


 初めて見た時、アタシはリリエリのことを冒険者だとは思わなかった。子供みたいな見た目だったし、右足もほとんど動いてなかったからな。

 だからアタシは、まず日常生活レベルで足りる強度の素材を提案したんだ。緋柳か猫尾木なら出せるけど、どっちが良い? ってな。


 リリエリは静かに首を振った。そんで、星鋼は出せませんかって言ったんだ。


 星鋼っつったら一般的に流通している中で最高峰の硬度を持つ合金だ。当時は星鋼に紋章魔術を彫り込む技術も確立されてなくて、もっぱら武器にばかり使われてるようなヤツだった。間違っても杖に使う素材じゃねーよ。


 アタシは、なんでそんな杖が必要なんだよって尋ねた。至極当然の疑問だよな。でも、リリエリはまるで想定外の質問をされましたみたいな表情になって、それから笑顔でこう答えたんだ。


「私、冒険者なんです」

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