学生は怪異を終わらせる Finish the story yourself
第10話 閑話『鳥籠』
ここ数十年間でIT技術は著しく成長した。
今じゃ、一般人が家にいながら海外の様子をリアルタイムで閲覧する事が出来るようになった。
だが、その中で誰も知る事が出来ない場所も存在する。いや、一部の人派知る事が出来るが。
例えば、世界中を撮影して画像を貼り付ける事によって作られるリアルな世界地図に黒塗りの部分がチラホラ存在する。
理由としては軍事関連の機密保持で開示する事が出来ないとかが挙げられる。
だが、その中に『こんな場所はありえないだろ』と言われる場所が存在したりする。
例えば、高度3000メートル以上の雪山のカルデラとか。
そこはたった1人の少女のために三年前に作られた隠された施設がある。
通称、『鳥籠』。
世界のためにという『
一人のジュミラルケースを持った黒服の男性を守るように護衛として…いや、まるで今から極悪なテロリストを殲滅するような装備をしながら歩いていた。
まるで迷路のような道のりを歩いて行き、11の分厚い扉を解錠して行くとそこには身体の至る所が鎖に繋がれた黒髪の少女が椅子に座っていた。
目にはアイマスクがつけられており、足にはその数多の鎖をまとめるように足首に一つずつつけられていた。
繋ぎ目だけ見るのならとても軽そうに見えるそれは、少し視線を動かすだけで1人の少女が背負うべきじゃない数の鎖がついている。とても不似合いな絵だ。
「…ん?来客かね?」
凛とした声が部屋の中に響く。
その声と同時に、護衛達は少女に銃を向け、黒服の男はケースを地面に置いて…いや、鎖の上に置いて開ける。
「仕事の時間だ。早速だがこれを見て欲しい…」
男は中身を取り出して少女に向かって歩いていく。
少女はアイマスクを動かして翡翠色の目を晒すと立ち上がる。
「動くな、座るんだ。じゃなきゃ撃つ。」
護衛達の人差指がトリガーに添えられる。
「…はぁ…男の子の癖にそんなにビビリだなんて…わかった。座ってあげようじゃないか、だからそんなにピリピリしなくてもいいじゃないか?」
少女は煽るが、その事に一切触れる事なく男はちかづいていく。
「先週、世界各地で異常現象が発生した。その資料だ。」
男が手渡した資料を読み込む少女。
だが、1秒もしない内にシラケた目をした。
「『ダンジョンが発生した』?ダンジョンってアレか?主人公のために用意されたサンドバッグみたいな物だろ?冗談も大概にしろ。」
「残念ながら冗談ではない。お前にはこの存在の究明と対処、そして処分、処理のやり方を考えてほしい。」
真顔で頭がおかしい事を言う大人に不審な目を向ける14歳の少女がそこにはいた。
「…私は自分の目で見ないと信じないタイプでね?ましてやこんな情報、イルミナティーカードが世界の裏側に暗躍してる並にありえない冗談だぞ?」
「…もしやらないのなら、お前は『規約』通りに処分される事になっているが…わかってるな?」
男は手を挙げると同時に、護衛達の射線が少女の脳みそに注がれる。
恐らく、とてつもない訓練をこなして来たであろう猛者達。護衛対象である男に傷一つつける事はないだろう。
少女は諦め…いや、呆れながら手を挙げた。
「…わかったわかった、やるよ。…その代わり外に出してくれ。自分の目で直接見ることで改めてわかることの方が多いからな。」
「…残念だが、それは無理だと『上』から通達されている。」
少女は顔を顰める。
まるで、お気に入りの玩具が思い通りにならない子供のように。
「…なるほど、『上』はどうやら私がダンジョンで力を持つ事に恐れているようだな。『力』の在り方が理解出来ない老害はこれだから…」
「決めたのは若き理事の1人だ。」
仕事し過ぎて精神摩耗してだろ、と切り捨てながら資料を読み漁って行く。
「…これらの重力と時間の数値はダンジョン全て共通?」
「いや、始めに出現したダンジョン郡は全て共通の数値だが、それ以降に出現したダンジョンはそれぞれ違う。それらの情報も適宜収集してる最中だ。」
少女はペラリ、ペラリと紙をめくるのを遅くしていった。
(ふーん、なるほどねぇ…お巫山戯にしてはちょっとありえない数値を叩き出している…)
「…『魔眼』の演算結果と演算過程が見たい。」
「わかった。紙か?」
「いや、タブレットでいい。」
男はケースからタブレットを取り出して観測型演算機『魔眼』に接続する。
『魔眼』は元々、この少女が『なんかいちいち計算式打ち込むのダルいし、目測で解るモノは見て演算させよう!』と言う科学者の怠惰と進歩によって作られた、量子コンピュータの亜種である。
今やありとあらゆる企業からゲーム実況者までもが使えるようになった日常生活を支える
ちなみに、あまりにも度が過ぎた科学であるために現代ではこの少女以外は再現不可能と言うゲテモノだ。
なにせ、従来の量子コンピュータのと比較できないスペックであり、世界中の空を観測させるだけで1年先の天気まで予想を98%の的中率で出力する事が出来るのだから。
「これがそのデータだ。…わかっていると思うが、そのタブレットにも何かしてみろ。すぐさま撃つからな?」
「最近聞いたんだが、そういうせっかちな男の子ってモテないそうじゃないか?」
そう言いながらタブレットをスクロールしてゆく。
(…なるほど…これはこれは…)
少女が説明をしようと口を開けかけた時だった。
紙で渡された資料の最後のページに映された写真を、少女が見たのは。
少女の口が、齒が笑む
「ヒ」
「?」
「キヒヒヒヒッ、アハァッハハハハハハ!」
抱腹絶倒。
その笑っている姿は誰も見たことのないほどに子供らしく狂気じみた笑いだった。
この少女がこれほど
そのため、彼らの緊張感は高鳴る。
汗が黒のマスク越しに分かるくらいに彼らは切迫されていた。
少女が笑い終わるまで、誰も動く事が出来ない。
勘違いしてはいけない。この場を制しているのは、あの少女なのだから。
命を握っているのは彼女。
護衛達は『核弾頭に傘で放射線から逃れよう』とする程度の誤差でしかない。
「ハハ、げhpf!ゲフォ!…いや〜ごめんごめん。楽しい事があってね?いやーほんと最高ってやつだね!…って、おいおい。私が口調を乱しているとか滅多にないぞ?」
喉が、渇く。
彼らが少女に対して抱く心は、生理的に見たら恋をしている異性に対しての反応と似ていた。
彼女の声が少し高く聞こえる。
彼女を見ていると動悸が激しくなる。
彼女の前にいると、嫌な汗が出てくる。
意を決した男が彼女に問いかけた。
「…どうしたんだ?調子が悪いのなら日を改めて来るが…」
「いやいや!絶ッッ好調さぁ!…やはり口調がおかしいな…」
いや、本当にどうしたんだろうか…?
「あぁ。後、言うのを忘れていたんだが、」
「?」
「日は改められないぞ?」
男はこれでも国連所属のエージェント。その頭で一瞬にして解答を答えた。
もう、そんな日は来ないと言う事に。
「打てッッ!」
瞬きもせずに護衛達のトリガーが反応する。
弾丸の向かう先は少女の脳幹。訓練された精鋭達は一ミリのミスも犯さない。
そして、彼女は上半身を右に倒した。
彼女は信頼したのだ。彼らの腕を。
そのまま足で鎖を工事現場で壊れたワイヤーのように鞭として音速で攻撃する。
もちろん、それでやられる彼らではない。色んな方向に避けて次を撃つ準備をする。
たくさんある鎖に足を引っ掛ける無様な真似はしない。
彼らの持って来た銃は連射でも単発でもいけるシロモノだが、彼らは無意識にただのガキを殺すのに1発で充分だと思っていた。
たとえ、相手の存在を知っていたとしても見てしまった時に無意識に脳裏に染み付いてしまった。
人間は視覚での情報を得る量がとても多い。故に人々は自分磨きをするのだ。
そう、彼女の場合は、か弱い存在に見えるように。
そして、彼女は唄う。破滅の
『______』
直後だった。
まず、護衛達が突如倒れた。
まるで、それが生物として当たり前のように。
黒服の男は使い物にならなくなった護衛達を見て腰から拳銃をとりだしたが、音速の鎖が真下から銃を弾き飛ばす…いや、粉々に破壊された。
「すまないね。用事が出来たんだ、急用でね?…ああ、あとそこにいる護衛達は生きているよ。今はね。…っておいおい、私がそれを見逃すと思うかい?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!?」
だが、そんな護衛達を無視して特殊な形状をした携帯を取り出したが、機械に当たらないように鎖によって右腕が潰された。
もちろん、両足もお得なセットで。
「ま、此処も今日でさよならだから私の見解を述べさせてもらおうか。」
そう言いながら、彼女は『上』がスイッチを押せば確実に死ぬレベルの電流が流れる鎖の繋ぎ目をダンジョンの見解を答えながら爪で外していく。
「恐らくダンジョンは2種類に分けられる物だ。一つは出現日に出て来たダンジョン群。もう一つは、その後でランダムで出てくるダンジョンに分けられているんだろう…しかも、多分先に出来たダンジョンは何か何処かに繋がっているんだろうな…」
“さて、終わったぞ。じゃあな。”
そう言って彼女は鎖から解放される。
男の顔は疑問に満ち溢れていた。
「な、なんで…?」
「?」
「だ、だから!それを外したら、お前は電流で死んでしまうはずだ…!それに此処を映像でリアルタイムで見ている人達も異常が1分もしない内にくるはずなのに…なんで…!?」
男にはもはや、痛みはなかった。
あるのは疑問だけ。
もう色々な脳内物質の影響で痛みなんて感じないんだろう。
「それに、お前…」
そう言えば、彼女は言っていたではないか。
そもそも、会話の中におかしい部分があったのに。
そう、先程こういったじゃないか。
『最近聞いたんだが、そういうせっかちな男の子ってモテないそうじゃないか?』
「最近っていつだ…?お前は資料以外の情報の入手を完全に封鎖しているはずだ…!なのに、なんで…!?」
少女はウンザリした顔で答える。
「監視カメラで見ているのが、人間かAIにもよるが壊してしまえばそんなの関係ないんだよ。精神的かプログラミング的かはそれぞれ違うアプローチをしてしまえば問題はない。なにせ、ずっと私を見続けているんだからな。」
別に彼女は魔術が使えると言ったわけじゃない。
ただ、世界の法則を、在り方を人よりも理解しているだけだ。
そして、どんなオカルトでも彼女の手にかかれば科学に変わる。
炎が神の所有物だったのを、模倣して人間でも使えるようになったように。
「じゃあな。また、どこかで。」
彼女は飛び立つ。
文字通り、『鳥籠』から。
だが、その前に彼女は足を止めてこう言った。
「それとだが、その情報を教えて貰ったのは此処にいる人間じゃない。」
それだけ言って彼女は、
彼女が見てしまった資料にはある写真が付けられていた。
【日本のとある高校で発生したダンジョンについて】
そして、
それには、1人の何処にでもいるような少年の横顔が写っていた
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