第9話 不慣れ
急がなければ。
少し早足でダンジョンの中を歩いていく。
遠くから聞こえる苦悶の叫び声は無意識に僕の足を早くさせていた。
ほんと、なんでこんな柄じゃねぇ事してるんだろ俺。まぁ今更言った所でって感じか…
階段を降りていくと、自分が先程飛ばしたドローンが粉々になっているのが見える。
そして、
声はその先から来ていた。
「こ、来ないでよ…!!あっち行ってって!」
「誰か来てよ…!お願い…!!」
死に瀕してる二人は先程とは違って声を荒げて身をクネクネと動かしながら後ろに後退していた。
女の子二人に対して襲っているそれは、犬と狼を合体させたような人間と同じサイズの獣だった。
獣はこちらには気づいていない。このちょうどいい暗さはとても僕たち人間向きだ。
ランタンを前に掲げて魔力を起こす。
相手に感知されないように、最速で…!!
炎が横に竜巻状になって出て来た時に気づいた獣はもう、遅かった。
避ける動作も出来ないまま、熱波の瞬間的な暴風によって壁に叩きつけられながら燃やされていく。
その温度は約6000℃
太陽の表面温度と同じ温度だ。
熱波は魔力操作で女の子達に当たらないようにしたが…とりあえず近寄ってみよう。
「た、助かった…?」
「え、何…?霧…?」
霧を魔力操作で顔のフードだけ見えるようにする。
すると、二人の顔は何処か畏怖のような、けれどもどこか安堵したような顔をしていた。
「あ、無貌様だ…」
「…本当に居たなんて…」
(…あれ?俺はコイツらに怖がられてるんじゃないの?)
この子達が特別そうなだけなのだろうか…?
まぁ、いい。とりあえず外に持って行くとしよう。
もっと奥に進むと他の生存者達もいるかもしれないが、救おうとは全く思わない。
「『フライト』…」
負荷が起きないようにゆっくりと二人を浮かす。
慌ててる二人を無視しながら、自分が歩いてきた道のりを辿っていく。
僕は無貌様になった時のルールとして、3つ決めた事がある。
一つ、この姿の時は小声で喋る事。
一つ、正体は明かさない事。
一つ、傷を負わない事。
3つ目は時と場合によっては厳しいかもしれないが、出来る限り実行するつもりだ。
日の明かりが見えてきた所で彼女達を置く。さて、後は先に自分が出たらいい話だ。
足は怪我をしてるが歩けるだろうし多分大丈夫だろうと思っているとカスレカスレの声で話しかけてきた。
「ねぇ…あなだは…誰な…の…?」
「…どりあえず…ありが…どう…」
「…………」
感謝の気持ちは受け取って置くが、正体は明かすつもりはない。あと5メートルも歩けば、いや、もしかしたら警備の人に見つけてもらえる位置にいるのだから早く行った方がいいよ。
僕は再度、霧を纏わせて歩いて行く。
外に出ると、再度驚いた顔した彼らが居た。
マスコミにはロクな思い出がないからさっさと行かないとな。
歩いてこれから霧を拡散させて飛ぼうとした時だった。
「助けてくれて…あ、ありがとう…!」
「…ぁりがとう!」
後ろから先程助けた二人の声が聞こえた。
それだけじゃなかった。
それに釣られて、他の声も聞こえてきた。
「あ、あの時助けてくれてありがどう!」
「よくもウチの店焼きやがってクソヤロー!…けどお陰で助かった…」
「ほんと、そういうふうに寡黙だと誤解されるよ?無貌様?」
後ろに振り返る事は、出来なかった。
彼らの周りで散々暴れたのだ。向ける顔が、僕には無い。
けれども、
(そっか…そりゃ良かったな。)
恐らく、彼らは僕が助けた一部の人達なんだろう。
助けた数より見捨てた数が多い僕には、今の状況が不思議だった。
(あ、ドローン…まぁいいや。)
不意にダンジョンに置いてきたドローンを思い出したが、まぁいい。どうせ壊れてるし、何より人からパクった物だしな。
さぁ、帰ろうか。とりあえず家に帰ったら転校の手続きをしないとな。定期の手続きしなくて良かったかも?
『コソコソオカルト話』
『上級探索者の加護』で与えられる力は人それぞれである。
この加護はナイアルラトホテップが与えており、例えば、あるお話では予言の力を与えられた者がいたりする。
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