第7話 主人公
ダンジョンが出現してから一週間が経った。
世界は満員電車のようでとても安定していると言えなかったが、それでも僕たち高校生は朝の通学を今、電車の窓の外を眺めながらボーッとしていた。
「なぁ…あれって…」
「初めて生で見たわ…」
国が一週間の外出自粛令をだして初めての通学路には窓から例のダンジョンが見えるようになっていた。
(全部中身が同じダンジョンなのだろうか…?)
いや、ナイアルラトホテプが言うには、僕がこの前に挑んだダンジョンは初心者用だって言ってた。つまり難易度毎に分けられてるか、全て違うダンジョンなのだろうか?
そんな事を考えながら電車を降りて高校の校門まで歩く。帰りに通学の定期を作らないといけない事が少し憂鬱だ。
(webで登録出来る方にしようか…?いや、それだったら地下鉄しか使えないし…)
そんな事を考えていると校門の直前にダークサイドに堕ちたようなセイバーを持った警備員さんが校門を塞いでいてた。
何かあったのだろうか…?
「皆さん!離れてください!」
「学校は休みです!急いで帰宅して…」
その時、胸ポケットの携帯が振動した。
出して見ると、どうやら学校にダンジョンと思わしきモノが出現したので帰れ、とのこと。
ふーん、僕よりも先に学校に入った人達はどうするんだろう?
周りをさり気なく見渡して、防犯カメラと人が付近にない物陰を探して身を移す。
休みの間に海外から日本に来日してきたシンジケートから拝借した小型カメラとピンマイクとドローンを取り出してそれらに新しく得たスキル『メッセンジャー』をかける。
このスキルは簡単に言えば自分専用の目に見えない電線を伝って、情報を行き来する事が出来るスキルだ。
「えっと…活動時間は…40分か…」
電池入れ替えたら多分もっと行けるだろ。
小型カメラをドローンにセットしてダンジョンの方向に飛ばす。
小型カメラからの映像を見ながらドローンを飛ばしていると、ダンジョン前で待機している人たちの声をマイクが拾った。
『お、おい!なんでドローンがあるんだ!?』
『さ、さあ?自衛隊が来たとか?』
ダンジョンの入り口は僕が以前初心者用のダンジョンで見た扉が半開きになっているのが見えていた。
その隙間に入る様に警備員の手を掻い潜ってダンジョンに侵入した。どや、これ技能値振ってねぇんだぞ?
映像を見ると、中は苔みたいなモノが光っており、ある程度の視界は見える様になっていた。
進んでいくと、生徒の私物と思わしき物が散乱しており、机や椅子、そして人間の一部と思われる物がちらほら見えた。
入学初日にこれか。ワクワクした気持ちで高校に来たら死亡って…気持ちが良いものじゃ無いな…
そう考えていると、ピンマイクから音声が入った。
『……ぇ…………ぅ……』
『……………………ぃ……………ぉ……ぃ…………ぇ』
洞窟の中には色々と左右に凸凹とした穴が空いており、その中に二人の女の子が縮こまって座っていた。
薄暗く、よくは見えないがそのおかげで彼女達は助かったんだろう。
『ドローン……?なんで…』
『もしかして…誰か助けに……』
その時だった。明らかに人間以外の存在の空腹の音が聞こえたのは。
彼女達は震えそうになる歯を両手で押さえながら息を殺す。
こちらにどっかに行けと目を向けながら。
「…あ、やらかした。」
恐らく、彼女達に近づいている化け物は僕の操縦するドローンの飛行音に反応したのだ。
明らかに、僕のせいだ。
(彼女達がどういう人間かは知らないが、死なれたら…嫌だな…)
助けよう。ダンジョンの入り口からはそんなに離れてない場所だ。今ならまだ間に合うはずだ。
…いや、助ける理由があるのか?別に僕のせいで誰か死ぬなんて日常茶飯事じゃないか。
(でも、今の僕には手を差し伸べられる。)
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「阿呆らし。」
手は、影に伸ばしていた。
こういう時は自分が本当にしたい事をするべきだと言うのを俺は中学の3年間で学んだ。
自分の人生ぐらい自分が主人公で在りたいんだ。
利益とかそう言うのは後で考えろよ、俺。
『無貌のニスデール』とランタンを取り出していつもの格好にする。
黒の防刃手袋はもちろんの事、後ろポケットにデザートイーグルをしっかりと挟む。
「『フォーグ』…」
霧を体に纏わせ、僕は『無貌様』と名った。
彼は今、生まれて初めて、損得勘定無しで、傲慢にも自分が迷惑をかけたから、後味を悪くしたくないからと言う陳腐な理由で真っ直ぐ走り出した。
この瞬間、彼は主人公となった。
『コソコソオカルト話』
ネット上において、『無貌様』は畏怖とよくわからない存在として話されているが、『無貌様』の話の発祥地である町とその付近では畏怖と、助けてくれるかもしれない存在として祭り上げられている。
が、どちらにせよ、あんまり関わって良い事がある存在だとは認識されてない。
あと、全然関係ない事だが、この主人公の寝癖はツンツンのウニ頭なのである。
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