第2話 表

「ねぇ神無ちゃん知ってる?の新しいお話!」

「また?ほんと晶子は飽きないんだから…今日は入学式なんだよ?」


今日は朝ヶ丘高校の入学式。

慣れない制服を身に纏って私達は登校していた。


「それで?新しい話って何?」

ここ3年間で私たち…いや、ネット上でも有名になった都市伝説がある。


それが無貌様だ。


恐らく、の夕陽ヶ丘が発祥の地だと言われているが、話の内容的に言えば顔がわからない都市伝説的なナニカが人の事情に首を突っ込むと言うお話だ。


普通なら高校生にもなってそんな怪談で盛り上がるはずもないが、無貌様と呼ばれる存在に関するお話は数多に存在するのだ。


そう、晶子も言っていた通りに新しいお話も存在する。


現在進行形で出来上がって行く怪異。そんな存在に私達高校生は大いに盛り上がっていた。

隣町だったのもあるのかも知れない。


まぁ私としては最近の流行みたいなモノとして受け止めていた。


「コレコレ!昨日の夜にニュースに病院の一室が燃えたって事件があったでしょ?その病院の屋上に監視カメラに写ってたの!それがネット記事になってて…」

「あ、先生来たよ。」


それからクラスメイト同士の自己紹介も終わり、今日は家に帰るだけとなった。

教室には見覚えのある顔も幾つかあって、心なしか安心しながら明日からの学校生活が何処か楽しくなっている自分がいた。


「ねぇ!神無ちゃん!新しく出来たレストランに行こうよ!なんかクチコミだとデザートのパフェが美味しいらしくてさ!」

「へぇ、行ってみようか。」


その時だった、サイコロが転がるような音がしたのは。


私達二人は思いかけず周りを見渡した。

周囲に居た人達もだ。


恐らく聞こえたのだろう、あの音が。


「…ね、ねぇ神無…?これって、サイコロの音だよね…?」


「…偶々その音に似た何かがなっただけじゃないの?」


「…はは!そうだよね!びっくりしちゃった!」


晶子の声にあわせて周りの人達の顔も穏やかになっていく。


今や、ここ含めた隣町の付近ではサイコロの音が恐怖の対象となっている。怖がってないのは無垢な子供たちぐらいだ。


無貌様の逸話には様々なお話しがあるが、その中でも有名な一つとして、『無貌様のいる場所ではサイコロが鳴り響く』と言う事と、『無貌様がいる場所では災難に見舞われる』という点だ。


勿論、ただの怪談話なら笑い話として鼻で笑っていられるだろう。

だが、この現代社会の中で語られている無貌様という存在は現実に起こる事件と大概リンクしている事が大きいのだ。


そして、作られた暗黙の了解がある。


1つ、関わるな、静観せよ。


1つ、身を守りたければ逃げよ。


1つ、その正体には決して触れるな。


1つ、サイコロの音に気をつけよ。


一時期、これら四つがSNSのトレンドに入ってた事もある。

そのせいか、今ではサイコロアラームという悪戯まで流行ってる。


「ったく…一体だれがサイコロアラームなんか鳴らしやがって…そこのお前らか!?」

「え?」

一人の小汚いおっさんが私達に向けて震えて指を指してきた。


(え、何このおっさん?私達何にもしてないのに…)


「はっ!コレだから最近のガキは…スカートも短くなりやがって、誘ってんのか?あ?」

震えた口調でしばらくおっさんは私達に捲し立てる。


周囲に居た大人もそそくさとどこか離れていった。


「…もういい。晶子、早くこのおっさんから離れましょう?」

「………ねぇ、神無?… 無貌様ってさ、サイコロが鳴り響いて、その後何かしらの厄介事が起こるんだよね…?」


……あ。


晶子が慌て始める。

「ど、どうする!?」

「ど、どうするって…とりあえず此処から離れましょう。」


無貌様がどうやらこうやらなんて話は信じてないが、目の前のおっさんは何やら動揺している。

無貌様がいたらマズイ事でもあるのだろうか?


(はぁ…なんで入学初日からこんな事になるんだか…)


そんな事を考えていると見知らぬ銀髪の少女が割り込んで来た。


「君たち、警察を呼んだからさっさと行きな。ほらほら!」


突然現れたその麗しき少女は私達の背中をに向けて押して来た。


「お、おい!まだ話は終わってないぞ!クソガ…」

「はいはい、コレでも飲んで落ち着いたらどうだい?」


後ろを振り向くと、さっきのおっさんと銀髪の少女がいつの間にか消えていた。


「「…え?」」


「…さっき、いたよね?」

「…うん、いたよね?」


あんな美少女、一度でも見たら絶対に見失わない自信しかない。


「…なんだったんだろうね?」


「…うん…」


新しく出来たレストランに行く気が何故か無くしてしまった私達は各々自分の家に帰る事にした。


どうせ、今日の事は2、3日したら記憶の片隅に置いやられるんだから。








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