突撃!お前は晩御飯!

「『突撃!お前の晩御飯チャンネル』でーす!」


自分の身長よりもはるかに大きな扉を勢いよく明けながら、響は中へと入っていく。

ちょうど、これも今まで遭遇したミノタウロスよりも一回りも二回りも大きなミノタウロスが、ちょうど少女を襲おうとしていた。


しかし、響の声に反応したミノタウロスが方向を変え、響を狙う。


「皆さん、これキングミノタウロスってやつですよ」


『言うてるばあいか!!』



『来てるって!!』



『ソロでこいつ相手にするのは厳しいだろ!!』


「あなたが連絡をして頂いた響さんですか?どうしてここまで!!」


「もちろん、動画の為ですよ。初の生配信ですし、成功させたいじゃないですか」


キングミノタウロスの持つ斧をしゃもじで軽々と受け流しながら、あかりチャンネルの質問に答えている。


「でも、私のミスでこんな下層まで来ていただくのは…」


「むしろ配信して頂いて助かりましたよ。おかげで視聴者さんに探索者もいたので、僕も早く来ることが出来ましたし。なんにせよ、まずはこのミノタウロスをどうにかしないといけませんね」


あかりチャンネルを安心させるように、にっこりと笑顔でキングミノタウロスへ視線を戻す。


「さて、視聴者の皆さん。当たり前の事ですが、今回はあかりチャンネルさんにハプニングがあったので、先日上げたたくちゃんの動画のような晩御飯には残念ながらありつけません。もちろん、ここはダンジョンですので仕方がないです…ですが、そんなことでは、初コラボであるあかりチャンネルさんに悪い。ならどうするか。皆さんならどうしますか?」


『戦闘中に視聴者に質問してくんな』



『まずダンジョンに突撃してくんな』



『こんだけハプニングあるなら別日のダンジョン外で突撃すればよかったのでは??』



「みなさんわかってないですねぇ。ここは『食没の祠』。そして僕が戦ってるのはキングミノタウロス。つまりは牛肉です。皆さんもご存じのように、ダンジョン産の食べ物ってうまいんですよ」


『お前…まさか』



『さすがにそんなあほみたいなこと言わないよな』


「そのまさか!『突撃!お前の晩御飯チャンネル』初の裏メニュー、現地調達、その場で捌けばいいんですよ」



『思った通りだwwwwww』



『初めて聞いたんですがwww』



『まず勝てるのか??』


「もちろん、勝てない敵にこんなことを言うようなバカはいません。急なトラップで、あかりチャンネルさんも精神的に疲弊していると思うので、早めに片づけましょう。そろそろ受け流してしゃべるのもめんどくさくなってきました」


『そうだった。これ合成じゃなかったんだった』



『生配信だったこと忘れてたわ』


「食べれる部分は出回ってる牛の部位と同じなので、極力傷つけないように敵を倒す必要があります。ダンジョン探索者さんの中には、魔法をぶっ放して倒すってやり方をする人、パーティーを組みながらバランスよく倒す方法など、その辺は探索専門の動画を調べて見て頂いた方が早いので、かっこよく倒しているとか、派手な魔法で倒す動画が見たい人は、そっち見て下さい。今回は都合よくこのしゃもじがあるのでこれで倒していきます」


『?』


『しゃもじで倒していきます?そのしゃもじ、アーティファクトかなんかなの?』


『確かに、遭遇したモンスター全部、そのしゃもじで倒してたもんな』


「基本的に大型の魔物は、攻撃力がすさまじいのは見てればわかると思います。でも、その分、攻撃と攻撃の合間が大振りなのでがら空きなんですよ。ですので、今みたいに…よっと!」


キングミノタウロスが斧を振り下ろそうと振りかぶったところを狙った響が、しゃもじでキングミノタウロスの斧を持っていた腕を斬り落とした。


「ブモォォォォォォォォ!!!!!」


「追撃行きます!!」


その言葉と共に、響の姿が消える。

しかし、右足、左足、腕…と、瞬く間にキングミノタウロスが斬り刻まれていく。


『速すぎ…』



『全然見えん』



「す、すごい」


あかりチャンネルも、目の前で繰り広げられる響の圧倒的なまでの強さに、圧倒されている。


「よし、終わりですね」


響が画面に映し出されたと同時に、キングミノタウロスはばらばらにされていた。


「さてと…」


響があかりチャンネルの元へと向かう。


「お待たせしました。『突撃!お前の晩御飯チャンネル』です」


「え、えっと…本当にありがとうございました!!」


「いえいえ。無事でよかったです。さて、ボス部屋は一度倒されると、倒した探索者が部屋から出るまで次のボスはリスポーンしないようになってるんですよ」


「え!?そうなんですか??」



『そうなん?』



『初めて知ったわ』



『てか、なんで知ってるん??』


「ですから、晩御飯をここで作るってことが可能なんですよ!」


「え?」


「え?」


「「え??」」


「ここで…食べるんですか?」


「もちろん。ああ、あかりチャンネルさんはゆっくりしといてください。今回は僕が晩御飯を作るので、次回コラボしたときはぜひとも晩御飯をリポートさせてくださいね」


にこっと響が笑いかけ、さっそく調理の準備を始めた。

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突撃!お前の晩御飯! 薄明 @kam1225

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