リュミエール・オプスという演者

――あの人は今日の配信をみているのかな? 


あの日、いつもの電気屋さんの売り場で一人で唸っているあの人を見かけた。

本人はまったく気づいていないようだけど、唸り声と共に独り言も漏れているせいで、すれ違うお客さんが不審なモノを見るかのようにそっと離れていくのを見ていたら自然と足が動いてしまって。

真後ろまで近寄ったのだけど、私にまったく気づかないとか何をそんなに真剣に悩んでいるのだろう? 大きな背の横から顔をだし覗き込む。どうやらパソコンのスペックを見比べているようだった。うん? ミドルパソコンとゲーミングパソコンを比べているね。どんな要図で使うんだろう? 


――用途が違いすぎているような? ここは助言をしてもいいのかもしれないよね。

これでもパソコン関連の知識はあるほうなので? そっと後ろから声をかけみる。

ビクッと身震いしたあとそっとこちらを向くと、呆気にとられたような表情をしていて思わず笑いそうになってしまった。

最初は困惑していたいたようだけど、私がコンビニバイトの子だとわかったらすんなりと話が進んでいった。

この流れでそれとなく趣味を聞き出したのだけど、意外なことに推し活をしているっぽい。そして、どうやら推しの配信者がいるようで、ちょっとだけ勇気を出して、淡い期待を込めて推しの子を尋ねてみた。

そこであの人の口から出たが最推しといわれた時、鼓動が五月蠅いぐらいに高鳴った。

言葉に表せない程に嬉しくて『本当のことを話したい』衝動が抑えられなくなりそうになったのだけど、素性を軽々しく明かすことはできない。


なぜか? それはあの人の夢と、楽しみを壊してはいけないと思ったから。


あの人は私ではなく、という一人の女の子を好いているのだから。なぜあの人を思うとここまで心躍るのだろう? どうして、あの人のことを思うとこんなにも胸が苦しんだろう?


――よく、わからない。


でも、一つだけ言えるのは演者であるときはこの感情を忘れなければいけない。

いつも私の配信を楽しみに待っている下僕さん達を悲しませることは絶対に、してはいけないのだから。あの人も数十万人の下僕の中の一人であって特別な扱いをしてはいけない。


「なぜかって? このデジタル世界の中に居る時は私は演者であり。リュミエール・オプスというキャラを演じなければいけないからね。ふふっ」


――と、一人でかっこつけているわけだけれども。デビュー当時と今では全然ちがうんだよね。昔は演者=キャラ作していたのだけど、最近は素に近いと思う。

デビュー当時は清楚系のお姉さんキャラで売っていたんだけど、あるゲームの配信でストレスが限界値を越えてぶち切れてしまったのである。今となっては黒歴史として各々語り継がれていたりもする。まぁ、天使と悪魔のハーフだからね。設定的に問題はないはず? 


「ふふっ、あの時惨状は今でも忘れられないよね……」


「澪さん、そろそろ配信の時間ですよ。中二病拗らせてないで準備してください。こっちもずっと見守りできるわけではないんですからね」


「こ、これはキャラ作りと言って中二病ではないんですよ!? って、葵さん聞いてます!? こっちは真剣に悩んでいたんですってばぁ! 」


「……はいはい。私は会社に戻るでの例の件、早めに返事をください。 あと、食事はちゃんと栄養あるも食べてくださいね? では頑張って下さいね」

マネージャーの葵さん、配信スケージュール管理以外は何かと面倒を見てくれる半面、くそが付くほど真面目で仕事ができる美人さんなのである。

なんでこんな仕事してるんだろうか? って思うほどに。  


――配信スケジュールとかは自分で作るものなのだけどれども。

まぁ、オタク女子の私にはわからない事情があるのだろうと、勝手に思っている。

あと、あのラーメンは栄養価高いんだってば! 


「……あっ。あの人のアカウント名を聞いておけばよかったな……まって? 名前も知らないんだった! あぁ、私のバカバカ! 今度会ったら勇気を出して聞いてみよう……」

さて、下僕のみんなが待っているし準備をしたら今日も楽しく配信をしよう。

いつものようにゲーミングチェアに腰掛け配信機材の確認。よし、問題ないね。

あとは……募集した件もピックアップも出来てるね。


「準備はできた。さぁ、公開懺悔を始めよう!」 





 

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人生のどん底から君(推し)に救われる。君がいない日なんてありえない! 文月 和奏 @fumitukiwakana

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