第5話 立ちはだかる黒い影


【近代町に向かった、ティナとレンは近代町に通ずる貯水槽を目指し歩いていた。】


「よし、今の所 追ってなど待ち伏せはいないみたいだな。」


「うん。 このまま誰にも見つからず無事に辿り着ければいいけど。」


「なるべく慎重に行動しようぜ。 見つかったら間違いなく総攻撃されるはずだ。 背を低くして行こう。」


私たちは息を殺しながらも貯水槽に向かっていた。


ある程度進んだその時だった。


「ちょっと待って。」


「どうした?ティナ。」


「いる…。」 


レンはとっさに茂みに隠れた。


「まじかよ。 どこだ?」


「待って。 1、2、3、4、5…」


「5人そこの木の陰にいる。」


「5人か…。くそ! 多すぎるな。」


(こんな時どうすればいいの? コンビニの時はとっさの行動でやれたけど、あれは普通の人だからできた。 目の前にいるのは確実にプロの組織たちのはず。)


(レンと私だけでは流石にこの状況を打破することなんて無理…。)


「ティナ。 おれが突っ込む。」


「え?何言ってんの?!」


「こんなとこでじっとしてるのは俺の性に合わない。」


「大丈夫だ。 俺もさっき一人殺ったんだ。 もう覚悟はできてる。」


私はレンの表情を見て 頷いた。


「この銃は今のおれたちでは当たる保証ねぇから近距離まで近づいてナイフで確実に仕留めてやる。」


また私もナイフを深く握りしめた。


「ティナ前の木のあたりだな?」


「うん。 あそこから感じる。」


(…? 感じる? そういえばなんで私 あそこに隠れてるとか数までわかったの? ううん 今はそんなことどうでもいい。 やられる前にやるだけ。)


「よしいくぞ。」


「ええ。」


レンはしゃがみながらも小走りに木の方角に向かっていった。 私もすぐ後を追うように後をついていった。


その瞬間、木の陰から男が一人こちらに発砲してきた。


パン!! 


「うおおおおお!」


レンが立ち上がりその男に飛び掛かった。


そしたらまた一人、また一人と顔を出し銃を構え、こちらに銃口を向けてきた。


レンは銃弾を避け 一人の男を押し倒しナイフで男を切りつけようといたが、男もまたナイフ握ったレンの手を押さえ阻止しようとした。


(だめだ。 このままではレンがやられる…。)


心拍数がもうこれ以上は上がらない程にドキドキしていた。


足がすくんで動けない状況なはずだった。 もう終わったとまで思えるような状況だった。 


なのに私は自分の体とは思えない行動をその一瞬で取っていた。


1人、また1人と首元をナイフで切りつけていった。


背後から撃たれようが、瞬時に避け 1人、また1人と切りつけた。 背後から撃たれることも相手がどうゆう動きをするのかも知っていたかのようになぎ倒していった。


男たちは倒れ 首を押さえていた。 そう長くなく絶命するだろう。


レンが戦っていた男はそれを見て完全に戦意喪失したのか抵抗していた手の力が弱まりレンは男の喉元も掻っ切った。 


「はぁ…はぁ…」


「ティナやったな。それにしてもお前今のって…」


「見えたの。」


「え?なにがだ?」


「相手の動き、それに自分がどのように動けば相手を倒せるのか。 気づけばすべて終わっていた。」


「…」


「俺もさ、ティナがこうゆう状況に持っていくって感じたから思いきって突っ込むという選択ができた気がする。 それにティナのさっきの動きあいつらなんかよりはるかに上の動きだったぜ。」


(そう。 私は昔にもこうゆうことを平気でやってきた感覚をまた感じた。 1度 2度ではない。 何千、何万としてきた程に。)


「ねぇレン、あり得ないと思うけど 私たち過去にこうゆう経験したことあるのかな?」


「あるわけないだろ。と言いたいとこだが、俺も初めてではない気がする。

そもそも昨日まで普通の高校生だった俺たちがこんな戦い出来る訳がねえからな。」


「だよね。」


(やっぱり私は過去にも同じように戦ってきた感じがする。)


(過去? 私は過去に戦ってきた…?)


「あのティナに似た女の人が言ってたことと関係がありそうだな。」


「うん。」


(でも 私はまだ経験していないから未来のことがわかる訳がない。過去の事は知れても未来まではわからない。 それなのになんで手に取るようにこの後の展開がわかるの? それだけならまだしもさっきの動きは過去が見られるどうこうの話ではない。)


(このことはとりあえず近代町についてから考えよう。)


「ティナもう一度さっきのような動き出来るか?」


「大丈夫。 まださっきの感覚は残っている。」


「それにこの先の貯水槽に30人はいるよ。」


「30…?! かなり多いな。 俺もさ 今の戦いでなんか体が疼くんだよな。 ティナと同じように動けるかわからねぇけど 10人ならやれる気がしてきた。」


(私は30人だろうが100人だろうが、やれる。 今は自分を見失う方が怖い。)


「このまま突き進もう。 もしかしたらまだ抵抗している人たちも近代町にいるかもしれない。」


「そうだな 急ごう。」


(私たちは 貯水槽に向かうまでに立ちはだかる組織の人間を次々と薙ぎ払った。)


(ここまでに10人は切っただろうか。)


「レンあと少しで貯水槽だよ。 ここからはもっと強いやつがいるはずだから用心して。」


「ああ。 ようやく感覚が掴めてきた。 これなら銃はいらねぇかもな。」


「うん。 この調子でいこう。」


(ただ、少しこの先の展開に胸騒ぎを覚えていた。私はそれを知っている。)


【その頃 ティナたちの動きを影で見ていた男がいた。】


「なんてやつらだ…。貯水槽にたどり着く前に死んでると思い、きてみたら待ち伏せしていた仲間が一瞬であいつらにやられた。俺もあいつに殴られたから わかったが、とんでもなく強い。」


「それにあの男もだ。 女ほどではないが、あの動きは俺たちの戦闘スキルよりはるかに上だ。」


「くそっ! 俺は何をやってるんだ。 あいつを殺すつもりできたのに足が震えやがる。」


「仕方ねぇ。 やるか。あいつらをやって俺は娘の元に帰る。 それで終わりだ。」


【ティナたちは貯水槽についていた。】


「はぁ…はぁ…」


「やっぱりすごい数だな。 ティナまだやれるか?」


「大丈夫。 まだ体は動くよ。 動けるうちに全部倒してやる。」


「ああ。 俺も続く!」


武装した男、女の組織たち。 何人倒したかもわからないぐらいの死体がそこら中に転がった。


「ティナ…大丈夫か?」


「うん…でもちょっと疲れてきた」


「ちょっと休むか?」


そして、一人の男が私たちの前に佇んでいた。


「いいえ、まだ1人残ってたみたい。」


私は目の前の男に一言呟いた。


「あんたも死にたい? それとも降参する?」


男は冷静な顔付で言い返してきた。


「1つ聞いていいか?」


「お前が強いのはわかった。 だが、これほどまでに戦おうとする理由はなんだ?」


「理由? 守りたいものがあるから。 それにこんな世界望んでいない。 私は生きたい。そして会いたい人がいるから。」


「そうか。お前が殺してきたやつにも守りたいものがあったはずだ。 家族もいる。 だがしかし俺たちの戦う理由もお前と一緒だ。」


「何が言いたい? 私を先に狙ってきたのはお前らだ。 それに意味が分からない計画のために一般人を殺害したり戦わせようとしてるお前らなんかと一緒にするな。」


「ティナの言う通りだ。 理由は一緒でもお前らがやろうとしていることは残虐すぎる。 俺たちはお前らが言う守りたいものとは別もんだ。 家族がいるから? そんなの理由にならねぇよ。」


「…」


男は何も言えない状況でタバコを吸い始めた。そして1口吸うと男は口を開いた。


「お前の名前 実話聞かされてなくてな。 名前はなんて言うんだ?」


「ティナ答えなくていいぞ。 こいつは俺が今から始末する。」


「待ってレン。」


「星咲。 星咲ティナ。」


「星咲? 星咲ティナか。 なるほどな。 俺は武田セイジって言う。 俺にも大事な娘がいる。 お前らと同じぐらいのな。 俺の戦う理由はそれだ。」


「娘? じゃあ あんたが死んだら娘はどうなるの? それをわかった上で私に殺されるつもり?」 


「馬鹿言うな。 誰がお前なんかに殺されるか。 俺はお前を今ここで倒して娘の元に帰る。 それだけだ。」


「ティナもういいか? こんなやつ俺がすぐにやってやる。」


「ううん。 こいつは私がやる。」 


「女だろうが、容赦はしないぞ。 お前の強さはわかっているんだ。 手加減して勝てるほどお前は弱くないってことがな。」


「わかった。ティナこいつはさっきのやつらとは違うぞ。 気をつけろよ。」


「わかってる。」 


(でもこいつの動きは何故か私はわからない。 何故? 今までのやつらと本当に違う。)


男はタバコを捨てた。


「じゃあやるか。」 


私はナイフを構えた。 


男もまたナイフを構えた。


「さっきのこの女の動きは目で捉えるのがやっとだった。

あれは軍人の戦い方とも武道の戦い方とも違う。」


「動きがとんでもなく早い。 まるで瞬間移動してるかのような動きだった。あの踏み込む体制には気を付けないとな。 こっちから攻めればそれも出来まい。」


「私は感覚を研ぎ澄ませた。 一発でやらないとやられる。 間合いに入った瞬間には相手を切りつけないと逆にやられる。」


「うおおおお!」


男が突っ込んできた。


私はナイフを逆に持ち替えた。


「まだ…。 あと少し…。 間合いに入った。今だ。」


男はナイフをティナの胸元に突いた。


だが、その瞬間男の前からティナ姿が消えた。


「なに?! どこ行った?!」


「ここだ。 後ろからナイフで男の背中を切りつけた。」


「ぐはっ…」


そう私はとっさにしゃがみ、相手の背後に回った。


だが男は今までの相手とは違いすぐに私の腕を掴み放り投げた。




「うっ 効いてない…?」


すごい勢いで吹っ飛ばされたと思ったら男は追い打ちをかけてきた。


「ティナ! 待ってろ!」


レンが叫ぶ。


くるな! これは私の戦いだ! 邪魔するな!


レンがピタッと止まった。


「ふっ 所詮はまぐれだ。 もうあいつはすぐには立ち上がれないはずだ。 これで終わりだ。」


するとあの女の目から光が消えたのを俺は見た。 時間が止まったように。


「な、なんだこの殺気は… 体が動かねぇ。」


(俺は持っていたナイフを落としそうになるが、なんとか耐えた。)


すると女が持っていたナイフを投げ俺の頬をかすめた。

この瞬間俺は動くことができた。


そして気づけば目の前にいた。 とっさにナイフを振ると向こうもナイフで切りかかってきた。


(2本もってやがったか。)


ナイフとナイフがぶつかり合ってカキン!という音が響いた。


そしてティナは、持っていたナイフで相手のナイフを弾き飛ばし素手で男の顔を殴った。


物凄く早いパンチに男は何もできなかった。


(だめだ。 こいつの拳はやはり重すぎる。こんな細い腕のどこにそんな力が…。)


気付けば男の上に乗り殴りつけた。


そして血が滲む拳を止め男に問いかけた。


「自決してもいいし、このまま私に殺されてもいい。 どっちがいい?」


「…殺せばいい。 お前の勝ちだ。 ティナ。」


私は何故かこの男から初めて名前で呼ばれたとき、変な違和感を覚えた。


「あ、そう。 じゃあ自決して。 もうあんたにはようはない。 あんたもそれでいいでしょ? どうせ私を殺せなかったらどのみち国に殺されるんだから。」 


「でもまだ死んでもらったら困る。 いろいろ聞きたいこともあるし。」


「任務以外の事は何も知らない。 これは命乞いでもなんでもない。 俺はお前たちを殺す事と国の計画以外は何も聞かされていない。」


「ふーん。 じゃあもう勝手に死んで。 私たちは早く近代町に行かないといけないから。 じゃあこれナイフ。 逃げてもいいし覚悟決まったら自分で自決してね。」


「俺は何も言えなかった。 完敗だ。だがこいつとならもしかしたら…俺は。」


「ああ。 もういけ。 お前らが倒したやつらがほとんど残ってた組織のやつらだ。 近代町にはもう数えるほどしか残っていないだろう。」


「あと有益な情報かはわからないが、例の人というのがいてだなお前…いやティナのことをよく知ってる人物がいるんだ。」


「?!」


「ん?知ってるのか? その方が近代町に来る手筈になっている。 今日の夜だからそろそろか。」


「レン。いこう。」


「あ ああ。 こいつ本当に見逃していいのか?」


「うん。 セイジさんだっけ。 その 教えてくれてありがとう。」 


「… ふっ。完全に負けだ。 早くいけ。」


私たちは軽く頷き走って近代町に向かった。


「さてと、最後に娘と電話で話して俺は自決するか。」


するとすぐに電話に出た。


ヒナか? 父さんだ。 


『負けた組織の人間がよくまぁ娘なんか電話してられるな。』


「?! 誰だお前は? 娘はどうした?!」


『殺したよ。 言わなかったか? 任務に背くやつは友人だろうと家族だろうと皆殺しだと。』


「な、なんだと…? お前は誰なんだ?」


『ただの組織のメンバーごときが知るなんて100年早いが、もう死ぬんだ。冥土の土産に教えてやる。』


『国のトップに仕える人間とだけ言っておこう。それからもしそこから生きて出た場合お前も逃げした女同様に我々が始末する。 お前の娘より残虐にな。 それじゃあ。』


俺は叫んだ。 俺のナイフは首元に当てていた。 娘の後を追うかのように。


するとふとティナの戦う姿、目的に向かって突き進んでる姿を思い出した。


「なぁヒナ。 父さんまだ生きていていいか?


お前のとこにいくのもう少し先になってもいいか?」


(電話の野郎も国の連中も許さねぇ…。)


俺は首元からナイフを離し地面に突き立て、歯を食いしばり泣いた。


【武田セイジ 38歳。ティナに敗れる。 この時点で組織のメンバーではなくなった。それと同時に最愛の娘までも信じてついてきた国に奪われたのであった。】

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