第4話 生きるか死ぬか
外に出た私たちは想像していたより遥かにひどい現実を見た。
家は燃え、気分が悪くなる程の生臭い空気の匂い。 見渡すとそこら中に人が転がっていた。 手には銃やらナイフを持っていた。
人が死んでいることの予想は出来ていた。 もう戦いは始まってるのだから。 でも想像を絶したのはこの光景ではなかった。 もう既に戦いが終わった後のような静かさとあれだけ普段賑わっているこの近辺に誰一人いないゴーストタウン状態になっていることだった。 叫べばどこまでも届きそうなぐらい静かだった。
「おい...どうゆうことだ? 死体だらけじゃねーか。」
「ひ、ひでぇなこれは。 ついさっきまで生きてたって感じのやつもいるな。」
(気分が悪い...吐きそうだ。)
気持ちを固めて出てきたつもりだったけど、この現実に頭が一瞬真っ白になり、足が震えてしまっていた。
みんなが私の肩に手を置いた。
「大丈夫だ。 俺たちがついてる。」
「ええ そうよ。 今はとりあえず目的に向かって進むだけ。 そうでしょ?ティナ。」
みんな口ではそう言っているが、手が震えているのが伝わってきた。 私だけじゃない。みんな心の底から私と同じように感じている。 本当は逃げ出したい程に。
私は、軽く頷いた。
(進むしかない。)
私たちは焼けた死体、殺し合った死体、自決したであろう死体、抵抗も出来なかったであろう親子の死体を横目に歩きつづけた。
直視はせずそれが一体なんなのかを確認する程度に。
すると、爆発音が響き渡った。
私たちは一目散にコンビニの中に逃げ込んだ。
爆風で逃げ込んだコンビニの窓ガラスが割れ、並んでいた商品が吹き飛んだ。
「おい、無事か?」
「う、うん。 ちょっとガラスで指を切ったけど大丈夫。」
「それにしても爆弾まで使ってくるとは思わなかったな。」
「無茶苦茶しやがるぜ。」
「ちょっと待って! 誰かこっちに近づいてきた!」
私たちは商品棚の隙間から入り口を見た。 こちらに向かって男2人 女1人がナイフのようなものを武装して近付いてきた。
【やらなければやられる】
まさにそんな状況だった。
3人はコンビニの中に入ってきた。
すると陳列された商品をカバンに詰め込みだした。
(こんな状況だ。 盗みなんて大した問題ではない。)
私たちは息を殺しながら隠れていた。 その時、ヒマリが小さく口を開いた。
「今がチャンスだと思う。」
「え、なにが?」
「やるなら今だと思う。 油断してる今なら。」
ヒマリが言い放った言葉にみんな 最初は一瞬戸惑ったけど、すぐに理解した。
そしてなにより先に見つかる前にやれば逃げられるリスクも回避できる。逃げられて応援を呼ばれるほ方が面倒だ。 一発で仕留める。
それに私たちの方が数は多い。
まず レンは飲料売り場にいる男を。イオリはレジを漁ってる男を。
トイレに行った女は...
「私がやるよ。」
そう私はもう既に覚悟を決めていた。 というより あの女は見たことがあり、気付けば殺意が湧き上がっていた。
「わ、わかった。 じゃあティナは女を頼む。 やばくなったらすぐ加勢するからな。」
こくりと頷く私。
自分達以外はここにいないと思って完全に油断している。
私はしゃがみながら本棚に移動した。
後ろを一瞬見るとイオリが男の口を押さえ首を絞めていた。
もう戦いは始まっているんだ。
仲間のその姿に改めて実感した。
レンは 飲み物をカバンに詰め込んでいる男の背後にゆっくり近づこうとしている瞬間だった。
レンが私に合図を送ってきた。
私がトイレに入る前に気付かれるからだ。
レンが行動するのをじっと見ていた。
その時だった。 飲料水が入ってる冷蔵庫のドアガラスにレンが一瞬映ったのか、すぐに男は振り返った。
「だ、だれだ てめぇ!」
レンはすぐに男の口を塞ぎ首を絞めた。
その声にトイレにいた女が気付いた。
私はすぐにトイレに駆け込み女が出てくる瞬間を襲った。
わたしとその女は目があった。
『い、いた! ティナって女いた...よ』
一瞬の出来事だった。 私はその女の背後に周り口を押さえながら持っていたナイフで首を切りつけた。
声が掠れていった。
私もとっさの行動で自分がなにをしたのか女が息絶えるまでわからなかった。
血しぶきもあがりトイレという密室は血に染まった。
すぐにみんなかけつけてきた。
男2人は気絶してるのか レンとイオリは男2人を引っ張りながら一緒に連れてきた。
「ティナ...」
最初に一言を放ったのはレンだった。
「私は大丈夫。 でも殺しちゃった…。」
「仕方ねぇよ。 もう俺たちはこうするしかないんだから。」
「そうだね。 でもまさか叫ぶとは思わなかった。」
「顔も見られたしこうするしかなかったんだ。」
「わかってる。」
いきなりレンがナイフを取り出した。
「俺もこいつに顔を見られた。このまま生かしておくわけにはいかねぇ。」
「え?」
レンはさっき気絶させた男の喉元をナイフで切った。
すると同時にトオルも男の喉元を切りつけた。
「これで俺たちを見たやつは誰も、いない。 目を覚まして後を追ってくることもない。」
「う、うん。」
みんなしっかり覚悟が決まっていた。
それを後ろから見てたトオルとヒマリは私を見てこくりと頷いた。
「みんな無事でよかった。」
「俺たちは食料をカバンに詰め込んでくる。」
「わかった。」
レンとイオリはトイレの中に3人の死体を隠した。
「これからも襲ってくるやつ、敵対するやつは同様にやらないとな。」
「そうだな。 気絶させるなんて生ぬるいこと考えてる場合じゃない。こいつらの私物を見てみろ。」
「銃...?」
「そうだ。 従うものには国から銃が支給されてるんだ。」
「平気で向こうも殺しに来てるなら容赦はいらねぇってことだ。」
(そう。 わたしがしたことは間違っていない。
これからもこうゆうことは当たり前のように起こる。)
私は女が持っていた銃を奪った。
これでもう少しマシに戦えるはずだ。
「おい みんな食べ物を詰め込んだぞ。 これだけあれば一週間は持つはずだ。」
「すぐに他のやつらもここにくるはずだ。 場所を変えよう。」
「そうだね。 敵なのか味方なのかを確認する方法はないかな。」
「それなんだが、ひとつ心当たりがある。」
イオリが言った。
「心当たりって?」
「これを見てみろ。」
ワッペンみたいなバッジを見せてきた。
「これは?」
「さっきのやつらが服に付けていた。恐らく国が配布してる忠誠の証みたいなもんだろ。」
「ってことはこれを付けてない人は...」
「そう。 国に反発して除外された俺たちと同じ立場の人間ってことだ。 それも肩にみんな付けていた。」
「肩を見れば敵か味方かすぐにわかるってことか。」
「そうゆうことだ。 向こうだって数が半端じゃないから こうゆう印がないと仲間撃ちが起こってしまうからだろうな。」
「なるほどな じゃあ判別の方はなんとかなりそうだね。」
「うん。 そこでこれからなんだけど 近代町に一回戻ってみようと思う。
あそこは最後にこのことが知らされた地区だからもしかしたら 抵抗してる人たちがまだいるはずだと思う。」
「確かにな。 あと俺からも言わせてもらうと病院ルートを提案させてもらう。 親父の友人に会えればもっと情報と仲間が見つかるはずだからな。」
「それにこの計画が起こる前、ネットでここの病院が反対してるやつらの集まり所になるって話を既にしてるやつがいたのを思いだしたんだ。」
「なるほど。 あの規模の病院なら恐らく治療も出来、立てこもることもできるから 可能性はありそうだな。」
「だがこの人数でいくのは流石に身動きも取りづらく、すぐ見つかる可能性もでてくると思う。 そこでティナたちの近代町ルートと病院ルートに分けようと思う。」
「わかった。 振り分けは私が決めてもいいの?」
「ティナちゃんに任せるよ。」
「ああ 決めてくれ。」
「ヒマリとイオリとトオルは病院に。」
「私とレンは近代町に行く。」
「明日の夜7時にわたしとレンは病院の方に合流する。」
「これでどう?」
「わかった。 それでいこう。」
「じゃあ早速 行動しよう。 暗くなってきたから少しは歩きやすいだろう。」
「じゃあまたここで。」
そういうと私たちは軽く手を振り逆の道を歩き出した。
その頃 ~同時刻 近代町~
【ティナに殴られた男が任務のためまだ近代町にいた。】
(従ったやつは約400人ってとこか。)
(抵抗したやつは30人と少なくはあったが、任務とはいえ人を殺めるのは慣れない。)
(俺にはまだ小学生の娘がいる。 妻は3年前に亡くなり、今は娘だけが生きる希望だ。 俺は元機動隊として実績を積み重ねてきたが、国にそれが評価されこの計画が始まったとき組織の一員として組み込まれた。)
(もちろん最初は納得いく理由ではなかったから反対派だった。 だが、これに従わないと家族までも国は手をかけると言った。 そう俺たちはただの捨て駒。)
(医者、国の関係者、使える戦闘兵以外には容赦しない。)
(仕事として割り切るなら簡単だ。 だが、もう俺の中でこれが仕事として呼べるものではなくなっていた。)
(そういえば あの女の拳すげぇ強烈だった。体格もふつうの女と変わらなかったのにどこからあんな力が出るんだ?)
【それにあの目…。】
(なんであの時俺を殺さなかった? もし国が言うように本当に危険なやつならあそこでとどめを刺すはずなのに何故俺を生かす必要があったんだ?)
「ふっ ガキに弄ばれるぐらい俺もなまったってことか。」
「おい! お前なに休んでるんだ!」
「もう選別も裏切者の始末は終わったとこだ」
「そうじゃない! たった今 山道の偵察班からの連絡であの女と男1名がこちらに向かっていると連絡があった。」
「なに?! あいつがこっちに戻ってくるだと?」
「あぁ。 だからお前も来い。 あのお方が来る前に始末できれば俺たちはきっと昇進だぞ。」
「わかった。 先に行っててくれ。」
「今度は油断しない。 次は本気であの女を殺してやる。」
(だが上からの命令ではないとすると、この状況は読めなかったのか?予想外なことが起こっているのか?)
(もう俺は昇進なんてどうでもよくなっていた。 ただあの女にやられたことが納得できないからだ。)
(それに例のお方の姿を見れるチャンスでもあるからな。)
「こっちの数は50人弱。 相手は二人。 馬鹿な連中だ。 もう引き上げたとでも思ってるんだろう。」
「いくら強くてもこうゆうとこはガキだ。俺がいくまでにもう殺されているだろう。」
俺は銃を持ち、あの女がやってくるであろう山道へと向かった。
(組織が待ち伏せしているのも知らないティナたちは近代町に戻るため、また山道を歩いていた。)
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