Ep.330 地の祖精霊との邂逅
「ほんでー。君は誰〜?」
明るく笑っていた地の祖精霊は僕に首を傾げながら見据えてくる。
「初めまして。僕はクサビ・ヒモロギと言います。地の祖精霊様のお力をお借りしたくて来ました!」
「よろしくクサビ! アズマ達の友達なら君もボクの友達さ! いいよー!」
地の祖精霊はあっさりと協力を承諾する。
…………あれ?
順調すぎる運びに僕はむしろ唖然としてしまった。
あまりにあっさりすぎて拍子抜けしてしまったのだ。
「ははは。彼は少し特殊な境遇を持っててね。まずはそれを話さなきゃいけないだろう。クサビ、話してやってくれるかい?」
「……あっ、そうですね! わかりましたっ」
アズマにそう促され、僕はハッと我に返ってこれまでの経緯を地の祖精霊に話した。
「――へぇ。時ちゃんが君をこの時代に送ったんだね! で、すでに火ちゃんの協力を得ているあたり、本気なんだね〜」
時ちゃんというのは、おそらく僕をこの時代に送ってくれた時の祖精霊のことだろう。その要領だと、後者は火の祖精霊のことか。
「アグニ……火の祖精霊と契約してることがわかるんですか?」
「わかるさぁ。君の魔力の中に火ちゃんの魔力を感じるからねっ! 面白そうだしボクも着いていこうかなぁ〜」
「……え!? いいんですか?」
僕は地の祖精霊の快諾に驚きの声を上げる。てっきり過酷な試練を課してくると思っていたからだ。
「ふふっ。……地の祖精霊様はね? 人間が好きな方なの。でもこういう場所を好むから人間と会うことが少ないのよ。だから会えさえすれば力を貸してくれると思っていたわ」
サリアがクスクスと笑いながら僕に耳打ちする。
……なるほど。地の祖精霊の性格的な要因もあったのか。話が早くて助かるなぁ。
僕は内心でホッと胸を撫で下ろすのだった。
「でもでも〜、そうだなあ。試練じゃないけど、少しボクと遊んでおくれよ〜! そしたらボクも君と契約してあげるからさっ!」
「……遊ぶ?」
地の祖精霊の言葉に僕は首を傾げた。
……もしかして試練の一種なのだろうか? でも遊びなら気は楽だ。
などと考えていると、アズマが僕の肩を叩く。
振り向いてみると、アズマは引きつった笑みを浮かべながら握り拳に親指を立てていた。
「頑張れ、クサビ!」
「……へ?」
アズマの応援の意味がわからず間抜けな声を出す僕。サリアは苦笑し、シェーデは妙にニヤついて、ウルグラムとデインは興味なさげにしていた。
…………嫌な予感がする。
「よーし! んじゃまずは鬼ごっこしよう! ボクが鬼だよ! さあ捕まえちゃうよ〜ん!」
地の祖精霊は楽しそうにはしゃぎながら手元に光を集めて何かを呼び出している。
それは徐々に形作られて、地の祖精霊の3倍程大きなハンマーが現れた!
異様にカラフルなデザインのハンマーを地面に叩きつけると、ピコピコと音が鳴る。
……びっくりした。あれなら当たっても痛くなさそうだ。
と、少しだけ安堵した溜息が漏れる。
「……クサビ、あれは玩具の類いだが……意地でも避けた方がいいぞ」
「ふぇっ?」
シェーデの暗く沈んだ言葉に情けない悲鳴が出た。
途端に安心していた気持ちはどこかへ霧散してしまっていて、冷や汗が出てきた。
「――10数えるから逃げ回ってね! あ、この原っぱから出たら負けだからね〜! いーち! にーい…………」
「う、うわわわ! 始まっちゃった!」
地の祖精霊のカウントダウンが始まる!
僕は慌てて反転して駆け出し、地の祖精霊から距離を取る。
しかしこの秘境の空間は精々半径30メートル程の広さしかなく隠れる場所も無い。
純粋にただ逃げ回るしかないのだ。しかも相手は空を飛んでいる!
「――はーち! きゅーう! じゅう! いっくよ〜!!」
地の祖精霊はハンマーを大きく振りかぶると、ギュンと加速させて僕に突っ込んできた!
――早いっ!
瞬く間に追いすがった地の祖精霊を前に、僕は咄嗟に横に転がる!
その直後ハンマーは僕が居た場所に勢い良く振り下ろされ、ズガンッ! と地面を砕いた!
破片が飛び散り、土煙が上がる。
――玩具のハンマーの威力じゃない! 衝突音が大きすぎてピコッなんて全然しないじゃん!
あれはヤバイ……!
僕は血の気が引いていく感覚を覚えながら、地の祖精霊の遊びは命懸けになることを身をもって知る。
「おっ! いいねぇ〜! よーしもっと早く追っかけちゃうぞ〜っ!」
地の祖精霊がハンマーを振り回しながらさらに早く追いかけてくる!
瞬時に目の前に追いついた地の祖精霊のハンマーが僕の頭上から叩きつけようとしてくる!
僕は強化魔術を発動させて即座に飛び退きそれを回避したが、砕かれた地面の破片が僕の体を打つ。
しかしそんなものを気にしている暇はなく、追撃してくる横薙ぎの玩具を、前方へ跳躍して地の祖精霊を飛び越えて、そのまま加速して距離を取った。
もはや常に強化魔術を駆使しないと直ぐに追いつかれてしまう状態だ。
「おっ! いいよクサビ! 楽しいよ! さあどんどん行くぞーっ」
「い、何時まで続くんですかっ!?」
「ボクが満足するまでさっ!」
その絶望的に無邪気な返答に僕は青ざめる。
そして助けを求めるようにチラリと仲間達に視線を向けると、皆避難の距離を確保して観戦モードだった。
「クサビ……怪我したら治してあげるから……頑張ってねっ」
サリアは両手拳を握って心配そうにしながらも笑顔を向けて応援してくれた。
聖女様の有難いお言葉は、何故か僕の絶望感を増長させたのだった。
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