Ep.302 火の試練
「……初めまして、火の祖精霊様。僕はクサビ・ヒモロギ。……時の祖精霊様のお力を借り、500年後の未来からやってきました」
「…………ほぉ」
祖精霊の顔が僅かに動いた。
興味が引かれたのか、僕は続けて話を続ける。
「この時代で封印された魔王が、僕がやってきた時代で復活し、世界は魔王の侵攻に晒されています……! 僕は勇者として世界を救う為、失われた神剣の力をこの剣に宿す為に来たのです!」
「……ほう、それで我に何を望むのだ?」
祖精霊の質問を受け、僕は決意を込めて答える!
「……剣に力を取り戻すには、魔王の封印を解かねばなりません。ですがその前に、同等の封印の力が必要です。……どうかその手段に心当たりがおありでしたらお教えいただきたいのです……!」
「……ふむ。なるほど」
祖精霊の表情には変化がないものの、興味を持ったようで相槌を打つ。
「魔王の封印、即ち退魔の精霊をその剣に宿し直し、別の封印を魔王に施すという算段か。……であれば手段はある」
「――本当ですか!?」
祖精霊の肯定に僕は身を乗り出して問う。
「我らが力を結集して作りし勇者の剣、即ち解放の神剣と、同じ事をすれば良い。封印に用いる為の剣を作り出すのだ」
「そうか! そういう事か!」
合点がいったというようにアズマが表情を明るくする。
確かにそれなら、神剣と同じ効力を発揮出来る可能性がある。
「解放の神剣を打った時、時を除いた各地に散りし祖精霊の力を結集したが、封印剣の創造となれば、加えて時の祖精霊の力も必要となる」
「それでは……火、水、風、地、光、闇……そして時の祖精霊の協力が必要ということになりますね……」
サリアが祖精霊の言葉に頷きながら呟く。
「そうだ。……そしてその手始めが我というわけだ」
火の祖精霊は表情を崩すことなく僕を見つめる。
「……アズマとのよしみで汝に知識は授けた。…………だが、我ら祖精霊の力を得るには、その試練を受ける他無い。我が力の一部を授けるには、我の試練を突破し、我を認めさせてみよ!」
「…………」
僕は祖精霊のその言葉を理解して、ごくりと息を呑む。
祖精霊の試練は、かつて僕の精神を破壊しかけた程に厳しいものだった。
……でも、その試練を受けるしか道がないのなら、僕は逃げるわけにはいかない!
僕は意を決したように祖精霊を見据えた。
「……はい! その試練、是非受けさせてくださいっ!」
たとえどんな試練だったとしても、必ず乗り越えてみせる!
僕のその覚悟を受けて、火の祖精霊は静かに頷いたのだった。
「時を越えし者よ、その強き意志を我が試練にて証明せよ」
火の祖精霊は右手を僕に向け、掌を上にして差し出すと、その手の中に赤い炎が渦巻いて現れた。
と同時に僕の周りが不思議な空間に包まれていき、アズマ達はその空間の外側で見守っていた。
火の精霊がその掌の上に作った炎は、やがて小さな炎の人型となり、ゆっくりと地面に降り立った。
轟々と燃え盛るその体の中心には、赤い石のような物が輝いている。
火の祖精霊より生み出された、さながら炎の精霊といったところか。
「我が課す試練は至極単純ぞ。汝一人でそやつと相対すのだ! 勇者の本懐を示せ!」
火の祖精霊が言うと同時に炎の精霊が動いた!
人型になった炎の精霊は、両手をかざすと僕に向かって無数の火球を放ってきた!
「……っ!」
僕は咄嗟に地を蹴って横に回避した。
火球は僕を掠めることなく地面に激突すると、爆発して周囲を破壊する。
しかし僕の頭上に新たな火球が現れ、僕は身を翻してそれを避けた!
そして着地した僕は再び火球を躱すために駆ける。
「クサビ……大丈夫かしら……っ」
「今はクサビを信じるしかない。僕らは見守るんだ」
サリアの心配する声が聞こえ、アズマは真剣な眼差しで僕を見ていた。
そうだ。これは僕の試練だ。僕の力と知恵で乗り越えるんだ!
――炎の精霊は絶えず、着弾すると爆発を起こす火球を放ち続けてくる。
これを剣で防御するのは悪手だ。だからこうしてひたすらに避け続けるしかないのだ。
なんとかしてこの弾幕を掻い潜り、炎の精霊に接近しなければ!
「……ッ!」
炎の精霊の攻撃は、間断なく僕を狙っている。
僕がその場から動こうとすると、すぐさまその軌道を変え、僕の行動を読んで攻撃してくるのだ。
このままではジリ貧だ……!
炎の精霊は僕を試すように、さらに火球の種類を増やしてくる。直線に飛ばしてくる火球に加え、弧を描くように僕を追尾する火球が、僕の行く手を阻むところに着弾してくる。
僕はそれを凌ぐ為、咄嗟に高く跳躍してしまった……!
「……しまったッ!」
空中で僕は自分の迂闊さを呪う。
狙っていたかのように火球の誘導弾が左右から僕に迫っていた!
僕は片方の火球に、圧力を高めた水魔術を放って相殺を試みる。しかし力負けした水弾は掻き消されてしまった!
……やはりシズクがいないと水魔術は力が発揮されないッ!
「くっ……!」
僕は止むを得ず腕を交差して、全身に強化魔術を練って防御態勢を取る。
次の瞬間、爆音と共に激しい衝撃と共に僕は吹き飛ばされてしまった!
「あぐっ……!?」
着弾時の爆風で僕は地面に叩きつけられる。
しかし僕は痛みをこらえながらも立ち上がり、必死に足を動かした。
すぐに動かなければ追撃で木端微塵になってしまう!
炎の精霊との距離を縮められずに僕は歯噛みする。
相手は疲れる様子もなく攻撃を繰り出し続けてくる。このままではいずれ力尽きるのは僕の方だ……!
迫る火球から逃げ回りながら、僕は思考をフル回転させていた。
……この難局を打開するには、やはりあれしかない。
僕はひたすらに駆ける。僕が通過したあとが次々と火球によって爆発の連鎖を起こしていた。
そして追尾火球弾が前方に着弾して爆発するのと同時に、足に溜めた強化魔術を解放して、瞬間的に加速してその場を離れる。
炎の精霊の視界の外へと飛び出し、僕は一瞬立ち止まり剣を構えて精神を研ぎ澄ませた……!
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