イブリースの罠
あの日以降イブリースの怪しい動きはなかった。静かすぎて逆に怖い。メアリやクォーツ、妖精たちに探りを入れてもらっても特になにもないと言う。だけど1つだけ気がかかることがある。それは
「闇の魔法をどこからイブリースは作り出しているのかしら?」
「そうだね。それが1番の謎だ。」
イブリースはそもそも魔法が使えない。奪うことしかできないのなら
「きん……じゃなかったアイオライト様、昔闇の魔法を使っていた人で殺人や重傷を負う事件など起こったことはありませんでした?」
私と同じ手口で魅了を奪ったならそういうことがあったはず。
「闇の魔法を奪う……本来闇の魔法を使う人には体にある跡が残るんだ。俺の場合は背中に……」
といきなり菫青は上着を脱ぎ背中を見せた。
「羽みたいな傷跡ね……」
「こういうかんじで体の一部に羽が跡として残るんだ。」
今までのイブリースのことを思い出そうとしても傷跡と思われるところはなかった気がする……。
「あと、アイオライト様じゃなくて、アイラって呼んで?」
アイラは裸のまま私に近づく。最近の私はどうもおかしい。アイラに対してドキドキしてしまう。
「わ、わかったから!服きて!」
「ぶへっ!?」
私は勢いよくアイラに上着を投げつけた。
「ちなみにだけどこの世界は使える魔法は生まれつき?それとも後から覚醒することはある?」
と質問し、アイラは上着を着ながら答える。
「生まれつきがこの世界では当たり前だ。覚醒は聖女以外ありえない。イブリースは聖女とされているが、あれは本人が言っているだけ。はっ……!イブリースはもしかするとあの禁忌を使ってしまったかもしれない……!」
「禁忌って……」
禁忌の魔法ってなに?どういうこと?アイラは何かに気づきハーデスを召喚する。
「ハーデス!」
「どうした。せっかくセレーネと……」
「なぁ、ハーデス。イブリースは最後にどの神に会ったか分かるか?」
「やはり、アイオライトも気づいたか。」
「エリスじゃないか……?」
「そうだ。エリスは昔争いの原因の女神と言われ、イブリースの先祖に取り憑いて俺たち闇の魔法使いの半分で反乱軍を作り、国を混乱させた。」
女神エリス。初めて聞いた名前だ。こちらのチイの記憶を覗き込んでもエリスのことは特に情報もなかった。
「でもなぜエリスが?」
「エリスはヘーラーという女神に嫉妬してエリスはヘーラーが納めていた国を滅ぼそうとした。そのときエリスはある女の子に目をつけた。」
「それがイブリースの先祖……」
「そしてヘーラーはチイの先祖だ。今から100年前くらいだ。」
私とイブリースが今でも因縁があるように昔からあったなんて……とんだ運命だ。
「エリスは俺たちの手で殺したのだが、魂だけが残ってイブリースに取り憑いた可能性は高い。本来ならイブリースもっといい子のはずだったのだが……」
ハーデスもまさかエリスがここまで恨んでいるとは思わなかったのだろう。今までの話からするとイブリースはヒロインではなく、ただの普通の人だということ。
「だが、あの様子じゃイブリースはエリスがいなくなってもあのザマだ。」
とハーデスはため息をついた。
「どうすれば……」
と急に私たちのいる部屋の扉が開いてそこには
「あら?こんなところで油売って〜」
「イブリース……!」
噂をすれば本人登場。それにアポもなしに入ってくるなんて……!
「あのときはごめんなさぁい〜。だって王を殺そうとするからぁ〜」
「なにを……!」
「あらー?本当のことを言ったのよ?」
イブリースは私に罪をなすりつけようとしながらアイラの元へ寄る。
「アイオライト様!私、寂しくて……来ちゃった!だからぁ〜……」
アイラの顔を見て私はびっくりした。あんなにも嫌そうな態度出てるのにイブリースは気づかない。むしろ天才だと思う。
「残念だが、アポを取ってからにしてくれ。それか……今度の聖女祭のときに勝ったほうとしゃべろうじゃないか。最近2人の噂はよく聞くし。」
いきなりアイラはとんでもない提案をしてきた。アイラの顔を見ると
「大丈夫!」
って顔してるけど私そもそも悪役なんですけどー!?本当に大丈夫かな?
「私楽しみですわ!最後に聖女にふさわしい人の投票もありますから、今年も聖女は私で決まりですわ!あ、チイ嬢は悪魔祭のほうが似合っているかと。」
聞いてるだけで反吐が出る。でもアイラがこの世界を作ったならなぜイブリースを作ったんだ?
「ねぇ、アイオライト様……」
イブリースはまた魅了を使う。だけどアイラには効かない。だが、次の瞬間今までの魔法と少し違う匂いがした。
「イブリース……」
まずい。私は急いでアイラのハーデスの加護と私の魔法解除でアイラの体に染み付くような魔法を取り除いた。なに……あれ。まるで蛇のような嫌な感じ。私は少し冷や汗をかいた。イブリースは私が魔法を解いたのに気づき
「ふざけんじゃねぇよ。この悪魔!」
といきなり私を殴ろうとしてきたが、私はかわしイブリースの背中を取った。
「なにがしたいの?」
次の瞬間イブリースはニヤッとして私の足元に魔法陣を張った。私は魔法が効かないはずなのになぜかこの魔法陣に吸い込まれているような気がする。
「こ、これは……!?」
「残念ね。時間が来たらあなたは私のものになる。それまでばいばーい!」
「チイ!」
「アイラ!負けるんじゃないよ!」
アイラは急いで闇の魔法陣に飲み込まれる私の手を取ろうとしたが、間に合わず私は闇の中へ入り込んだ。しばらくして目を開けるとそこにはメアリ、クォーツ、妖精三姉妹たちがいた。
「みんな、大丈夫!?」
「はい……」
「くっそ!あの女!」
「本当に許さない!」
「引っかかった自分が許せない!」
みんな悔しがっていた。私も悔しい。イブリースの思い通りにはさせない。しかしこんな暗闇でできることはほとんどない。それに脱出の仕方も分からない。
「……っ!なにこれ!」
私たちの足は全て鎖で繋がれていて、魔法も使えない。こんなんじゃ勝ち目なんかない……!
足元を見るとそこには蛇が1匹いた。その蛇は言葉を喋った。
「お前……なぜここへ……」
「あなた……だれなの?」
蛇が現れたと思ったら奥にもう1人いた。
「カロット?誰と話してるの?」
「あなたは……!エリス……!」
そこには私たちにとって凶敵のエリスがいた。
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