大人への一歩
伊崎夢玖
第1話
「誕生日おめでとう!!」
パン!パン!とクラッカーが鳴る。
家族に祝われる誕生日というのはいくつになっても気恥ずかしいものだ。
しかし、今日は違う。
街に待った二十歳の誕生日。
酒もタバコも解禁される日。
「早く大人になりたい」と思っていた子供の頃の思いはどこへやら…。
今は、大人の仲間入りを許され、少しむず痒いような気持ちでいっぱいだった。
「これでやっと一緒に酒が飲めるな」と父が言った。
母曰く、どうやらここひと月ほどは、父もそわそわしていたらしい。
一緒に飲む酒を「これにしようか。あれにしようか」とスーパーの酒コーナーで母を相手に相談していたと言う。
「初めは飲みやすいものにしてみたら?」と言う母の助言のまま、ジュースのような見た目の缶購入し、飲酒初体験の俺の目の前にそれが置かれた。
「あー!これ、アタシも初めての時飲んだ!」
「度数も低めだし、後味がちょっと苦いジュースって感じだよ」
二人の姉がそれぞれ口を出す。
上の姉は長女らしく落ち着いたしっかり者な性格をしているので、どんな時も頼りになる存在だ。
下の姉は上の姉とは真逆で、グイグイやってくる目立ちたがり屋で頼りになるかと言われたら微妙。しかし、ここぞという時は頼りになるから不思議だ。
プシュッと缶の蓋を開け、乾杯の準備をする。
どのタイミングで飲み始めればいいのかとタイミングを計っていると、「飲む前に何か言いなよ」と下の姉に促された。
「えっと……やっと二十歳になりました。これからもよろしくお願いします。乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
缶のままグイッと傾けて、少しだけ口に酒を流し入れ、ゴクリと嚥下する。
上の姉が言ったようにジュースっぽくてちょっと苦い感じがするが、飲みやすい。
そして、食道をアルコールが通っているのが分かるようにカァーっとする感覚がある。
ここにきて、ようやく大人になれた実感をひしひしと感じた。
「これが飲酒…」と初体験に浸っていた。
チビチビ飲んでいると、飲んでいた缶が空いてしまった。
初めて飲んだばかりで調子に乗って飲みすぎたくはない。
が、大人になった記念にどうしてもやりたいことがあった。
空いた缶を横に置き、グラスを手に、父に差し出した。
「とりあえず、生」
一瞬びっくりした顔をした父もふにゃりと顔を緩ませ、グラスにビールを注いでくれた。
初めての父子の盃の味はかなり苦くて大人の味がした。
大人への一歩 伊崎夢玖 @mkmk_69
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます